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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 3 夕立の降る青春

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畏怖と恐怖の火種

「おーい、二人共~っ! こっちこっち!」

 溌剌とした明るい声がかばね町の一角に響き渡る。帽子を被ってこそいるが激しく揺れるゆるふわのポニーテールは紛れもなく川箕だ。こんな場所で目立つのはどうかと思ったが、目立つなどと言い出したらそもそも透子の日傘が目立つ。日傘自体は珍しくも何ともないが、雨の日に差す傘と違ってそこまで一般的に使われるモノではない。

 ただその場で跳ねている女子高生くらいなんでもない。ただし時刻的には夕方、見た目は殆ど夜なので心配くらいはさせてほしい。

「川箕、武器は?」

「あ! そうそう、家に帰ってる途中さ、二人にもあった方がいいと思ったからついでに持ってきたんだ! 市販品の物とは訳が違うよ~なんてったって私が手を加えたんだし!」

「助かる。手を加えたっていうのは……持ち運びしやすくした、とか?」

「違う違う。この町に売ってる護身用武器って大抵使えないんだよ。値段ばっかり高くて少し使っただけで壊れるとか、そもそも相手の動きを止められる程の性能じゃないとか、酷い時だと爆発するんだ。本当はゼロから造ってもいいんだけど、時間かかっちゃうしさ、今回はこれで!」

 上機嫌な様子で俺に渡してきたのは警棒だ。警察が持っているタイプに近いが、よくよく見るとスイッチがあり、押し上げてみると先端から突起物が出てきた。警棒に殺傷能力が皆無とは言わないが、これは多分護身とは言わない気がする。

「法律的に大丈夫か?」

「大丈夫じゃないけど、命には代えられないよっ。夏目には死んでほしくないし……一応普通に警棒としても使えるんだけど、相手が分厚い服を着てるとかチョッキみたいなのを着てて殴っても効果が薄いって事があったら、この警棒の先端を刺してスイッチを押すの。そしたら電流を流せるから」

「あ、あんまりそういう事態にはなってほしくないけど有難う。スタンガンよりはリーチもあるし持ってるだけでも一応安心は出来そうかな」

「もっと感謝してくれてもいいんだよ~っ?」

 ……工作が好きなのだろうか。

 それとも自分が作った物を見せたくて仕方ない? 

 続いて透子には鞭を渡していた。

「透子ちゃん、これでいいよね」

「……ええ。殺す訳じゃないんだし、気遣うにはこれくらいないとね。あんまり硬いと困っちゃうから」

 鞭には改造の施しようがないから、素材を変えているのだろうか。当然自分の武器もあると思うが、俺達には見せてくれなかった。

「で、この後どうする? 部長さん?」

「やっぱり俺の事か?」

「夏目じゃなかったら誰が部長なのっ? 私達もついていくからさ、方針をちゃちゃっと決めちゃってよ!」

「うーん……」

 ここは花弁スタジオの手前だ。人の出入りは見られないし、仮に会ってもただ目の前でたむろしているだけの三人組を怪しむのは無理がある。行動次第として、何をしよう。お化けについて確認するなら……隠れるとか?

「まず、お化けの噂について調べてみよう。聞き込みはもう人も少ないから、何処か隠れやすい場所に隠れて張り込むんだ。お化けの正体が人間じゃなかった場合現れるかもしれないぞ」

「そっちの方向から調べるのね。でも確かに、もしかしたら本当にお化けかもしれないわね」

「本当にお化けだったら護身も何もないじゃん……そっちのがやだな」

 スタジオを観察出来て見通しの良い場所―――やはりすぐそこにある建物の屋上が良さそうだ。不法侵入なんてこの際気にしている余裕はない。抵抗がないと言えば嘘になるが、治外法権の存在する町で馬鹿正直に外の法律を守る人間なんて餌にされるだけだ。

 幸い非常階段から上る姿は目撃されなかったようですんなりと上に行けた。気になるのは屋上に建てられた倉庫だが、透子曰く人は居ないらしい。

「うー……寒っ」

「まあ初日だし、暫く様子を見たら今日は帰るか」

 花弁スタジオについて特筆するような事はない。長方形で黒っぽい外装というだけで怪しむのは無理がある筈だ。明かりが点いている様子もなければ誰かがやってくる気配もない。当然、お化けが出てくる様な兆候も。

「夏目君は、もし本当にお化けが出たらどうするつもりなの?」

「……その時は一旦考え直すよ。護身用武器もそうだけどさ、お化けが本当にお化けだった場合の事なんて考えてないだろ? 本物が出てくるなら出直すよ。本物なら俺達に見られて逃げ出すって事もないだろうしさ」

