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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
LASTRASH  人間災害

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199/215

命尽きる頃に人は無し

 出航してから実に三日。口には出さずとも我々は着実に詰まされていると私だけが気づいていた。

『……ジャック、返事をしろ」

「ボス、水槽の魚は動きませんぜ」

「そんな物は見れば分かる……そして、あまりにも最悪だ」

 これまでの二日間、休まる時もなく襲撃を受け続けた、その殆どはなの子とジャックにより対応してこられたが曰くその全てが特殊能力者による襲撃であり、兵装による攻撃は一度としてなかったとの話。また、日付が変わってからはまだ一度も攻撃されていない。死出の航海は順調に進んでいると喜ぶ部下も居るが私にはかえって不安ばかりがのしかかっていた。


―――何故魚雷の一つも撃ってこない?


 なの子が居ればこの艇にそれらが命中する可能性は限りなく低いだろうが、向こうにはその資料が―――なの子についての情報が外面的な物しかないと見ている。それはここ数日の襲撃を見てもそうだ。誰もアレを攻略出来ていない。デストロイモードはまだなんの支障もなく稼働し続けている。

 特殊能力で対応出来ないならいっそ火力に頼るのも手だ。というか私は火力から先に頼ると思っていた。それが通用しないと分かっているなら襲撃に来る能力者はなの子に対応出来て然るべきであり、それが出来ていないならやはり情報が……と思考がループしている。国を侮る余力はない。まして我が神を創り出してからも何処かで同じ研究を続けているなら当然最適解を選べる可能性の方が高いと思っていたのに。何が起きている?

 それに、四時間程からジャックの応答がない。度重なる襲撃で寄生出来る生物が周辺に居なくなったのが原因? それで失われるのは艇の外の景色であって精神寄生には無関係だ。少なくとも返事は出来る。

 内線で合意の監禁状態にある少年に電話をかけると、すぐに繋がった。


『何も聞かないぞ。なの子に指示でも出したいのか?』

『そうではない。少年、アレに何か見てないかと聞いてくれ。具体的には、そうだな。生物でも現象でも……その辺りだ』

『レーダーには映らないのか?』

『昨日は正にそのステルス能力者が来たんだ。確認しておきたい』


 レーダーとあの兵器による目視の二重探知にはそうそう漏れがない。敵も味方も等しく発見出来ると信じてこの体制を取った。ジャックの寄生する生物を探すならレーダーに頼るよりもアレの目視に頼った方が確実だ。元は魚雷を察知する為のレーダー故。


『……何もないって』

『何も? 妙な言い方をするな? 随分な距離を進んだがこの数日に海中生物が絶滅したという話は聞いた事がない。我が神でもなければ現実的ではないな』

『本当に何もないらしい。魚も居ないし微生物も見えないって』

『……そうか』

 部屋を切り替え、今度は動力室に。


『は~い……何ですか? 別にサボってないですよー』

『ティストリナ。この艇のブースターは貴様だ。動力周りに変化はないか?』

『さあ、異物は入ってませんけど……ああでも、この艇の周りの水、私と同化しなくなっちゃいましたねー』

『……』

『何故それを報告しないのかって沈黙ですけど、私はこの船の動力源でしょ? 丸三日も働き続けてもう疲れてるんです。今は凄く、泥の様に眠りたいんですよぉ』

『待て。貴様に眠られると我々も海底で最期を共にしなければならなくなる。今からそちらに向かうから、まだ起きていろ』

 彼女の仕事は重大で、スクリュー共々この艇を前に動かす動力源……軌道に変化があれば気づけたが、度重なる襲撃もあってすっかり意識を回せなくなっていた。海の一部と同化した身体は自在に海流を操り水の抵抗を弱める事でこの艇の最大速度を最大限高めている。

「少し席を外す。操縦席には貴様が座れ」

「分かりました!」

 廊下を抜けた先にある梯子を下りればそこが動力室だ。万が一内部に裏切者が居て細工をされる危険性も考慮して液体人間以外は中に入れないよう扉を封鎖してある。今はそれが仇になっているが、無問題だ。ティストリナは私の足音を聞きつけ扉の隙間から姿を現わした―――。

 頭部だけになって。

「ばあ」

「同化しないとはどういう事だ?」

「私の身体は……こうして液体になってる間は他の液体に触れると同化します。ついこの間までは問題なかったんですけど、昨日くらいから水に触ってる筈なのに同化出来なくなっちゃって、この速度を維持するには体の大半を外に出さなきゃいけなくなったんですよねー」

「それは言葉の綾という奴か? それとも単なる強がりか?」

「へ?」

「同化の主導権は本来貴様にある筈だ。同化までは強制でもしてからその物質をどう動かすかは貴様の意思に委ねられている。だが今はその逆で主導権がなく―――身体を海に吸い込まれているのではないか?」

 仮にもこの身体は神の祝福を賜った身。人造人間の能力についてある程度の理解はある。道中でかっぱらってきた水をティストリナの頭部にぶちまけると、頭部の解けた面から透明な上半身が形成されていった。

「同化出来なくなったなら、私はそう考えるぞ」

「……そうだとしても、私にはどうしようもないですよ?」

「いいや、一つ確かめる術がある。ちょっと待っていろ」

 梯子を一旦上って踵を返した先はキッチン。その収納に溜められているペットボトルを十本ほど持ち出すと、梯子の上から中身を全てぶちまけた。

「ボス!? な。何してるんですか?」

「どうせ死ぬからっていくら何でもあんまりです!」

「黙れ! 聞け貴様等! 我々はこれより水面に浮上する! 各員、銃を手にし警戒態勢を取れ!」

「どういうつもりですかー!?」

 梯子の真下から張りのある声が聞こえてくる。身体は作り直せたようだ。

「ティストリナ! その水と引き換えに外の身体を連れ戻せ! 同量の放出があれば問題ないだろう!」

「はい!?」

「もっと根本的な疑問を持つべきだったのだ! ずばり―――今、我々が潜っている場所は本当に海なのか、と」




















 三日ぶりに浮上した我々が見たのは、にわかには信じがたい光景が。しかし日が変わってから襲撃がとんと静かになった理由の全てがそこに詰まっていた。

「なの。まだ目的地じゃないの」

「……貴様は分かっていたな。ここが海ではなく、何者かが作り上げた全く別の空間だと」

「なのはお兄ちゃんを守るのが仕事なの。危ない事が起きないなら気にしないの」


「ど、何処なんですかここは……?」

 

 ハッチから顔を出した部下の一人が呆気に取られて思わず呟いた。晴れ渡る空に広がる青海、物音一つない水面に我らだけが浮かんでいる。

 波の音すら、ないのだ。

「この静かな海に連れ込まれた瞬間を貴様は見たのか?」

「それは分からないの。なのも気づかない内に凄く静かになってたの。ここは海じゃないけど、でも危ない事は起きそうにないの」

「そうだろう! ……追い込み漁だったのか。我が神の出来損ない共を投入してまで気を引かせ、簡単に対処させる事で成功体験による警戒心の麻痺を狙われたのだ」

「なの?」

「目的地までの最短距離―――かばね町から研究所までのルートに行き止まりを作れるならば我々が引っかかる可能性は十分に存在する。前を見ず、後ろばかり気を取られていたのだからな。ジャックとの連絡が途絶えた理由もこれでハッキリしたな。これも能力―――推測に過ぎないが、海に酷似した亜空間に閉じ込められたとみるべきだ」

 この推測が合っていようといまいと事態の深刻さは然程変わらない。知らない能力に対処する方法が我々には存在しないのだから。




「…………DEADEND(詰み)、か?」

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