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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
LASTRASH  人間災害

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197/215

いつか鴉となって再会しよう

「あ~、ジュードさんと一緒の艇じゃないなんて最悪ッス。生きてる意味が……半減ッス」

 

 ―――ボスも自分の恩人に再会したいからって尤もらしい理由をつけるんじゃねッスよ。


 ティカは船に積まれた僅かな装備に目を通すと、必要分を装備して甲板に立った。まだここは日本の領海内で、同盟国からの攻撃を受ける心配はない。けれどこれは所謂時限爆弾とか寿命とかタイムリミットとかそういった類の安心であって、生きて帰れる保証なんて何処にもない。あの人と同じ。

「サマンタ、久方ぶりに同じ船だな」

「おーディートリヒ。アンタも不幸ッスね、非戦闘員扱いは無理があったみたいで」

 今回の作戦を外された人間の殆どは先の戦闘で重傷を負ったかその看護の為の人員だ。例外的に液体女の妹を保護している人間が居るくらいで残りは全員どこかしらに割り当てられている。鴉には身元なんてないから最期に遺言を伝えたい人物も居ないけど、これから死にに行くと分かっているならせめてあの人と同じ船に乗りたかったと思う私も居た。

「死にに行くのに後悔はないよ。俺達はたまたまボスに生かしてもらってただけだ。死ぬタイミングをボスに弄られただけでこれが本来の運命なんだよ」

「そりゃまた随分な割り切り方ッスね。あたいはもっとジュードさんと一緒に生活したかったッスよ」

「……なあ、もういいだろ」

「んぇ?」

「もうお互い死ぬんだし本音で聞かせてくれよ。俺さ、実は結構納得いってなかったんだ。本当にお前、アイツが好きなのか?」


 …………


「ジュードさんの事ですよね。そんな疑わしかったんスか?」

「だってあんな奴の何処がいいんだ? 透子さんが付き合いの長さで惚れたのは理屈として分かるけど、お前顔だろ? 顔ってそんな……全然格好良くないじゃないか」

「イケメンだったらオーケーなんて言った覚えもないッスけど。見た目だけで惚れるのはそんな悪い事なんですか?」

「どう考えても惚れるなら俺みたいに付き合いの長い奴だと思うんだが?」

 見た目で惚れたなんて発言はジュードさんを喜ばせる為の表向きのお世辞みたいなモノで、実際お前は惚れてないと言いたいらしい。心外とは思いつつもしかし……互いに死ぬという状況には一理ある。あの人と無線が繋がっているなんて事もないし、確かに本音は……言えるかも。

「確かにですね、お世辞入ってましたよ」

「ほら見ろ!」

「ボスに言われたんですよ。女にチヤホヤされてる方が精神的に支えになるとかなんとか。命令だったらそりゃやり遂げますよ。まあ当時は死にかけで体もぐちゃぐちゃだったんでチヤホヤってどうすんのかさっぱりでしたけどね!」

 けど、それは最初だけ。

「あたいはね、愛されてみたかったんすよ」

 ディートリヒが怪訝な表情を浮かべているが、それは一言で表せる。『俺達は十分メーア・スケルコに愛されているだろう』と。

「借金のカタに娘売るくらいあたいの親はまあクズで、救いようのないゴミ。居場所が分かってたらぶっ殺しに行くくらい恨んでます。そんなあたいでも愛されたいって思うのは別に自然な事じゃないんスか? なんか、不思議に思ったんスよ。譫言のように透子さんの名前を呼ぶあの人の顔を見てたら、簡単に捨てるくらい愛情がないのにどうしてあたいを産んだんだろうって」

「ヤッたら出来たんだろ。お前が欲しかった訳じゃない」

「実際はそうかもッスけど、幻想を抱かせて下さいよ。幸せな生活がしたくて、愛していて、愛した人と幸せに暮らしたくて産んだんだって……思いたいじゃないですか」

 愛される感覚を知りたかった。愛されたかったらまずは誰かを愛してみてみればいいと思った。だからボスの発言は私にとっては渡りに船で……好きになる理由なんて何でもよかったのだ。あの人はそんな私にまた愛を見せてくれた。

 自分が死にかけても透子さんの名前を呼び続けるのを、愛以外に何と言えばいい。あの人は多分、寝てる間の事なんてさっぱり覚えてないだろうけど。

「愛されたいって気持ちは今でも残ってますけど、もう誰かに愛されたいとは言いません。愛するって、必ずしも同じ感情が返ってくる訳じゃないんだって分かりましたから」

「それって……」



「返ってきたのは恋愛なんかじゃないって事ッスよ」



 恋愛を求めて、返ってきたのは信頼/親愛。私が求めた愛情の形とは違っていたけど、本当に欲しかった愛情は……。

「だからもう、いいッス。人を好きになる理由なんて何でもいいし、とりあえず答えは出たんであたいの実験はこれで終了。嘘も言い続けたら真実になる。気づいたらマジでジュードさんの顔が好きになってましたからね」

