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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
LASTRASH  人間災害

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213/215

災害の餞はもう一つ

「夏目、お待たせっ! 装置は直せたからいつでも使えるよ!」

「おう、そりゃ……凄いな。ありがとう。これでとりあえず、俺達は助かる……んだよな?」

「<浮かない顔だな。クロウの要求を呑んだ方が良かったのか?>」

「そうじゃないんだけど……あ、そうだ。透子の力を制御する方法なんだけどさ」

「<見つけたのか? お前が? トウコではなく?>」

「夏目ってやっぱ案外機械に強い? ま、私んとこで軽く仕事はしてたけどさ!」

「ごめん、そんな見ただけで全部理解出来るような目は持ってない。だから見つけてはないんだけど、仮説を持ってきた」

 ニーナと仮想空間に入って遊んだ最中に思いついた仮説には当初実行方法がなかった。プログラムの参照先を変えればといっても変える方法がない。不可能という点を一旦忘れればこの上ない名案だった仮説は、偶然のきっかけによって可能性を得た。

「さっきニーナと仮想空間に入った時、透子も中に居たんだ。でもその透子はここに居る透子じゃなくて、バイザーの動力として使われてる血だった」

「……血? 血に人格なんて宿る? ジャックさんは能力の都合でしょ?」

「原理は俺も分からないけど、透子の人格が反映されるならバイザーにも透子のプログラムが干渉出来るんじゃないか? あのバイザーにある透子の血を参照先に出来れば、実験の記憶なんて当然存在しない訳で……」

「<都合のいい考え方だな。人格と記憶には密接な関係がある。透子の人格が出ているなら当然記憶も保有している筈だぞ>」

「…………」

 ここで行われていた研究には互いに精通していない。明暗を分けたのは人造人間に対する理解の差。ジャックに一蹴されてしまうともう食い下がれない。能力で精神に寄生出来る点も込みで、形を持たない事象に対する理解において彼には一日の長があった。

 俺が言葉に詰まっていると、透子が会話に割って入るように手を上げた。

「―――やってみる価値はあると思うけど」

「<……好きな男の味方をしたいのは分かるが、何も変わらないとは思わないのか?>」

「ジャックも記憶を保有してる”筈”って根拠はなさそうな言い方をしたでしょ。貴方もクロウも半分はまともな人間だから思い違いをしてるみたいだけど、私みたいな完全な造物にとって記憶も人格もデータの集まりで、別の数列よ。だから仮に……私の人格データだけがあった場合、記憶がなくても人格に問題はない」

「<……記憶があったらどうする。参照先を変える方法は?」

「川箕さん、ロジック・コードとニーナちゃんを借りるわね。プログラムなんて言ったって、所詮は私の体の中の話。夏目君があの空間で私と出会ったなら、やりようはあるわ。悪いけど貴方が幾ら言っても私はやるからね」

 そう言って透子はロジック・コードを足元から拾い上げると、またあの部屋に今度はニーナを連れて戻ってしまった。川箕の中に居るジャックは多分呆れている。好きな男の提案なら何でも受け入れるのかお前は、とでも言いたげだ。

「……そういえばさ、透子ちゃんって前はジュード君って呼んでなかったっけ? 何で呼び方戻ってるの?」

「そ、そうだっけ? まあでも……お前達に夏目って呼ばれる分には気にしてないよ。そう呼ばれたからって昔の自分に戻るんじゃないし……まあ理由も察しはついてる」

「え、嘘。どんなの?」


「久しぶりに会ったら、距離感なんて分かんないだろ」


 しかも直前まで記憶を抹消されるところだったのだ、細かい部分が取り返せなかったと後から言われても仕方ない。それよりも透子は自分の問題は自分でケリをつけると決めたのだ。俺もこの決断はきっと他人に頼ってはいけない。

「そんなもんなのかなあ。私はいつでもタメで絡めそうだけどっ」

「それはお前が陽気すぎるだけ。ジャックだって透子にいまいち絡みにくそうだろ」

「<後ろめたさがあるだけだ! お前といいガキといい俺で遊んでるのか? まあいい、トウコが自分一人で対処してくれるなら手間が省ける。その間にお前達から俺の血を抜くぞ。準備は良いな?>」

「…………いや、待ってくれジャック。川箕も、ちょっとだけ待ってほしい。ジャック、お前やクロウの本質は肉体ではなく能力だったな。俺達から血を除去した後、お前の意識は何処に行く? 装置の中か?」

