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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
LASTRASH  人間災害

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変わらない想いに一筋の命を

「マコトの協力を得られたのは何よりですね。ここに連れてくる必要性には疑問が残りますが」

「仕方ないだろう。こいつは勘違いしていやがったからな」

「<やめてくれ……ただ俺は……これで透子を助けられると思ったらつい先走り過ぎただけなんだ!>」

「やっぱりお前って変な奴なんだな! あはは!」

 マツリビの所に戻ってきたのは助言を仰ぐ為だ。思わぬ収穫として真司は能力者で―――嘘を真実に変える能力を持っていた。彼の協力さえ得られれば過去だろうと未来だろうと関係ない。透子のポッドは止まると嘘を吐いてもらえばそれで終わりだと思ったのに……

「もう一度言うぞ? 貴様がここに来てやるべきなのは透子を助ける方法やその手がかりを見つける事だ。嘘を真実に変える能力はその一助にはなるだろうが、直接は不可能だ。そうだな、マコト」

「同じ身体に二人が居るなんて変な感じだなー。俺は自分に出来る事なんて何も分かんねえよ。何にも出来ねえし何でも出来るんだ」

「訂正。未来とは量子の揺らぎであり決して安定しない概念です。嘘を真実に置換する能力は揺らぎの中に存在しない事象を揺らぎの中に押し込めるようなモノ。一方であの子の状況は貴方にとっては差し迫った危機でも過去の私達からすれば嘘でもなく本当でもない事象です」

「―――クロウの奴、既に存在しない未来を見せてこなかったか?」

「<あ、ああ。思い出したくない、けど>」

「その未来は既に存在しないが未来という括りとしては存在し続ける。過去の人間にとっては嘘でもあり本当でもあるのが”未来”という概念だ。トウコの危機はお前にとって直面する危機でもマコトにとっては……話に聞いているだけ。直接は変えられない」

「<そんな……>」

「貴方達が使った機能は……この全盛にさえ三〇分も使えば一時停電を起こしてしまう代物です。現在一五分と四三秒が経過しているのでそろそろタイムリミットを意識するべきでしょう」

「少しでも説得にモタついたら勘違いしたまま帰すところだったな。それと、仮に未来を変えられたとしても問題がある。お前の邪魔をするクロウも、そしてトウコも変わる前の未来を歩んだ存在だ。未来を直接変えたらそれはそれでアイツらの行動も変わってくる。トウコはお前と出会ってないかもしれないしクロウも違う方法で邪魔しているかもしれない。因果の流れを軽視するな」

「<難しい事言うなよ。俺はどうすればいいんだ?>」



「流れを変えるのではなく結果を変えるんだ。マコトの協力があれば不可能はない、そうだろう」



「任せろ! 俺は何をすればいいんだ!?」

「<意味が分からん! もっと具体的に頼む!>」

「過去のトウコと俺は脱走して世界中に迷惑をかけた! クロウは過去から間接的な介入を繰り返し未来を誘導した! その結果生まれた現在が正にお前を悩ませているな! そうなる流れはそのままに、結果だけを変えてしまえと言っている! 何があればトウコはポッドの中に入らない!? どうすればポッドの進捗は手遅れなくらい進まない!? 考えろジュード! チャンスは一回きりだ! ずっとアイツの傍に居たお前なら! ()()()()()()()()()()()()()()()()お前なら分かる筈だ! お前の人生には全て、意味がある!」

 

 …………最低限変えるべきなのは俺の身体のタイムリミットだ。これを変えない事には未来に帰った途端に死亡してしまう。それを変える分岐点はハッキリしているが流れを捻じ曲げてはいけないという制約が曲者だ。

 トウコが脱走するなら人間災害は存在するしかばね町は生まれる。俺はやっぱり浮気されていつかトウコを取り戻す為に二代目人間災害となる。これらの流れのいずれも変えられない、帰られるのは直接の影響を及ばさない範囲だけ。