「なあ俺は? 俺はどうなんだ?」

「顔が駄目。あーあ、遠くに艦船が見えてきたッスね。いよいよ死ぬ時ですか。お互い頑張りましょうかディートリヒ。少しでも引き付けて使命を全うしないと怒られちゃうッスからね」

 鴉の一員であれば、深き夜に歓迎と喝采の声が聞こえる。群れに戻れば、最期に残るは一羽の羽と死肉の残骸。

「―――さあ、最期くらい派手にぶちかますッスよー! 海で盛大な火葬をしてやりましょう! あたいらは薪! 燃えて煙となって空に上がって―――」




「やがて『鴉』として再会しましょう!」























「バイザーの調整してる姿なんて久しぶりに見た気がするな。ずっと離れてたからだろうけど」

「いや、夏目と別れてから調整は行ってないから久しぶりってのはどうかな。私も久しぶりなんだよね。自分で言うのも変だけど、このバイザーって構造が凄く気持ち悪い……透子ちゃんの設計図がないとまず二個目とか無理だね」

「ジュード様のお身体から異音がします! お姉様、すぐにお医者様を探しましょう!」

「それは……だいぶ手遅れだ。海の中にお医者さんは居ないからな」

 こんなやりとりも久しぶりだ。以前の俺はこの生活が幸せ過ぎて彼女達をひっくるめて家族なんて表現もしていたっけ……今になって思うと凄く恥ずかしい。でも撤回はしない。幸せなのは今もそうだし、何より……守りたいと思う物があるならやっぱりそれは家族だと思うから。

 しいて言えばニーナも含めて能動的に接触が出来ない事は困るけど、それはもういい。歓迎会で散々プロレス技をかけられた事と年端も行かぬ少女に抱き着かれるのは俺の中では同じ感覚になってしまった。されるがままが一番だ、制御する為のAIが体内に居ないなら。

「まあでも、それが楽しみな私も居るんだけどね! 研究所でどんな技術が見られるかワクワクしてるんだ! 最新技術に一番最初に触れるのは悪党だけって本当だったんだっ」

「お前は研究所の中に放置しても生きていけそうだな」

「えへへ、好奇心でお腹を満たしちゃう?」

「<お前等、内部にも軍人が居るのを忘れるなよ>」

「おいジャック、空気読んでくれよ。ちょっとした冗談なんだからさ」

 実は少し気にしているのかもしれない、一言文句をつけただけでジャックはすぐに黙ってしまった。以前はこんな風ではなかったと思うが、俺に気を遣ったにしては何だかふてくされているようにも見える。

「……中に別の人が居るのってどんな気分?」

「結構最悪だ。特に強火の透子ファンなのが困る。捻くれてるしな。お前こそどうだったんだ? レインに化けてる間、KIDから何もされなかったか?」

「あ、うん。解釈違いだから喋るなとはずっと言われてたよ。でもそれだけかな。考えてみると私とレインさんって全然人柄が違うから自由に喋らせたらボロが出るって考えてたのかもね。裏を返すと喋らなかったら何をしても良かったから、結構自由にはやれてたと思う」

「ジュード様、頭の中の御方は取り出せないのですか?」

「<それは不可能だ。こいつは俺によって生かされてる。邪魔だと思われてもお互いどうしようもない。俺だってお前達のいちゃつきなんぞ反吐が出るわ>」

「ジュード様の口を使って汚い言葉を喋らないで下さい!」

「なんか、夏目って結構美化されてるよね」

「ニーナに聞こえてる場所ではちょっと言葉を選んでるよ。まあ、ほんのちょっとだけ」

 研究所が近づくまで何があっても行動してはならない。それを意識しながら張り詰めた緊張を維持するのは非常に難しい。だからこうして団欒によって時間を忘れようとしている。最期の日常だと思ってくれればいい。これが最期の。

「あんまり味わえない体験だし、ご飯食べよっか。持ってくるね」

「ジュード様、お姉様が返ってくるまでトランプをして遊びませんか?」

「いいけどニーナには見えてるのか? 柄が」

「ジュード様が教えて下さると聞いていますよっ」

「ゲームが成立しないだろ!」







 

 




 幸せ。

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