「え? 何言ってんの? 他の寄生した生物のとこに移動すればいいだけなんじゃ?」

「忘れたのか川箕。研究所でクロウと会った時にジャックは来なかった。その理由をアイツは地上での援護に集中しているからだって考察してたよな。よく考えてみろ、俺にもまだジャックの血は流れてるのに使ってる口はずっとそっちだ。幾ら無数に寄生出来てもジャックと呼べる意識は一つだけなんだよ。テレビのチャンネルを切り替えるみたいに……寄生先を切り替えるしかないんだ」

「……あー、言ってたね。でもそれがどうしたの? その例えでいうなら別にチャンネルは幾らでもあるじゃん」

「ジャックが戻ってくるとしたら、不本意な場合……これ以上切り替えられるチャンネルが無くなった場合だ。そのタイミングが良かったから俺はこいつに助けられた……もう一度聞くぞ。お前は何処に行くんだ?」

 川箕の口が動かなくなったのを見て、すぐに追撃をかける。

「都合が悪くなったらダンマリか? これくらい答えてくれてもいいだろ。問題がないなら」

「<………………俺の今後なんて聞いてどうする。確かにもう俺の寄生先はない、一人でも『鴉』を生き残らせる為に尽力したからな。だがそれがどうした。お前達が助けられるならそれでいい筈だ。悪党なら自分の事だけ考えろ>」

「悪党でも助けたいと思ったなら助けるのが普通だろうが。この装置に取り残されたお前は……クロウに代わって永遠の孤独を味わうつもりか? 俺達はここを離れるつもりだけど、お前が残ったら透子に後ろめたさを与えるって何で分からないんだ? 過去から来てようが肉体を失ってようがお前達は透子の大事な幼馴染なんだぞ! そればっかりは俺も代わりになってやれない」

「<ならこの女だけ除去してお前が寄生先になってくれるとでも? 違うだろう、その身体はもうじき死ぬ。何せ人間の身体だからな。気を遣ってくれたのは正直……悪くない気分だ。だが、お前は差し迫っていないだけで命の危険から逃れられていない事を忘れるな。過去を変えた恩恵など寿命が一分後から三日後に伸びた程度の違いだ>」

「…………ジャック、二人きりで話したい。先に川箕のを済ませてくれ。俺とだけ話そう」

「あー……私は仲間外れな感じ?」

「そんなつもりじゃないんだけど、悪い。男同士で話がしたいんだ。もしくは……自分自身と話がしたい」

「ここに来てからずっと部外者だけど……ま、しょうがないよね。私は単なる技術屋だし。夏目の好きにすれば?」

 川箕は不満そうに口を尖らせるも、男同士の領分には口を挟む気はないようで装置の前に椅子を持ってきた。自分で固定具に腕を入れて左手を動かせないようにすると深く息を吐いて自分の静脈に注射器を向ける。

「でも、外に出たら沢山時間取ってよねっ! 一時間マッサージするくらいじゃぜんっぜん許さないから!」




















 川箕の採血もとい異化因子の除去が済んだ後、寄生先が俺のみになったのを確認してから最奥の部屋へと向かった。ニーナと同じくらい暇を持て余した彼女については一人でその辺りの機械を弄るから心配要らないとの事。透子については心配していないそうな。

「疑問に思ってたんだ。真司の奴がどうして俺を恨んでたのか。過去に俺が存在しないとアイツの恨みは成立しない。でも俺はこの研究所に居た記憶なんかない。解決しそうにない矛盾だと思ってたけど、これを見てハッキリしたよ」

「<…………>」


「俺は―――()()()()()()()()()()()()()()


 ポッドの中に居る人間は紛れもなく鏡で見た俺そのもの。クロウがホログラムを使って似せているのではなく、そっくりそのままの肉体が培養液の中で浮かんでいるのだ。

「最高傑作になる未来があったとクロウは言ってた。でも俺には自覚出来る特殊能力なんかないし、透子みたいに強くもない。何をどうやっても俺があの父親に愛される未来はないと思ってたんだが、単純だったな。もう一人夏目十朗が居ればいい。そいつが強ければ問題ないんだ」

 遺伝子を弄り回されていたというのは、要するに研究所で用意されていた夏目十朗の遺伝子をある程度受け継ぐように仕組まれていたという意味だ。それならここで眠る男にはさぞ強力な能力が備わっているのだろうと思ったが、そこまで強力なら何故俺の父親は手放したのかという疑問が残った。クロウの発言から透子が前々から俺の存在を知っていた訳でもない。またクロウの介入があるから何をしてもこの男を目覚めさせる事は不可能だったとも考えられる。

