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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
LASTRASH  人間災害

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206/215

バラバラの人生

「<ここは……>」

「立場が逆転したなジュード。俺の身体の中に居る気分はどうだ?」

 目が覚めたら、と表現出来るようなタイムラグもなく、気づけばジャックの視界を共に見ていた。目の前にはクロウも居なければ川箕達も居ない。それどころか施設全体が清潔に保たれており、ジャックの居る部屋からはそれとなく消毒薬の匂いがした。

「<……意味が分からない>」

「ん?」

「<お前の能力は時間を巻き戻せない筈だ。俺は一体どんな理屈でここに居るんだよ。クロウの能力の影響かと言われたらそれも違う。アイツは過去から未来―――俺にとっての現在に干渉してきてるだけで時間を遡ってない、ちゃんと一方通行だ。何が起きてるんだ? まさか、川箕に特殊能力が?>」

「残念だが説明している時間はない。過去に戻れる時間は無限じゃないんだ、ロジック・コードでハックした機械は電力を食う。お前は時間遡行の道理など気にするのではなくトウコを救う手立てを見つけろ。ここは過去の研究所。現代で失われた手がかりがまだ生きている時間だ」

「<……気になるから後で説明してくれよな>」

「トウコを助けられたら自ずと分かるさ。説明などしなくともな」

 考えろ。きっと今までの行動は無駄じゃない。透子と生きてきた人生は、夏目一心の息子という立場は、悪党として生きた選択には意味がある。


『君は頑張ったよ十朗。言いなりの道具となるか何を為す事も出来ない一般人にしかなれない中でよくここまで頑張った。後は僕に、お兄ちゃんに任せてくれ。きっと君を幸せにする。約束するから』

『……ぐふ。夏目、一心。お前の父さんの名前、だな。でもそいつは、俺の、お父さんだ』

『……お、お前は失敗作だ。俺から席を奪ったのに、おま、お前は父親の望む人間にならなかった。ゴボっ! 幸せになんか、させねえ。お前はここで俺と、死ね』


「<……ジャック。お前はここに居た人造人間について全員把握してるか?>」

「俺もその一人だから、知る由もない。なら話は単純だ。知っている奴の所に向かうぞ。何か思いついたんだな?」

「<ああ。そういえば知り合いにもう一人、研究所の出身が居たと思ってな>」

 俺に対する敵意のあまり錯乱したかと最初は思っていた。俺の父親がどうあれそれはアイツには無関係だと。だがその認識は間違っていたと今なら分かる。全ては繋がっていた。きっと透子を従順な兵器にする計画が失敗したその日から。

 ジャックが廊下に出ると、白衣を着た職員と遭遇した。俺がここで見たのはとっくに寂れた廃墟故、少し面食らう。ここで働いていた人がまだ生きている時代なら探せばまだ己に絶望していない透子にも出会えるのだろう。会いたい気持ちがないと言えば嘘になるが俺は未来を生きる人間。助けるならまずは未来の透子だ。

「<一つ聞きたいんだけど、ここでクロウを殺したら未来って変わるんじゃないか?>」

「トウコと喧嘩して勝つ算段があるなら是非聞かせてほしいくらいだが」

 そういえばそうだ。彼女は地上に出てから災害と呼ばれる程強くなったのではなく最初から強いんだった。ジャックにもクロウにも勝ち目がなく、世界大戦の勝者である国でさえも遂には討伐出来なかった規格外のバグ。再現性のない人外。


 ―――あの時お前は、どんな気持ちだったんだ?


 俺に災害として見てほしいと言ったあれは、本音でもあり嘘でもあった。人間として扱われる事を諦めるその苦しさから逃れる為、或いは災害としての在り方を既に世界中から認められていた故。そんな心にもない言葉をまるで希っていたように。

 ジャックが足を止めた場所には、無数の配線が通った無機質な球体が吊るされていた。手前のスイッチを操作してレバーを引くと、球体の足元にあったゲートが解放。下から巨大な水槽が突きあがり、球体を水の中に沈めてしまう。

「起きてくれ、マツリビ。話したい事がある」

「<マツリビ……って>」




「アナタから私を起こすなんて珍しいですね。勉強嫌いが治ったのでしょうか」




 水槽を満たす液体を通して響く声は部屋全体に染み渡る。喋っているのはそこにある球体に間違いないが、しかし語りかけてくる声は耳元から聞こえてくるようだ。これが研究所を支えていた管理AI……透子の母親に当たる存在。