「<…………まず、真司>」

「おう!」

「<お前はここを出た後……今はマコトだけど、真司って名前になって俺の友達になる。能力を使うかどうかは自分で選べる筈だ、然るべきタイミングが来るまで一度も能力は使わず、出来れば俺の嫌がる事を率先して行ってくれ>」

「俺は友達にそんな事はしない! ……でも、頼みなら頑張る。タイミングってのはいつだ?」

「<お前が頑張ってくれたら未来の俺はお前と決別しようとする。お前はそんな俺を引き留めようと大喧嘩する。その時、頃合いを見て使ってくれ>」

「おう!」

 意識が遠ざかり、視点が遠くなっていく。実は真司に説明している時からタイムリミットは終わっていた。もう間もなく意識は過去から弾かれ未来に戻る。伝えられる指示は精々後一回。

「後は! どうするジュード! それだけじゃ足りないぞ!」





「<……マツリビ! 未来で貴方がどうなってるかは知らないけど、一つ頼まれて欲しい―――!>」

















「………………はは。ははははは。ハハハハハハハハ!」

 体を支配していた力の奔流はもうどこにもない。この身体に流れている力は馴染みの力、最初に命を蝕んだ人造の毒。

「ジャック?」

「俺はジュードだよお兄ちゃん。ああ、やっぱりこの方が俺の身体に馴染むよ、透子の血はどうも毒性が強くて肌に合わなくてな」

「……そんな馬鹿な」

 透子の血が体内で渦巻いていた感覚を知る今になってどれだけジャックの血が温い毒性だったか思い知らされている。過去に飛んでいたせいで長い時間を気絶していたような感覚に襲われているがまだニーナの鳴き声が施設中に響いている辺り実際は一瞬の出来事だったのだろう。

「……何をしたんだ、ジャック! おかしい、君の体内からトーコの力を感じなくなったし……過去を変えたんじゃないのか? ならどうして僕の記憶には差異がない?」

「さてな、遠くの未来を視すぎて見落としてるんじゃないのか? 答え合わせがしたいなら能力を解除して自分の時代に戻るのをおススメする。そして、二度と来るな」

「……君を助ける事が出来なくなったのは心苦しいが、問題ない。記憶に差異がないならこのポッドにも異変はないんだからね。いつまでも反抗期なんてやめてくれよな。君は僕と違って十分大人なんだから、黙って言う事を聞く大事さは理解してほしいよ」

 そう言ってクロウはポッドの方を見遣る。相手はホログラムで実際のところはシステムを掌握しているのだろう。進捗確認画面を見る必要すらない、一方で普通の人間に過ぎない俺は川箕を助け起こしつつ画面を見、表情を隠せなくなっていた。

「……………………俺は、俺にはお前の助けなんか要らない。過去に帰れ、兄貴!」



「………………………」



 進捗は九五%で止まって―――それどころか下がっていく。今はもう三七パーセントだ。バーは決して止まらない。クロウが遠隔で制御装置を動かしても状況は変わらなかった。


 ―――やった。やったぞ。


 俺は、成功したのだ。

「何てことをしてくれたんだ!」

 クロウのホログラムが宙に浮かんで赤子のように丸まって頭を抱えると、救急サイレンのようなけたたましい絶叫が施設に響いた。慌てて二人に覆いかぶさって少しでも音圧を軽減せんと耳に手を被せる。

「ああああああああああああああああ! 僕の筋書きが! 未来が! ふざけるな! トーコ! やめろ! 出てくるな! このままじゃ君を救えない!」

 進捗、十五%。

「君は災害としての自分を呪っていたじゃないか! 記憶を消すだけでいいんだ! それで君は幸せになれるのに、どうして!? やめてくれ、出て来るんじゃない!」

 七%。

「トーコ! 僕は君に最高の幸せを届けたいだけなんだ! 言う事を聞いてくれえ!」


「――――――ううん、必要ない。忘れたい過去よりも、守りたい言葉があったから」


 ポッドの外殻をしなやかな指先が切り裂いた。噴き出す大量の煙の中にぼんやりと立ち上がる人影が一つ。













「おはよう、夏目君。心配かけちゃったわね」






 


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