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秋桜のように強く~私たちの共生婚~  作者: 香田紗季


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2-5 次は郁さんの番ですよ

読みに来てくださってありがとうございます。

短めです。

よろしくお願いいたします。

「ということで、私には頼れる親族もなく、帰れる実家もありません。地元に帰っても後ろ指を指すような人がいるような所には二度と住めません。それから子どもはおそらく産めないだろうと思います。だから、子どもが欲しい方と結婚できないし、お付き合いもしたくない。私はもう1人で生きていこうと思っていたような人間なんです。

 でも、本当は1人で生きていくことが怖かったんだと思います。必要なのは、いわゆる男女間の恋愛感情ではなく、万が一の時に法律的に助け合える人。信頼できる郁さんだから、私は普通とは違う形になるかもしれないこの結婚の話に乗ろうと思えました。もっと言えば、郁さんは私にはもったいないくらいの好条件なんですよ」


 そこまで言い切った美月を、広野と片岡がまじまじと見つめた。


「美月さん、強いね」

「強くなんてありません、弱いからこそ、支え合える相手がいるなら、支えて欲しいと思ってしまったんですから」

「それにしてもさ、結構なところのお嬢様だったんだね」

「どうでしょう? 元夫の家ほどではありませんでしたが」

「いや、運転手付きの車に乗るとか、庶民の生活じゃあり得ないから!」

「私から見れば、自分で運転すれば自分の思うとおりに動けるのだから、その方が自由です」


 広野と片岡が予想した以上の話だったのか、2人は「まあ、郁と美月さんがいいならいいんだけどね」と言った。


「で、郁……って、お前何泣いているんだよ!」


 横を見れば、郁が涙を流していた。


「郁さん、どうしたの?」

「美月ちゃんが実家を捨ててきたとか、元夫さんとその家族とうまくいっていかなかったとか、そのくらいの話は聞いていたよ? でも、本当はそこまで辛い思いをしていたなんて、僕、元夫さんを殴りに行きたいくらいだよ!」

「止めて! 郁さんが傷害罪で捕まったら、私が泣きますよ!」

「うん、じゃ止める」


 今度は、しゃくり上げる郁の背中を美月が撫でる番のようだ。2人の様子を見ていた広野と片岡は顔を見合わせた。


「晩飯でも一緒に食べようかと思っていたが、俺たちサインしたらすぐに帰るよ。美月さん、郁の話も聞いてやってくれないか?」

「? 分かりました」


 広野と片岡はサインをすると、そそくさと帰っていった。歩きながら、広野と片岡は今日見たものについて、感想を述べあった。


「なあ、片岡。郁と美月さん、なんだか似ていないか?」

「方向性は違うが、大変な思いをしてきたのは同じかもしれないなあ」

「あの2人なら、お互いにやっていけそうな気がしないか?」

「そうだな。普通の結婚じゃなくたって、2人が幸せならいいんだ」

「でもさ、普通の結婚って、何だろうな」

「どうした?」

「だってさ、今時子どもがほしいだけなら、法的な問題や倫理面の問題に目を瞑れば、結婚しなくたって精子バンクで精子を買って子どもを産む女性もいるような時代だ。子どもだけ産んで、結婚しないっていう人もいる。だとすれば、家族に求められるものは子どもじゃなくて、安心とか、助け合いとか、協力とか、そういう心の問題のような気がしてきたんだよ」

「確かに、今はいろんな家族の形態があるよな。形じゃなくて、本人たちが自分らしく幸せに生きるための共同体になりつつあるのかもしれないな」

「そうだとすれば、未だに子どもを産み育てること()()が妻の役割だって考えている元夫さんの家族って、時代から取り残されているよな」

「そんな人間に、経済の先を読む経営者としての能力って、本当にあるのかな」

「俺もそう思った」

「あの2人の進む道は大変だろうが、俺たちは支えてやりたいな」

「それが理解できるような人じゃなかったら、俺たち結婚できないかも」

「それはそれでハードル高くないか?」

「言えてる」


 広野と片岡は、美月と郁が住むマンションを振り返った。偶然隣室だったことから一度は切れかけた美月と郁の縁が再び繋がり、それは強固な「家族」として結び直された。ドラマティックで、ちょっと羨ましいとさえ広野は思った。


「大事にしたい相手ができたら機を逃さずに、なんて言っていやがったな」

「郁は草食動物にしか見えなかったが、違う意味で肉食動物だったんだな」


 広野と片岡は、美月と郁が幸せであり続けるように、とそっと心の中で祈った。


・・・・・・・・・・


「少しは落ち着きました?」

「うん、ごめんね、美月ちゃん」

「いいんですよ」


 美月はふと、元夫の祐貴には、指さえ触れるのが怖いと思っていたことを思いだした。子作りのためだけの義務的な行為もまた、美月を心身共に傷つけていた。だから、祐貴に何か渡そうと指先が触れただけで恐怖を感じることさえあった。それなのに今、郁の背を撫でるのにためらいもなければ、嫌悪感もない。


 そう言えば、話をする前に郁が背中を撫で、手を握ってくれた時も、不快感ではなく安心感だけがあった。温かささえ感じていた。


「ね、郁さん。私、あの人(元夫)には指先さえ触れられたくないと思っていたの。鳥肌が立つことさえあった。でもね、郁さんに触れているのは嫌じゃない。あなたのことを、私が本能的に、信用できるって感じているのね」

「美月ちゃん……聞いてくれる? 僕の話も」


 美月は頷いた。そして、そっと郁の手を握った。


「はい。次は郁さんの番ですよ」


読んでくださってありがとうございました。

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