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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
LASTRASH  人間災害

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196/215

かばね災害の始まり

 港に戻ってくると、レインが俺を待っていたように艇の前で佇んでいた。顔を隠さなくなった今となっては表情が見えるだけでも違和感が凄いが、そのお陰で喋らずとも事態をある程度察せる。

「何かあったのか?」

「悪い知らせと更に悪い知らせがあるが、どちらから言おうか」

「……良い知らせはないのか?」

「ない」

 きっぱり。そう言われた。

 透子を連れ戻す作戦が始まる前からこんなに前途多難になるとは思いもしなかった。まだ内容は聞いていないが、レインの様子から見て前向きになれる気は一切しない。

「良い知らせを無理やり用意するなら、対処のしようはあるという事かな」

「いや、要望に沿わなくていいよ。悪い知らせを言ってくれ。もう何が起きてもやるしかないんだからさ」


「自衛隊が我々の目的を察知してか本格的に行動を開始するそうだ。我々をこの国から追い出す……国土防衛作戦としてな」


「は、はあ!? それって、専守防衛と話が違うんじゃないのか?

「必要最低限度の武力で敵を追い払う、か? とはいえそれらが決定された時にかばね町は存在しなかった。この町は日本の法律が機能していないまるで別の国だ。昨今の国民感情優先の政治を考えれば最悪こうなるのも頷けるな」

「ニュースとかあんまり見ないから詳しくないけどさ! そういうの反対する人達が居ただろ! 軍隊を人殺しって揶揄する人が……思想の是非は一旦置いといて、その人達は止めてないのかよ!」

「あれは高尚なる信念の下に批判している訳ではないからな。悪党の巣窟に喧嘩を売るだけの度胸はなかったというだけの話だ。それで更に悪い知らせの方だが」

「納得してないまま話を終わらせないでほしいけど、これより悪い知らせがあるならどんとこい! 十分最悪だ!」


「アメリカにこの情報を共有された。日本と同盟国故、直接土地が爆撃される事はないかもしれないが、海に出ればそうはいかない。共同作戦の餌食となるだろうな」


 悪い知らせと更に悪い知らせ。何一つ嘘は吐かれていない。勝手にベクトルを勘違いした俺に問題がある。悪い知らせに対する上乗せ情報があるから更にという表現を使ったのだ。どうしよう、話を聞いてる限り八方塞がりになるのは時間の問題だ。二つの国が俺達を潰す為に手を組んで襲い掛かってくる。

 自衛隊とは名ばかり……なんて言葉遊びしている場合じゃないし、自衛という言葉はあながち間違いではない。この作戦が成功したらかばね町はいよいよ悪党の聖域として完成する予定がある、分かり切った悪の芽を事前に摘んでおくのは十分自衛の範囲だと俺は思う。そんな領域が存在する事で損なう国益だって半端ではないだろうし。

「いやー全く困っちゃったッスよねジュードさん」

「ティカ! ここに居る奴らは全員同じ報告を受けてるんだよな? なんかその割には落ち着いてるような……いや、そうか。対処のしようがあるって言ってたな! どうするつもりだ? 教えてくれ!」

「その説明はうちのボスからしてもらった方が良さそうッスね。権限的に」

 船の方に向けられた指を辿って視線を向けると、見計らったようにメーアが甲板に上がってきて、俺に指で挨拶をした。

「もう身体はいいのか?」

「我が神まであと一歩の所なのにいつまでも休んでいられる筈もなくな! 話は聞いていた通り深刻だ! かばね町の中に裏切者が居て、連合が解体されてからの我らの動きを警察に流したのは残念でならないが、一方で孤軍奮闘という訳でもない。我らはそれぞれ『鴉』『マーケット・ヘルメス』という組織を後ろに持っているではないか」

「龍仁一家は省くんだ……」

「あそこは元々が弱小組織で、この町が出来てから勢力の増した組織だ。この町では絶大な権力を発揮出来るが外からの援軍は期待出来ない一方で我らには援軍がある。ここは日本支部だからな」

 メーアは船から降りると倉庫からホワイトボードを引っ張ってきて持っていた海図を雑にマグネットで張り付ける。俺も含めてまだ港に残っている人物たちを集め、世界地図の提供を求めた。

「マーケットの方は向こうの采配に期待するしかないが、我々は三つの支部から援軍を受けられる予定となっている。米兵はともかく自衛隊共はこれで少し戦力を割けるだろう。何せ援軍は兵士ではない。不法滞在者なのだからな」

「……? 一般人って意味なら、戦力として数えるのは微妙じゃないか?」

「いいや、そうとも限らん。移民や難民の受け入れは現代の戦術兵器だ。この国の資源を食い潰し、真っ当な社会を疲弊させる。支部から大量の不法滞在者を難民として船で送り出しこの国に保護を求めるのだ。生きた人間が死人より余程手のかかる存在なのは分かるだろう? それを我らと同じ犯罪者として逮捕するにせよ難民として保護するにせよ―――手間がかかってくれるならそれで構わん。我らが研究所へ向かうまでの時間稼ぎさえ出来ればいいのだからな!」

