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9話

本作は、聖女と“人外の護衛”が世界の理を巡る旅へ出る、

シリアス寄りのダークファンタジーです。


暴力描写があります。苦手な方はご注意ください。

世界観は重めですが、物語は「聖女×護衛」のバディ関係を中心に進みます。


楽しんでいただければ幸いです。


フェルベルト商会、恐るべし。

本当に富がある、品や格式がある世界は次元が違った。


一階の奥に設置してあった金属で編まれた蛇腹の扉に通されて中に入った。

そこは四人も入れば、窮屈に感じる広さで、部屋にしては不思議な作りだった。


「動きます。ご注意ください」


先導をしている行者少年は内側から扉を閉めると、そう告げた。

意味がよくわからず、疑問符を浮かべている時だった。


「きゃっ!」


床が震え、低い機械音が唸りを上げるとゆっくり部屋自体が上がっている。

感じたことのない、内臓が上がる様な感覚に思わず悲鳴をあげてゼオバンを掴む。

彼も、短く驚嘆の声を出して壁に手をついた。


「驚かせて申し訳ございません。最上階でございます」


長いような、短い揺れ上がりの時が終わり、扉が開けば、一直線に伸びる濃い赤色の敷物が敷かれた廊下。

左右に二つずつ扉があり、私達の直前上、廊下の奥には一際大きな両開きの扉が控えていた。


「お待たせしました。こちらになります」


先導が両開きの扉を軽く叩き、中から男性の声で短い返事があると、扉を開き私達だけが室内に入った。



まず、思った事は、”神々の視点”。

部屋は、広さはそこまでないが、扉の真反対にある壁が、湾曲したガラスになっていた。

五階という高さから見える景色は、ランヴォルを天から見下ろした壮大なものだった。


空は既に夕闇となっており、遥か遠くの山々は黒い山影となり、眼下のランヴェルの街には

小さく灯りが仄かな火を見せ、幻想的にも思える視界に、私も彼も言葉を失っていた。


だから、ガラスを背に立派な一枚板の机に肘を置いて、革張りの椅子に座っていた男性を見落としていた。


「…気に入ってもらえたようだね」


「っ!し、失礼しましたっ!」


驚きに、固まり挨拶が遅れた。

背の高い椅子に身体を沈め、にこにこと笑顔を浮かべている男性。


歳は四十前後で、髪には少し白い物が混じっているが量のある髪を横に流している。

笑顔を浮かべ、銀縁眼鏡の奥には垂れている目尻。

鼻下には整えられた髭があり、襟付きの白いシャツを綺麗に着ている。


「いやいや、改めてフェルベルト商会長のフェルベルトです」


「こちらこそ、ありがとうございます。聖火教巡礼助祭のミレイアと申します」


商会長が椅子から腰を上げ、伸ばした手を握り握手を交わす。


部屋には、商会長の机の前に一脚の布張りの椅子があるだけで、ガラス以外の壁は本棚になっている。


「さ、お掛け下さい。護衛殿にも椅子が必要かな?」


「お構いなく。私の事は護衛時以外は忘れて頂いて結構です」


商会長と彼がそんなやりとりをしている中で、私は椅子に腰掛けた。


良い護衛をお持ちだ、と商会長が褒めてくれたが認めるのも悔しいので、曖昧に頷いておいた。


「さて。実務的にいきましょう。貴女は巡礼業の支援者を募る為にこの街に寄っていますね」


肘を机に置き、組んだ手で口元が隠れながらも目尻は下がったまま穏やかに話始めた商会長の問いに、頷く。


「では結論から。我々は教会に一切の支援は行わない」


そのまま、表情も声色も変えずにさらりと続け、思わず聞こえた言葉が間違えたかと思い、商会長の顔を凝視してしまった。


「今回、私は貴女の護衛、ゼオバンと呼ばれる方にお礼を言いたくてお呼びしました」


「私の息子を助けて頂き、ありがとうございます」


そう言って、椅子から立ち上がって見事な礼をする商会長の姿と、本当に感謝が篭っている声色で、私は彼が唯の商人ではないと思えた。


この立場の人が易々と頭を下げるなんてあり得ないし、立場が違えば一生恩に着せて集る事も出来る内容にも関わらず、助けてくれた事に正しく礼を述べたのだ。



「ご子息が無事でなりよりだが、それについての対価は正しく受け取ている。お気になさらず」


そして、礼を言われたゼオバンも当たり前の様に落ち着いて言葉を返した。

これが本当の彼なのか、竜の力なのかは分からないが少なくとも大人のやり取りだと、私は自分が恥ずかしくなった。


「ただ、もし感謝の念をお持ちであれば教会に助力しない理由を教えては頂けないか?」


ゼオバンは続けて、商会長に言葉を投げた。

投げられた言葉を受けた方は、頷いて椅子に座ってから口を開いた。


「いいでしょう。その前に、少し暗くなってきたので灯りをつけますね」


告げて、手元で何かの操作をすると上から柔らかい火の灯りが降り注ぎ、すぐに天井へ視界に捉え、光景に思わず言葉が溢れる。


「…封入理術…!まさか、聖紋ですか…?」


「流石。優秀と言うのは本当ですな」


目の前に広がる光景で、司祭が商会を抱き込もうとしていたのか、理解できてしまった。

私は、視線を机の向こうで微笑むフェルベルト商会長に移し、ここからの動きについて必死に考える。


「…まさか、封入聖紋を買う人が居るとは思ってなかったです」


「便利ですからね。ただ、本当に高かったですよ?商館全体に埋め込むのに、資産の殆どは持っていかれましたからね」


事実だろう。

本来、理を理解し、言葉で解いて世界に力を発揮させる理術(りじゅつ)

それを予め”紋章”として刻む事で、特定の理術発動させる道具にするのが、封入理術であり、火の理は聖火教しか使えない為、封入聖火として、世に出した事で莫大な富と権力を手に入れた。

一つ手に入れるのに、十年分の給金が必要だとも聞いた事がある。


「こんな便利な物を独占し、あまつさえ商人の教示もなく金儲けと権力闘争に使っている教会は、唾棄すべき存在だと思っています」


「聖火の教えや、信徒の皆様は敬虔であると思っていますが、私にとっては聖人ウムに”札束”を握らせた教会は敵です。最も、商人としては化獣的な素晴らしさだとも嫉妬しますがね」


「私は神々も教えも敬うが、教会はその範囲にはいない」


流れる様な、フェルベルト商会長の言葉。

そこに流れる熱は、言葉の一つ一つが本当である事の何よりの証左だと思う。

そして、言われている全てが事実であり、私には返す言葉も力もなかった。


「…やはり、貴女もそれはわかっているのですね」


ここまでは、まだ小娘を気遣う様な優しさも温かな熱も篭っていたが、次の言葉には、全くの熱の無い、冷たい問いだった。


「千年未到と言われる、完全巡礼に出る理由はなんだ?」


問いに俯き、一瞬逡巡するが、決意する。

言葉を返すために、息を吸って顔を上げる。

降り注ぐ灯りが、商会長の顔に影を作り、まるで異端審問官の様な冷たさと、厳しさが表れている様にも見えるが、拳を握りしめて口を開く。


「私は…ーー」


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

感想や応援があると、続きの執筆がとても励みになります。

次話もよろしくお願いします。

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