「お化けなんて気にしてたらこの町で暮らせないしね……でも、もし私が死んじゃったら化けて出る自信があるな」

「どういう事だよ」

「だってやりたい事沢山あるし……未練ってそういう事でしょ? 透子ちゃんは?」

「私、死なないから」

 もしもの話は好きじゃないのか、透子はきっぱりと言い切った。俺は……どうだ? 殺されたらお化けとして出る自信がある? 少し前まではならなかったかもしれない。華弥子を喪った悲しみと孤立した絶望感で……死にたいと思っていただろう。勿論そんな事にはならなかったが、透子が来なかったらと思うと。



 三時間くらい、経ったと思う。



 一々時計を見てはいない。取り留めもない事を話しながら緩く監視していたが、お化けの出てくる様子はなかった。一応携帯でカメラを回すだけ回しているが、後日映っていたら儲けものとして、これ以上はもういいだろう。

「―――お化けって線はなさそうだな。犯罪の臭いだ」

「今日の所は解散?」

「だったら早い方がいいよね。明日はテスト返却の筈だから。ふぁ~あ、眠くなっちゃったな……」

 お開きのムードを肌で感じ取る。透子がそれとなく視線を向けてきた事にやや遅れて気づいた。分かっている。何のために暫くこの町に滞在したのか、だ。

「じゃあ私は先に帰るわね。お休みなさい」

「お疲れ~」

「お疲れ。気をつけてな?」

「ええ、また明日」

 深呼吸をして、緊張を解したつもり。言わなければならないと思うと緊張するが、何の為にお金を使ったと思っているのだ。家族との繋がりがまた一つ消えた。それはとても喜ばしい事で……だから透子も先に帰ってくれたというのに。

「ん、あれ? 透子ちゃん帰ったけど、夏目は行かないの?」

「……川箕。バイトの件覚えてるか?」

「ん、私が誘ったからね。どうかした? 夏目にはその気がなかったんだって思ってたんだけど」

「……俺がこれまで持ってたお金は、お小遣いなんだよ。親から貰ったさ。そんなお金を持ったままお前の所には行きたくないって思ったんだ。両親は、主に父親はかばね町に居る奴と付き合うのをやめろって言ってる。でも俺は、そんな事したくない」

「へえ? 夏目ってば、反抗期なんだ」

 欠伸を噛み殺しながら、川箕は茶化すように微笑む。何も起きない時間に合わせて人との会話はそれなりに体力を使う。声がとろとろに溶けて、ふわふわして、覇気を感じられない。タイミングは今だけだ。きっと元気な時に話すと、俺が恥ずかしくなる。

「両親が味方だったら俺も言う事を聞いたんだけど。俺と華弥子の件で味方だったのは透子だけだったよ。透子と出会えたから俺は救われたし、お前とも……出会えた。だったら人としての道理というかさ、そんな人からの施しは使い切らないと駄目だろ」

「真面目だね~。じゃあ、うちに来てくれるって事?」

「打ち上げでお金は使い果たした。これじゃあ野宿するしかないし、働かせてくれ」

「…………あはは。誘ったのは私なんだけど、やっぱり来てくれるってなると嬉しいなっ。おっけー、分かったっ! じゃあ私の家に行こっか! 仕事場所も兼任してるから、ついでに寝る場所も用意するよ!」

 …………やっぱり、笑顔っていいよな。



 笑ってくれると、凄く嬉しい。



 
















 川箕に連れられてやってきたのは所謂ガレージと呼ばれるエリアだ。家に備え付けられた空間からは油や鉄の臭い……後、気のせいと信じたいが火薬の臭いもする。

 違法性はないとは透子の話だが、本当だろうか。この大きな車には大量の銃か気が搭載されていて……俺はその臭いを嗅いでいるのではないか?

「家に繋がってるのにガレージを開いてて大丈夫なのか? この町だと強盗が入ってくるだろ」

「普段は閉めてるよっ。ただ、慌てて出てきたからさ……とりあえずガレージの横に小さな部屋があるでしょ? あそこ、普段は自分の部屋に帰る力もなくなった時に気絶してる部屋なんだけど、これからは夏目が使ってよ」

 小さな部屋と入る前に言われても困るが、家の外観と割り当てられたスペースからなんとなくそんな気はしていた。確かに部屋は部屋と呼べない程狭く、ベッドと本棚と、机しかない。窓にはシャッターがかかっており、空気の入れ替えは換気扇一つで頑張っているようだ。

「……俺の部屋の半分以下の狭さだな」

 本棚には危険物取扱の本や工業系の本。本当にこのバイト、安全か?

「何、文句ある?」

「文句はない。狭い部屋っていうのに縁がないだけだよ。お風呂は何処にあるんだ?」

「お風呂は家の方っ。せっかくだし、案内してあげるから先に入っちゃいなよ。私待ってるから!」

「いいのか? 俺は全然待つけど。家ではお風呂大抵最後だしな」

「いいのいいの。ほら早く。ていうか入ってくれないと私が困っちゃうよっ!」

「……?」

「あーもう説明が面倒なんだってば。まだお父さん達に話してないんだよ! ちゃっちゃと説明するから入っててほしいの、だからっ! 入って!」




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