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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
LASTRASH  人間災害

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211/215

手を取り合って生きていく

「…………ここ、は?」 

 次に意識が再開した時、そこは家の中だった。家といっても川箕の家ではなく俺の家だ。透子に吹き飛ばされ、とっくに跡形もなくなってしまったかつての日常。その象徴。椅子に座っているのは盲目のお姫様ではなく、鏡を見ているかのようにそっくりな顔だった。

「やあ十朗」

「クロウ! やっぱりお前、帰ってなかったのか! 透子の傍に居たような気がしたのは見間違えじゃなかったんだな」

「心配しなくてもこれ以上君達の邪魔をするつもりはないよ。というよりそれはもう出来ない。僕はただもう一度だけ弟と話したかっただけだ。あの女の子との時間については……後で沢山作れるよ」

 対面の椅子を引いて向かい合う。こう見ると本当にそっくりな兄だ。どうして俺は勇人と血が繋がっていると信じて疑わなかったのだろう。あんなカッコよくてモテる人と血が繋がっているなんてあり得ないのに。

「……俺には話す事なんてない」

「突き放す言い方だ。でもそんな対応をされても文句は言えないね。理由はどうあれ君の人生を弄り回そうとした、トーコを違う存在に変えようとしたんだから」

「…………」

「僕とジャックの本質は肉体ではなく能力にある。視ている”未来”と肉体がある時間軸では時間の流れ方が違うという話をしただろ? あれはね、少し正確じゃないんだ。厳密に言えば”未来”で過ごした時間を”現在”が下回る事はない」

「つまり…………能力を解いたら」




『僕はもう死んでいるよ。透子が施設を抜け出したその日にね』




 ここに居るクロウは過去の産物であり、”現在”の自分はもう死んでいると彼自身が会った時にそう言った。ならば能力を解いたが最後、彼の意識は先んじて未来を観測し続けたツケを払わされる。

「―――だから、最期くらい兄弟の会話がしたかっただけなんだ。どうか付き合ってほしいな」

「……なんでだ? なんでそこまで俺を気にする。透子は分かるよ、幼馴染なら気にするのも当然だ。けど俺は……」

「実の兄弟だ。僕にとっては君の存在が生きる理由だったんだよ十朗。君にとって僕は兄を名乗る不審者かもしれないが、僕にとっては大切な存在だ。可愛い、僕の弟だったんだよ」

「……」

「何やら僕の知る過去とは変わってしまったみたいだけど、トーコと引き合わせたのは彼女の為でもあり君の為でもあるんだよ。彼女を助けたいと思うあまりそれを省いてしまった。勝手な都合で勝手に引き離されたと考えるのも当然だね」

「どういう……意味だ?」

「夏目一心の最高傑作になる予定だった君は……僕の手でその未来を変えられた。なあに、ちょっとした手品だよ。お陰で君は九朗に次ぐ十朗ではなく……人間の夏目十朗として生を受けたんだ。ただし遺伝子は多少弄り回されていてね、ジャックやトーコの血に侵されて何故君が多少なりとも正常に動けたかがこれで分かったんじゃないかな?」

「―――半分だけ人造人間って事か?」

「半分って程でもないが、そういう理解で大丈夫だよ。それで……僕はあの人でなしに親としての経験を積ませて人の心を育ませようと考えたんだ。十朗がそれで幸せになるのなら僕がポッドの中でしか生きられなかった意味もあるだろうと。ところがそこから観測した未来のいずれも、彼はまともになれなかった。僕が手を出すまでいずれの未来も君は最終的に死んでしまう。死に方に違いはあっても、高校を卒業するまでには必ずね」

 かばね町に関わらなければ俺はどうなっていた? 真司にいびられ続け、華弥子にフラれ、透子や川箕とも出会えなかっただろう。家族との和解は最後まで不可能だったが、不可能なままで良かったのも透子達が代わりに俺を迎えてくれたからだ。そうはならなかった未来なら…………確かに、生きるビジョンを見失って死んでいるかも。或いは適当な犯罪に巻き込まれて。

「君が生きる道はかばね町で死人の一人となるしかない。だが死人の一人となれば到底まともな生活は望めない。だから僕はトーコと巡り合えるように調整した。僕が君達の改変を見つけられないように、あの出会いは確かに僕が手を加えたんだ。絶対にトーコなら見つけ出せると信じてね」

