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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
LASTRASH  人間災害

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207/215

ジュードの友達

 嘘を真実にすると一口に言っても、それを判明させるには性質実験を繰り返さなければいけない。問題はその内容―――”嘘”はどのくらいの範囲を指すのか”真実”とはどのくらいの範囲を指すのかを調べるというもの。もっと分かりやすく言えば嘘と真実は誰が判定するのかという疑問を解消する実験。

 マコトから見て嘘で客観的にも嘘な発言が真実になる。これは分かりやすい挙動だ。

 ではマコトから見て真実で、客観的には嘘な発言は?

 逆にマコトからは嘘で、客観的には真実となる発言は?

 両方から見て嘘でも、実際のところが真実である場合は?

 両方から見て真実でも、実際のところが嘘である場合は?

 これらの実験は繰り返す事で初めて意味を為すが、能力の詳細が判明する前にマコトの方がおかしくなってしまった。嘘を真実にするとは字面だけなら単純な能力だが使う本人からすれば嘘が真実になった事を感知出来ないせいで何も起きていないように見える。研究員が客観的に能力が行使されたと証明出来れば良かったが、証明出来るような範囲でしか能力を使わないのも性質実験には反している。また、マコトから見て嘘の場合は話がややこしく、使用者からすれば能力が発動したようにしか見えない為に度々揉めるとの事。実験記録によると生まれた時からこの実験を繰り返していたせいで精神が成熟しておらず、嘘と真実の区別がつかなくなった弊害に繋がる。

 真司の虚言癖はこれが原因だったのだ。


「………………よお」


 扉を開けて、気楽に挨拶をした。自分が夏目十朗だった頃を思い出しながら、或いは……彼と友人だった頃を懐かしむように。部屋の奥で毛布(彼が最初に能力で生み出した物体らしい)にくるまれた少年がジロりと来訪者を睨みつけた。十歳くらいの子供のようだが、ここは透子が脱走していない何十年と前の過去だ。真司もまた年齢を偽っていたと思うと、俺の周りには年齢詐欺しかいない。

「誰?」

「俺は…………未来から来たお前の友達だよ。こんな姿じゃ信じられないかもしれないけど、本当に友達なんだ」

「ともだち?」

「ああ……」

「本当か?」

「……」

 嘘と真実の区別がつかなくなったマコトは警戒心が非常に強くなっているそうだ。目の前の人物でさえ嘘の存在か実在の人物かも見分けられない……見分けられても自分の認識が信じられずそれで所長に失望されるのを恐れているのだとマツリビは言っていた。計画の凍結はマコトの不安定さ故なのだが、彼にとっては見捨てられるかもしれない恐怖に変わっているようだ。

「ごめん、嘘だ」

「……え?」

「俺はお前の友達だった。それは本当だけど……喧嘩したんだ。そんでもう仲直り出来なくなった。喧嘩した当時は自分が一ミリも間違ってる要素はないって思ってたけど……違ったんだよ。俺は、間違いだらけだった」

 理由は分からないが、クロウは俺にも愛される世界があると言っていた。夏目一心の性質からしてその世界における俺は兵器としての運用をされている筈だ。真司が俺を恨んでいた理由は……当時の俺にとっては筋違いでも、真相を知った今は。


 ―――あれ?


 じゃあなんで、俺の記憶にここでの生活は存在しないんだ?

 記憶消去プログラムを使われたと言われたらそこまでだが、無制限に使える代物でなさそうなのは真司の存在からある程度推察出来る。俺に対する恨みはここでの記憶がなければ成立しないものだが、もし用済みになって地上に追放したなら情報流出を避ける為にも記憶を消している筈だ、能力を能動的に使用されても困るだろうし。

 しかし真司はきっちり俺を恨んでいたし、能力を所有している様子は見られなかった。只々そこにあったのは虚言癖の男一人であり、実験体だった様子など微塵も感じられなかった。今となってはその虚言癖が実験の名残だったとも言えるが、やはり昔の俺にそれを察せるだけの情報はない。

 ……いったんこの話を考えるのはやめよう。片手間でマコトを説得出来る気はしていない。

「お前の……苦しみを知らなかったんだ。俺は……何も知らず生きて、愛されたかもしれない立場にいながらその立場を嘆いてた。こんな物は要らないって……そりゃ、お前が怒るのも無理なかった」