「マーケットの方は普通に兵士なんスよね?」

「ティカ、貴様話を聞いていなかったな?」

「うへ~ジュードさんの事考えてたら聞き流しちゃいました! てへへ」

「勿論兵士だ。その女が言う対処とは正にそれだな。我々だけでは到底事態を打開出来ない故、外に力を求める。合理的な策だ」

「もっとも、アメリカの方はどうにもならないがな。公安としての立場も国が違えば意味を為さない。私がCIAにでも居れば良かったが」

「そちらは……そうだな。囮の船を用意して少年を通過させる作戦も考えたが、果たしてそれを行うべき時は研究所の手前だろう。よって米国の第一包囲網は我々の総力で以て正面突破をするしかない」

 小細工など圧倒的力には無力。透子を知る人間は彼女と対峙してよく分かっている筈だ。人も国も変わらず、祀火透子は遂に殺せなかった。俺達の兵力と大国の兵力にはそれくらいの差があると思った方がいい。あながち無謀とも言い難い。俺達には頼れる切り札がある。

「ティルナさん、ですね?」

「察しがいいな少年。しかしあれの体質は海を操作出来る程ではなかった。出来るのは表面を少し動かす程度だ。我々が普段使いする船はスクリューによって加速しているがその手助けをさせられる。本来以上の出力で進む事が出来ると言えば、察しがつくのではないか?」

「ボス。察しとか言ってないで説明してくださいよ。あたいが聞いたのは絶望的な状況だけで打開策なんて何も聞かされてないんですから。別にここの全員がそうでしょ。艇に居る人なんて作戦開始が近いから乗船してるだけだし」

「そうか? これでも気を遣ったつもりだったがそこまで言うなら種明かしだ」




「全員、すまないが生きて帰れると思うな。全ては我が神の幸せの為、犠牲となってくれ」




















 悪党となり果てた人間に死に方など選ぶ自由はない。搾取されて死ぬか、上司の怒りを勝って死ぬか、しょうもないいざこざで死ぬか。キリのいい所で足を洗って平和に生きるなんて道筋は最初から用意されていない。俺が死ぬ運命にあるように、この作戦に参加する人員は生きて帰る事など考えるべきではないのだ。

 この作戦が終わった後なら幾らでも足を洗えるチャンスは来るだろうが、それはつまるところ捕らぬ狸の皮算用だ。手に入ってもない勝利を片手に凱旋するなんてちゃんちゃらおかしい話である。

「さて、全員乗り込んだな」

 この艇は本命故、俺、メーア、川箕、ニーナ、なの子、ティルナさんが乗っている。ヒルダさんのような本来作戦に加わるべきではない一般人は一部の構成員共々避難。ティカのように動ける兵士は別の船に載せられ、包囲網の対処に当たる。

「なの子がここに居るのはやりすぎじゃないのか?」

「少年の命令しか聞かないのだから他の船に乗せる訳にもいかないだろう。指示にラグがあっても困る。それに、幾ら液体人間のブーストがあっても一週間はかかる見込みだ。それもトラブルが一切起きない想定でな。ジャック、魚は周囲に集めたな?」

「<問題ない>」


『あー、こちら動力室のティルナ。いつでも準備は出来てまーす』


「改めて言っておくが、我々は研究所が近づくまで仕事をしてはならない。少年の命を無駄には出来ないのだ。航海中、貴様ら三人は同じ部屋で過ごすといい。出来るだけ楽に、そして噛みしめろ」

「ジュード様!」

 直近ではニーナを遠ざけていたせいもあり、彼女はいつになく嬉しそうに飛び込んでひっついてきた。抱き返す事は勿論出来ない。川箕以上に気を遣わないとバラバラに粉砕してしまう。

「なのは何してればいいの」

「悪いが貴様は艇の外に引っ付いてついてきてくれ。必要に応じて外で戦ってもらう。少年もそれでいいな?」

「……なの子との通信はどうする?」

「なのの身体に通信機が入ってるの。お兄ちゃんの脳波と一致するようにしてあるから問題ないの」

「あ、うん。ごめん。それは私が手伝ったから夏目は知らないよね……あはは」

 やっぱりなの子を体よく使うみたいで気がすすまないが、こうでもしないと作戦が成立しないのも事実だ。元々が無謀、誰か一人にあらゆる負担を押し付けるぐらいの無茶でもしないと土俵に擦ら立てない。

「では―――出港だ。決して聞こえはしないがせめて祝福を。『鴉』諸君、ボン・ボヤージュ!」 

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