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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
LASTRASH  人間災害

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198/215

堪える 絶える

「それにしても時計がないのは不便だな。まるで閉じ込められてるみたいだ」

「携帯も今は圏外なんだよね。あーここ抜けないかあ。なの子ちゃんに聞いてみたら?」

「十二時間くらい経過してると思いますっ。目が見えなくなってばかりの頃は時間をずっと数えてたので、自信があります!」

 むふーと自慢げに言う少女の発言を信じない訳ではないが、ここに時計がない理由とは関係がない。時間が分からないと長くも感じるし短くも感じられるせいで否が応でも不安になる。例えば今はジェンガをしているが、いつこの艇が揺れてゲーム自体がちゃぶ台返しをされるか分からないという緊張感がとても面白い。面白いが、考えている内に冷静になってふと時間を確認したくなる。それが苦痛だ。

「ニーナ、君の番だよ」

「うーん……お姉様、このバイザー、重心は視覚化されないのですか?」

「え~そんなの日常生活で使わないもん。非視覚情報が映るのは不公平だし自分で考えなきゃ」

「<時間について知るのはおススメしないな。頼むからこの部屋から出るなよ>」

「知るのも駄目なのか? レインやティカ達がピンチだと知ったら助けに行くだろうからって理由で連絡を取らせないのは分かるけど、時間くらいいいだろ」

「<航海は液体女の力を借りて限界まで短縮しているが、それでもここは海の中、景色なんて呼べるものは岩礁と魚くらいだ。人間は元々陸上で暮らしているからな、海に長時間出るのは慣れてなければおススメ出来ない。たとえ暇潰し或いは仕事が充実していてもこの環境に飽きてしまうぞ>」

「そういう物なのか。あんまりそんな気はしてないけどな」

「<ましてお前は何があっても無駄に命を削るような真似は避けろと言われているんだ。この艇が破損すればお前以外は全員死ぬだろうが、それでも全員を助けようとした時点でこの計画は失敗に終わる。分かるか? お前は何もしてはいけないんだ。その苦しさを和らげるせめてもの手段が時間を把握させない事になる。飽きたら寝て起きてを繰り返せ。いいな>」

「無茶苦茶だな……」

 しかしトラブルが起きてほしいとは思わない。災害の力を手にしているのに何もしてはいけないなんて生殺しも甚だしい。誰かが死ぬなら俺はその死に介入してはならないという意味なのだから。

「―――でもそれが最善なんだよな。俺が何もしなくていいのが」

「<ああ、そうだ。何もしなければひょっとすれば生き残れる可能性…………も…………>」

 体内から感じる人格の気配が薄まっていく勝手に動いていた口は嘘のように静まり、ニーナがジェンガの一本を抜く音だけが聞こえるようになった。

「ジュード様。お次はジュード様の番ですよ?」

「……ああ」

「夏目。何もしない、だからね。歯痒いのは分かるけど守らないと」

 俺達を送り届ける作戦は参加者全員が全滅する想定で練られている。メーアもそれは明言していたが、したのは飽くまで作戦中―――米軍を突破するにあたっての話。その後については曖昧にしていた。

 現実はゲームと違ってクエストをクリアしたらリザルト画面に移行する訳じゃない。奇跡的に余力を持って俺達を所内に送り届けられてもその後がある。限られたリソースで求められた無茶難題は包囲網の突破だ。殲滅じゃない。俺達以外は所内に行かないで留まるか逃げるかを選ぶ事になるのだろうが、果たしてその時まだ生きられる可能性があるかどうか。


 ―――なの子、頼んだぞ。


 成功のカギは彼女にかかっている。こんな道具として搾取するようなやり方は到底認めたくないが、唯一の決戦兵器なのも事実だ。だから……身勝手かもしれないがどうか。




















『similaire』

 操縦室で水槽の魚を眺めていると、小魚達は己の身体を用いて簡潔に文字を作った。最小限、そして最大限。私にはその意味が手に取るように分かる。

「モーティマ! 艇内に異常は?」

「は、はい? いえ、まだ」

「そうか、進路を変えろ。ジャック、何処からやられた」

 『同類』。

 その言葉だけで十分。我々の想定は少し甘かった。人間型災害やジャックへの対抗策を用意してあるという想像が出来て何故同種の特殊能力者が投入されている発想が生まれなかったのか。答えは単純。元よりこの作戦に勝算がない故に負け筋を全て網羅するなど馬鹿馬鹿しかったからだ。