「確信はないんだけど……もしかしてお前とクロウはコイツなんじゃないのか?」

「<どうしてそう思う?>」

「お前が味方してくれた時、アイツが元々一人の人間としてみたいな発言をしてた。お前達の本質は肉体じゃなくて能力なんだろ、現にお前は肉体に拘ってなかったしな。でも能力を発揮する以上肉体は必要だ。お前達はよく同じ実験に参加させられた話も聞いた。となると夏目十朗が最高傑作になる条件は……お前達の能力が一つの身体に収められる事なんじゃないか?」

 そして能力を組み合わせる事で夏目十朗は自由に未来を視て改変する事が可能になる。さながらそれは人造の神デウス・エクス・マキナ。神様を作成出来たとするなら最高傑作呼ばわりも不思議ではない。

 だから透子の脱走から今日に至るまでの騒動は……一言でまとめると『夏目十朗』が奔走した結果起きた未来と言える。実に馬鹿馬鹿しい結論だ。しかもそれぞれ動機は等しく、透子の為。

 惚れる遺伝子でも組まれていたのかってくらい、共通している。

「そう思ったらさ、クロウが決断を下せないのも分かる。俺の身体はお前の血で死にかけだ。お前に全部渡してもこの未来は変わらない、身体の材質が違うからな。だから―――どっちかなんだ。俺を助けるか、お前を助けるか」

 この身体に二人が収まらないようにするなら構造を変えてしまえばいい。この夏目十朗には人格が二つ同居するだけの容量がないのだ。さっき透子に確認してもらった。

「<何を悩む。お前が身体を使えばいいだろ>」

「そんな即決出来る話じゃないだろ! お前は死ぬんだぞ? 透子に後ろめたさを感じさせる気か? それとも俺に恩人を見殺しにしろと?」

「<恩人?>」

「ああ恩人だよ! お前は素っ気なくて空気が読めなくて口も悪けりゃ態度も悪い悪党だけど、俺にとっては命を救ってくれた恩人だ! お前が居たからここまで来られたんだ! ……感謝してもしきれない。お前に死んでほしくないんだよジャック。生きてほしいんだ」

「<……お前って奴は本当に、自分勝手な理論を展開するのが好きなんだな。頭でっかちなところはクロウにそっくりだ>」

「な、なんだと?」


「<俺がいつ、生きたいなんて言った?>」


 俺の口を借りて、ジャックは疑う余地のない本心を打ち明ける。

「<俺達は……外で幸せに暮らせると信じていた。だが流出が起きてくれたお陰でそれが全くの嘘だった事に気づけた。クロウと共に変えた未来は、外の世界で平和に暮らせる為の作業なんだと疑いもしなかった自分が恥ずかしかった。俺が外で暴れた理由は逆恨みだ、世界がそこまで平和ではなかった事実に騙されたと感じた。だがトウコに殺されてからボスに拾われ、世界中をこの能力で見るようになった時気づいたんだ。潔癖すぎたんだとな。殆どの人間は綺麗になんて生きちゃいない。大なり小なり汚くて……社会はそれを受け入れて成立してる>」

「……かばね町は汚すぎるけどな」

「<だがあの町は人生どん底の人間すら受け入れてしまえる最後のセーフティネットという側面もあった。より破滅するリスクを隣り合わせにしてでももう一度人生をやり直せるかもしれない、そんな場所だ。勿論そうなったのはトウコが滞在するようになってからだが、関係ないな。綺麗すぎる世界なんてのは、綺麗になれなくなった人間を即刻排除して見なかった事にするだけの世界なんじゃないかと……つまり俺の求めた地上世界は、絶対に存在しないんだと悟った>」

「悟って、死にたいと思ったのか? 透子だって生きてるのに」

「<お前の言う通り、俺とクロウは最終的には夏目十朗の機能として収まる予定だった。本来収まるべき肉体に入れなくなった男に生への執着は生まれない。だって俺達はまだ生まれてすらいないんだからな。生きていても死んでしまってもどうでもいい。トウコの事だけが心配で俺はずっと耐えてきたんだ。アイツを人間災害にしてしまった間接的原因でもあったしな>」

 勝手に動かされた左手が、ポッドのコンソールに触れる。





「<未来を見据える権能も種別を超えた生を歩める権能も人間には遠すぎる。悩む必要はない。ポッドを操作して肉体を取りだせ。お前のまだ生きてる部分を全部そっちに送り出してやる。トウコにはまだお前が必要だ>」

「なあ! 本当にこれでいいのか!? まだ生まれてないってんなら、これから生きてみようと思わないのか!?」

「<思わないな。人にはそれぞれ役割がある。夏目十朗の人生を語るのに大層なページ数は必要ない。どう生きるかはお前に任せよう。どう死ぬかを―――俺が引き受ける>」




 <だから気にするな>







 

 <生まれたお前に、生きる権利があるだけの話だ>

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