「……どうしたんだ?」


「泣き声だよ」


 クロウが机の上を軽く叩くと、突然赤子が放り出されるように出現した。話には聞いていたが恐らくこれが……本来のクロウ。能力の代償に成長出来なくなった本体の姿。

「僕の本体は所詮赤子だ。能力を使っていない時は泣く事しか出来ない。トーコは僕の傍でずっとその泣き声を聞いていたからね、泣いている人を放っておける筈がないと思ったんだ」

「……確かに、透子は優しいからな」

「何より僕達の声はとても似ている。兄弟だから当然かな? 彼女からすれば僕は生死不明だ、何せ脱出した後に死んだんだから。似た声が聞こえれば僕だと勘違いして近寄ってきてくれる、近寄ってくれれば手を差し伸べるだろうと踏んだ。大正解だったね」

「…………」

「君達を引き合わせる事で、十朗はようやくかばね町で生きていく事が出来る。トーコはその過程で愛を知り、己の埒外を自覚するようになる。後はさっきまでの通りだ。君達はこの区画まで来るもトーコは記憶を消される。君は僕に怒るが、トーコを放っておく事も出来ないと僕の治療を受けて人造の毒から解放され、新たな人生を歩み出す。まあ、そうはならなかったんだが」

 俺とジャックがその筋書きを変えた。大筋を変えれば行きつく結末も違うからと細部のみを。教えたらまた変えそうだからと黙っているのだが―――教えるべきなのだろうか。

「ジャックの脱走を手引きしたんだよな? それも俺の父親の何かしらを阻止する為か?」

「彼が暴れてくれないとトーコが人間災害を名乗れないからね。僕の人生は二人の為にあった。それだけは本当なんだ。何故、なんて言わないでおくれよ。僕の人生は培養カプセルの中で完結してしまうんだ。未来が視えても自分の人生ばかりはどうしようもない。だからせめて、幸せになってほしい人の人生に線を引くのが僕の仕事だと思った。それだけだ」

 



「―――ごめん」




 頭の中で感情を整理しようと思った時にはもう、三文字が言葉に出ていた。今更言う通りにしようなんて思ってはないが、俺以上に俺の人生を考えていた人間にこれ以上敵意を見せたくなかった。俺が自分の意思を貫けたのは見えない誰かが助けてくれていたから……なんて。勿論、貫き続けたのは俺だがそこまでしてくれた存在を邪険に扱うなんて良心が痛んだ。

「謝る必要はない。僕はもう死んでいる。少しでも申し訳なく思うのならせめて、トーコは幸せにしてくれよ。君達が望んだ未来を僕は視られない。何があっても助けてあげられないんだからね」

「…………ああ、分かってる」

「……君をいつまでも守るべき可愛い存在だと思っていた僕が間違っていた。もう十分、立派に育っていたんだね君は。十朗、いやジュード。君になら僕が下せなかった選択を下せると信じてるよ」

 クロウは満足したように目を瞑り、玄関の方に掌を差した。

「君を見送ったら僕は能力を解く。それで永遠にさようならだ」

「…………選択って、何だ? 未来を視ても選べなかったのか?」

「何もかも手遅れになったら仕方なく選べると思っていたんだが、こうなってしまうとね。僕の計画が上手く行っても最後には説明するつもりだった。まあ……知りたければトーコに聞くといい。僕の部屋に行けば分かるから」



『ジュード様! 何処にいらっしゃいますか! ジュード様~!』



 扉の外からニーナの声が聞こえる。ドアノブを掴んだところで……手が動かなくなった。何故かは自分でも分からない。ただ、ここを通り過ぎるだけでもう二度と実の兄に会えないと思ったら―――悲しいとは言わないまでも、心苦しかった。彼はずっと俺の為を思って動いてきたのに、俺からあっさり別れを告げられたらどんな気持ちで能力を解くのだろう。そう思うと、もう少し居た方がいいのかと気を遣いたくなる。

「忘れ物なんてない筈だよ。ここにはもう、何もないんだから」

 これから死にに行く家族を相手に、俺は何を言えばいい。俺達の幸福を望んだクロウ自身にもう幸福は訪れない。未来もない。あるのはただ、確定した死だけ。

「………………お、お兄ちゃん!」

「…………ん?」


「行ってきます!」


 何故そう呼んだのかは俺も分からない。ただ、彼と真っ当に兄弟だった俺ならきっとこんな呼び方をする。他の未来なんて視えないが自分の事だから視えなくても分かる。

 ドアノブを回し、扉を押す。振り返らずに。過去の願いを記憶に秘めて。







:ああ、 行ってらっしゃい。風邪を引かないようにね

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