『élect』

「……感電だと?」

「な、何ですか?」

 やはりこちらの戦力はキョウを殺害した時点で何処かから流れたのか。少なくともティストリナ・アーバーが自身を液体化させる能力を持っている点はバレていると見て間違いない。研究所は海上に存在する前提も踏まえて投入したのだろう。内戦に切り替え、動力室に連絡を試みる。


『はいはーい』

『どうも我々が下から抜けようとしている事に勘付かれたようだ! 貴様の能力で敵の方向を割り出せないか。仮にも部分的には海と同化しているんだろう?』

『……魚が沢山死んでる方向を避ければいいんですかー?』

『暫く操作は貴様に任せる。海流を動かしこの艇を守れ!』

  

「大変ですボス! レーダーに大量の反応が!」

 通信が終わるのを見計らった訳ではないだろうが、また一人飛び込んでくる。血相を変え、すぐそこの部屋からやってきたのに息も絶え絶えといった様子。

「反応? 魚の死体ではなくか?」

「いえ、つかず離れずの距離を維持して追跡してきています。。恐らくは特殊能力を持った存在かと!」

「……少年」

 無線機を手に取り、彼らの住まう部屋に内線をかける。彼のタイムリミットについてはバレていないと思うが、それでも向こうは人間型災害を暴れさせた方が得策と考えるだろう。艇内で暴れさせれば仮に兵を追い払えても我々は全員死亡する。アメリカにとってはそれで十分。研究所に近づかせなければいいのだから。


『なの子に指示を出せ!外の敵を撃滅せよと!』

『断る』

『何? いや…………違うな』


 間髪入れずに返すような人柄ではない。声は無線越しに聞く彼の声だが、しかし私には分かった。この耳は誤魔化せない。どれほど声を似せても滲む悪意は消えたりしない。


『誰だ?』

『我々は貴様のような悪党を壊滅させる正義の味方だ。艇に乗員している人物は全て割れている。大人しく投降しろ』

『内線を乗っ取るとは変わった能力だが、不用意に近づかない辺り、なの子の事を知らなそうだ。データがあるならお前達はすぐに対策をするだろう、私でもそうするからな!』

『……目標を破壊せよ』

 レーダーの指示器を一瞥する。部下の一人が情けなくも取り乱していた数多の生体反応が次々と減っていくのがハッキリと示されていた。

『灯台下暗し、ということわざが日本にはある。その能力、随分と脇が甘いようだ。さて、貴様の率いる隊は後何人居る』

『…………な』


 強いノイズが一瞬走り、間もなく同じ声が聞こえた。


『メーア。大丈夫だったか?』

『少年! その部屋は特別な防音加工をしてあるのだが、耳が良くて助かったぞ! お陰様で何とかなるだろう。やはりあの少女兵器を米国は知らないらしい。一難は去った……が』

『また一難?』

『ああ。やはり我が神を創り上げた研究の主導国家というだけはある。研究所には入れていなくともデータはある程度まで持ち帰れていたのかもしれないな。少年となの子、そして私のみが奴らの想像を超え得る……恐らく、これから来る刺客も全て何かしらの能力を持っていると見て間違いない。すまないがよくよく耳を澄ませていてくれ。浮上するまで艇内の者は役立たずだ』

 武装についてはお守り程度の認識をしている。魚雷の一発や二発、撃ったところでどうにかなる未来は正直見えない。なの子、ジャック、ティストリナ・アーバー。これら三人を上手く活用してだましだましやり過ごしていかねば。

 操縦室の水槽に戻ると、また魚が文字を象っていた。席に座る余裕もなければ、その余地もない。




「…………やれやれ。一息つく暇もなしか」


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