「おや…………クロウを連れてきたのですか? いいえ、違いますね。誰でしょう」

「聞いて驚くな。こいつは夏目十朗! 所長の最高傑作だ」

「………………」

「<おい、信じられてないぞ>」

「いえ、クロウの嘘は分かりやすいので見分けはついています。どうやら私の与り知らない場所で予想外の事態が起きているようですね」

 うわ、と思わず声を漏らした。ジャックにしか聞こえないと思っていたから喋ったのに聞こえていたなんて。

「安心してください。私の発言や行動は全て記録されますがこの一瞬の奇跡には無関係でしょう。貴方はそう長くは居られない、違いますか?」

「<そ、そうです。マツリビ、俺についてはさっきコイツが言った通りで、聞きたい事があってやってきました。えっと……出鱈目に思うかもしれませんけど、俺は未来からやってきていて。そこでは貴方が活動停止し、研究所も放棄されています。透子を助けるには情報が足りないんです。協力してください!>」

「あの子が……そう、危ないのですね。私の把握している情報で彼女の身を脅かす要素はありません。詳しく聞かせて下さい」

 透子がクロウの手によって記憶消去されそうになっている事。

 ジャックの奇策によって短時間過去に戻っている事。

 それらを簡潔に伝えた上で、俺は本題を切り出した。

「<マツリビ。一葉真司って男を知りませんか?>」

「カズハシンジ……それは少なくともこの研究所では使われていない名前ですね。何か特徴はありませんか?」

「<特徴………………男、じゃ駄目ですよね。俺の同級生ってのも関係ないし。虚言癖ってのも単なる性格だしな……>」

「おや、それで十分ですよ」

「<え?>」

「虚言癖。それは個人の性格ではなく度重なる実験によって生まれた歪みです。データベースの中には各個体の性格や特徴が記載されています。虚言癖を持つ者の名は……マコト。貴方の時間では死亡しているのでしょうか」

「<……まあ、はい。それでそのシンジ……じゃない、マコトは何処に?>」

「一つ注意をしましょう。彼の能力についてです」

「<の、能力?>」

「やはり存じ上げなかったのですね。マコトに対する実験計画はある時を境に全て凍結されています。ですからくれぐれも気を付けて、彼の能力を教えますから」


















 マコトの現在生活区画は閉鎖状態にあり限られた人員しか立ち入れないようになっているらしい。ジャックも当然だが行った事はないし何なら存在すら知らなかったようだ。

「<こんな能力があってまだ透子より弱いってのかよ>」

「言っただろう、トウコは殆どファンタジーの存在だと。魔法としか思えないような最先端技術と本物には大きな隔たりがある。口にした嘘を真実に変える力があろうと干渉は……出来ないんだろう」

 マツリビには実験記録(現代では黒塗りにされていた箇所だ)を見せてもらった。そこには実験が凍結した理由が細かく記されており『気をつけろ』という発言の真意は能力その物よりも今のマコトの状態にありそうだった。

「<多分誰も言わないんだったら俺が言うけど……お前ってせこいよな>」

「何だ? 散々俺に対する実験で血を浴びる方が悪いだろ。今の今まで悪用しないでやったんだから、一度くらい使わせろ」

 人の立ち入りが制限されている以上俺達に為す術はないと思われたが、マツリビによる権限付与とジャックの能力による正規職員の支配によって区画への侵入は難なく成功した。 問題はここからだ。

「<俺が喋る。マコトの前に来たら代わってもらってもいいか?>」

「……お前をここに呼び寄せたのはクロウの作戦に乗らずトウコを助ける手がかりを見つける為だ。だがここにきて状況は変わった、そうだな?」

「<ああ。正直過去に戻った程度でどうにかなるもんか見当もつかなかったけど、そういう能力なら……アイツに協力してもらった方が良い>」

「直前に読んだ資料を忘れてはいないと思うが一応。マコトは()()()()()()()()()()()()()を持っている。そして奴は、度重なる性質実験により嘘と真実の区別がつかなくなった状態だ。今はイマジナリーフレンドとの会話で精神的に安定している様だが、お前が接触すれば状況は変わる。チャンスは能力の危険性と時間を加味して一度きりだ。いいな?」

 専用の区画から更にエレベーターを使う。降りた先の部屋が―――アイツの家だ。




「……任せてくれ。俺とアイツは友達だったんだ。だった…………からさ」

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