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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
ASH 幸いの国

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隠の楽園

 「う、うう…………」


 ████の人生を語るのに、大層なページ数は必要ない。

 

 学校はつまらなくて、周りの人間は平和ばかり望んで退屈。親は馬鹿の一つ覚えで勉強しろというばかりで、夢の一つも語らせてやくれない。一生実家で引き籠ってニートしてればそれで満足なのかと。少なくとも俺はそうじゃなかった。

 だから来た。全てを擲つつもりでやってきた。かつては無法の楽園とも呼ばれていたこの国……いや、島に。


 最初は良かった。


 軽犯罪すら重く取り締まるようになった国家と比較してこの国はあまりに取り締まりが緩い。にもかかわらず犯罪発生率は二パーセント以下と暗数になっているとしか思えない驚異的な治安を誇っている。まるで驚異的な秩序がこの国に根付いているみたいに。

 だから、だから俺は。

「なあお姉さん。そろそろ俺にこの国の秘密を教えてくんねえか! みんなほんとは分かってるって聞いたぜ!」

「そんな事言われても……秘密なんてないわよ」

「報酬なら払うって! マジ、ワールドワイドな暴露系配信者として覇権取らせてくれよー!」

 この国はかつて日本の国土だった影響か今でも公用語として日本語が通用する。だから、来たばかりの俺でもカフェで問題なくくつろげる。無国籍国家を掲げるだけあって通貨も幅広く、一体どうやって国際的な信用を築いているのだろう。因みにそれも明らかにはされていない。

 そう、この国は来訪者を拒まないオープンな性質を持ちながら外交的側面の一切が明かされない国でもあるのだ。因みに国というのも便宜上の表現で国際上は国ではないとされている。暗黙の了解気味に数多の国が対等の立場として扱っているだけで。

『秘密、秘密……あ、そうだ。配信者さん、ここのカフェが暗い理由って分かる? 私が明るいの苦手なの。私の知る秘密はそれくらいかな」

「じゃあじゃあ、お姉さんが更に日傘まで差してるのはそれでも眩しいからなのか? それともそれが実は国にとって重要なシンボルとか……」

「残念だけど、これは私の大切な人がくれた傘なだけ」

 店員の女性は手袋を半分外すと、薬指に輝く指輪を嬉しそうに見せてくれた。「見せびらかすものではないけどね」と前置きしてから、手袋を元に戻す。

「貴方みたいな人は別に珍しくないわ。国籍が違うだけでそういう目的の人は何人も来た。大抵は観光して帰っちゃうけど、貴方はどちら?」

「俺は絶対離れない! この国の秘密を解き明かして世界に公開してみせる! チャンネル登録今のうちにしといた方が古参面出来ていいかもよ姉ちゃん!」

「ふふ、そうなの? そんな大げさな秘密なんてあるのかどうか……期待してるわね。はい、ご注文のアイスコーヒー」

 軽くあしらわれた気もするが、知らない方がいい事もあるのは確かだ。この女性にはこの女性の人生がある。俺の暴露は正義の暴露、人生を壊すなんて野暮が過ぎる。

 一口の静かな苦みに落ち着いていると、店のベルが鳴って新たな客が二人、ふらりと入ってきた。

「透子ちゃん、ココアよろしくね! とびきり甘いの!」

「お姉様! 私、もうコーヒーは飲めます! 子供扱いしないで下さいませ!」

 国籍も信仰も身分も年齢も問わない気風故か、この国には少々異質な見た目を持った人も居る。差別をしたい訳ではないが、顔の上半分にバイザーをつけた少女は流石に目を引いてしまう。


 ―――誰も気にしないんだな?


 有名人、なのだろうか。

 店の隅で静かに過ごすフリをして聞き耳を立てる。知り合いなら話も弾む筈だ。或いはその流れで……この国の秘密も明らかになるかも。


「あ、アイツは遅れて来るよ! プレゼントを買ってくるから!」

「プレゼント? お店の記念日は今日じゃないでしょ」

「何言ってんの、今日は誕生日でしょ! ホントは毎年したかったけど色々あったし、せめて今年くらいはね!」

「お姉様の記念日はいつ頃でしたっけ? 私、まだここの暦が覚えられません。カレンダーが多くて」

「あはは、まだ統一出来てないもんね! まあ仕方ないよ、かばね島は普通の国じゃないし。ま、でも全然先だから気にしない気にしない。今思うと記念日が一緒だったら手間が省けたかな……」

「川箕さんって、前からそうだけど技術的な話以外は大雑把よね」

「難しい事は考えたくないのー! そういうのはアイツに任せなきゃ」


 ―――あんま期待出来ないな。


 このカフェは憩いの場所には違いないが俺の求めた情報には期待出来なさそうだ。勢いでコーヒーを飲み干すと、少量のチップと共に雑な会計を済ませて外に出る。さあ、時間は待っちゃくれない。動画の見出しはとっくに決まっているんだ。

「おっと」

 殆ど飛び出すような勢いで店を出たせいで一人の男性と肩がぶつかる。反射的に護身用のナイフを取り出そうとしたところ、男性は真っ先に頭を下げてきた。日本人だ。

「ごめんなさい! 怪我はありませんか?」

「あ……ああ、気をつけろよな。俺は配信者だ、ほら、今も動画回してるだろ? お前の顔を晒してやってもいいんだぞ!」

「はあ、すみません」

 男性は事情を呑み込めない様子でカフェの中に入って行く。脅しはしたが俺が撮りたい顔はそんなんじゃない。一体何処に隠れているんだ。



 この島の主は!




 

 

 













「透子! 誕生日おめでとう! 愛してるよ!

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― 新着の感想 ―
お疲れ様でした! いやぁ今作も楽しかった……また作者さんの新作がが出会える機会があるのを楽しみにしてます!
おもしろかった!
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