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剣姫  作者: 冷水
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生活拠点





 ハジメが洞窟に入ると、木造の小屋が中に建てられていた。

 地面は真っ平に整地されており、入口の近くは岩が四角く人工的に切り抜かれ、横道になっている。

 小屋は壁面に沿って作られており、中に入ると斜めに外と繋がる穴が掘られており、囲うように炭があり、さながら暖炉……便宜的にそう呼んで差し支えない設備がある。

 ミカはまず、炭をつついて崩し、赤い火種がある事を確認すると、よく乾燥した雑草をカバンから取り出して火を起こしていた。


「火種が残っているか」


 入口から近い所に建てられており、小屋は風が入るような作りになっている。少し煙の臭いはしたが、気になるほどでもなかった。

 火の周囲はあえて岩場がむき出しになっており、岩を綺麗に薄く切った天板が、調理などで使われているであろう機能性が感じられた。


「そこに座って」

 ただ木を切り抜いた椅子を火の近くに置き、ミカが座るように促してくる。

 火の暖かさが、ここにたどり着くまでの寒さを中和してくれる。


(女性の部屋なんて、初めて入った……) 

 ハジメが部屋を見渡すと、簡素な机と椅子、小さめのベッドが見て取れた。何かの獣であろう皮が、小屋の寝具とは対角の位置に敷かれていた。

 壁には、板を打ち付けただけの棚があり、この部屋に唯一と言える飾り気が感じられた。紺の文様が刻まれた『白銀の剣』が、埃を被ることなく輝いていた。


「さて、君はこれから、どうしたい? 旅に出たいなら、人里へ送りろう。常識を身に着けたいなら、少し古い知識になるが授けよう。さきほどの剣の扱いを覚えたいなら、二十年くらいなら教えてもいい」

「二十年……そんなに長く、いいんですか?」

 まだ、異世界に来た実感の薄いハジメは、目の前にいるエルフの女性の時間感覚に驚いていた。

 長く生きる種族だと聞いた、ファンタジーの定番でもその認識はある。

 きっと、降り立った世界は、地球のファンタジー世界をそのまま形にした世界なのだろうと、これまで見聞きした少ない情報で判断していた。

 どこかに、ドラゴンも居るというし、魔法も実感として存在している。

「私の尺度でいえば、たった二十年、だが。君の持つ異世界の娯楽も、ぜひ楽しみたい」


 ハジメは迷っていた。

 どうすれば、目の前の女性と長く居られるかと。

 距離感が近く、胸の高鳴りを感じたのもあるが、その美しさに一目ぼれをしてしまった。

 異世界がどういう世界なのか、いずれ旅に出るとしても、その時にこの女性と共に歩めたらと、想像と妄想が頭の中を巡っていた。


「俺の能力でよければ、いくらでも使ってください! だから、ミカさんと一緒に居たいです!」

「いいだろう。よろしく頼む」

「はい! よろしくお願いします!」

「……」


 そこで、初めて困惑の表情を浮かべるミカ。

 ハジメが気になっていると、おもむろに口を開いた。

「ここには、木の実と穀物の保存食しかないんだ……」

 ミカがカバンから、古代の金貨を取り出して机に置く。

「君の力で、食べ物も出せるだろう? お金ならたくさんあるから、何か味の濃いものを出してもらえないだろうか」

 ミカの手持ち、塩の残りは小瓶に少し。木の実と穀物の備蓄はあるが、それ以外には、軍用のまずい兵糧があるくらいで、ただ生きる為だけの食事が続いているらしい。

「いいですよ。食べたい物はありますか? あと、食べられないものとか、あります?」

「肉か魚が食べたい。食べられないものはない。それと……口調は砕けた感じで頼む。これから一緒にいたいのであれば、遠慮はいらない」

「わかった」


 




・神域


「ねえ、たかが人間を観察する為だけに、僕が呼ばれた訳? それでもお前、僕と同格の神なん? プライドないの?」

「ぐぬぬ……」


 神の居る領域にて、老人の見た目をした『剣神』と、少年の見た目をした『魔導神』が二柱、まるでテレビを囲むよう、地上を映す鏡の前で、ひとりのエルフを映し出していた。

 少し前、視線を辿られてしまった剣神は、魔導神に頼んで『隠蔽魔法』『耐概念防御』『遡行阻止』『多次元防壁』と、およそ神同士が戦争をする規模の防御を施していた。

 被造物、たかが人間・エルフを盗撮する為だけにしては、いささかやりすぎな防衛戦力である。


「そんなに面白いの? こいつ」


 神は個体差もあるが忙しい。

 しかし分身をたくさん作り出しており、中には暇な個体も存在する。

 魔導神はその中で、全ての権能を魔法により自動化、効率化の権化であり、仕事は多いのに暇している事が大半で、色々な神に頼み事をされては面倒事に首を突っ込む性質がある。


「まあ、いいけどね? それより僕は、この転移者の方が気になるけどね。加護あげていい?」

「駄目だ。仕事が増えるぞ」

 魔導の神は、真面目な人間を好む。

 それが、善性か悪性かを問わないが、基本的に『魔導神の加護』は悪い結果を呼び寄せる。

 人間の欲望を実現する力、それが行き着く先は、ほとんどが強欲による自滅である。


「じゃあ、このエルフさんでもいい?」

「……」

「怒った?」

「試す勇気があるなら、よいのではないか」


 神々の上映会は今後、見る者が増えるのだが、それはまた別の話だろう。

 今はただ、一部のストーカーが盗撮しているだけで収まっていた。



---

(次回、明日18時予定)


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