「何言ってんだよお前! 俺には全然分かんねえよ! お前が未来で俺のともだちになってるってんなら一つ教えてくれ。俺はしあわせだったか?」

「…………全く、幸せそうには見えなかったな」

「―――っ」

 もし幸せだった瞬間があるとすれば、俺を嘘で翻弄している時くらいだ。アイツは確かに言った、『せめてお前の友達として生きたかったのに!』と。恨んでも仕方がないとアイツなりに折り合いをつけようとしていなければあんな言葉は出なかっただろう。けれど俺はそんなアイツを突き放した。

 それ自体は間違っていると思わない。川箕は危うく強姦されかけたし透子はあれのせいで無抵抗を貫けなくなりかばね町を広げてしまった。元々かばね町がすぐ近くにあるような場所で治安よく過ごせと言うのも難しいが、あの一件をきっかけに俺は決定的に真司を突き放すようになった。

 真司は真司でやり方はおかしかったが透子の恐ろしさを知っての行動だとするならある程度筋が通らなくもない。だから行動を謝罪したいというよりも―――

「俺達はもう少し話し合うべきだったんだ。俺はお前の虚言癖にうんざりしてて適当に相手してたし、お前はきっと俺に本心を晒すのが嫌で仕方なかった。けど、それでも話すべきだったんだ。友達だって言うなら」

「お、お前は俺がウソツキでも友達だったのか!?」

 毛布を取っ払ってマコトが立ち上がる。俺に近づいてきて、肩に手を置いた。

「……う、嘘だ。俺にともだちなんて出来ると思えない! 俺に友達なんて……居ない!」



「居るよ、真司。ここに居る。俺は確かにここで生きてるんだ」



 俺の身体はもうじき死ぬ。けれど今は生きている。昔の俺はきっと出来なかったが、やろうと思えば存外簡単に頭を下げられた。

「真司、ごめん。本当は未来のお前に謝りたかったけど、もうそれは出来ないから。せめて今、謝らせてくれ」

「シン……ジ? それが未来の俺の……名前?」

「……」

 長い沈黙があった。脳内から急かす声もあったが聞こえない。協力を取り付ける前にこれだけは清算しないといけない。恨んだまま死んでいった真司を利用するだけして後は放置なんて―――それじゃあ忌むべきあの父親と同じだ。これが自己満足なのも分かっている、本来謝罪は事態を知る当人に行われるべきで事態を知らぬ当人に謝罪するのは卑怯だ。マコトは覚えのない出来事について謝罪されてきっと困惑している。

 それでも謝らせてほしい。どうせ死んだら、また謝る事になるのだから。

「なあ、お前の名前を教えてくれよ。俺のともだちの名前、知りたいよ」

「―――それは俺の”今”の名前か? それともお前に酷い行いをした”昔”の方か?」

「勿論、”今”だよ! だって俺に会いに来てくれたのはそっちなんだろ! お前の事はさ、来た時から変な奴だと思ったんだ! 俺に向かってうそついたり、ずっと前の俺に謝ったり、うそつきって分かってても俺と友達だったり。ケンカ、なんでしたか俺は分かんないけどきっとしょうもない理由だ。本で読んだぜ、友達っていうのはケンカするもんなんだ。そんで仲直りまでが一セット! だろ?」

 肩を激しく叩かれ、下げた頭を戻される。隣に並んで背伸びをしていたから少し膝を崩して身長を合わせるとマコトは嬉しそうに肩を組んできた。

「……俺は、ジュードだ。そう呼んでくれた方が嬉しいかな」

「そっか、じゃあジュード! 未来の俺に変わって俺が許す! 許さないなんて嘘だ! へへ、ともだちはお互いがお互いを許すべきなんだよ、そうだろ!」

「………………お前は。お前は優しいな、真司」

「そう! 俺は優しいんだ! きっと未来の俺も優しすぎるくらいだな! あ、でもそんな俺を怒らせるくらいだから余程変な事したんだな。ま、でも許すって言ったし取り消さないよ! 男と男の約束だ!」

「……ううう…………うううううう…………」

「おい、泣いてるのか? 男が泣いちゃいけないんだぞ! ともだちの泣いてる顔とかあんま好きじゃないんだけどな…………うーん、どうしたら泣き止んでくれるんだ?」

「…………ごめ、ごめん……なんかその、なんでだろうな。なんか…………よくわからん。俺も」

「んだよそれ、変な奴!」

「本当にごめんな真司。俺は最悪の人間なんだ。お前に謝りに来たのも本当は別の目的があるからで、純粋に謝りたくて来たんじゃ―――」

「でも謝りに来てくれたんだろ? だったらやっぱり許すよ俺。で、用事ってなんだ? 俺に出来る事なら何でもするぞ、友達だもんな!」






「―――俺の最愛の人を救ってほしい。お前だけが頼りなんだ、真司」


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