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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 7 未亡の愛こそ青き愛

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悪意の町

 あれだけ拒絶していた人造の血を。人ならざる、人を造ったが故の血を。一度受け入れようと思えばこんなにも単純に体は馴染んでいく。最初からこの血は自分の身体から生まれた物であったように、体中に張り巡らされた血管を辿り、細胞を侵し、瞬く間に脳みそを満たした。

 人間の反射神経の限界はおよそ0.1秒から0.2秒の間と言われているが、そのような常識はもう、信じない。ずっと疑問に思っていたのだ。僅か一パーセントにも満たないような血の量でこれだけの力が得られるのに、何故だか俺の出来る事は人間の範疇に留まっていた。分かりやすく言い換えるなら、自分が出来そうだと思える事しか身体が実行しなかった。


 素早く動く事は出来る。だが視界に映らない程ではない。

 高く跳ぶ事も出来る。だが雲の上には行けない。

 人を殺す事も出来る。だが広範囲を破壊する事は出来ない。


 俺のする行動は全て、俺の中で実現可能な範囲だった。それは勿論、命のタイムリミットを縮めない様にする為と言いたいが……理由の殆どは、俺には想像も出来ない領域だからだ。体を動かす以上、空想のままにはいかない。少なくとも身体をどう動かせばそのようになるかという理屈は必要である。

 透子と俺の最大の違い。それは最初からこの身体だったかどうか、だ。普通の人間を常識とするなら、生まれた時から彼女にはそれがなかった。

「発砲した奴から順番に、殺す」

 飽くまで正当防衛の意識……なんて、災害に正当も不当もないか。だが心の持ちようとしては大切だ。相手から先に手を出したという名目がないと、俺みたいな一般人はどうしても委縮してしまう。やり返すという名目があって初めて実力が出せる。

「…………」

 俺の発言を真に受けてか、向けられた銃口はそのままに指先がピクリとも動かない。出来るかどうか試そうとする人間も居ないのは妙だ。俺がKIDから十分舐められている事なんて、知らなくてもここの会話を聞いていれば分かるだろう。

「……おーい誰か、撃ってやれよ。こんなガキの脅しになんか怯んでねえで、引き金をとっとと引けよぉ」

「誰も引かないなら俺はその方が―――」


 バンッ!


 マズルファイアが光ったと同時に銃口を掌で塞ぎ、銃弾の射出自体を妨害。押し返された鉛玉が炸裂した火薬と共に銃を粉砕し、、グリップを握っていた指や付近にあった顔に破片が炸裂。果たしてそれが戦いの火蓋となってしまった。

「……いいねえ、もっとやりやがれ!」

 俺と至近距離に居た人間は銃をしまい、即座にナイフへと持ち替えている。単なる荒くれものではないらしい、こんな非現実的な状況にも慣れている。銃を構えている状態から不意に近づかれたら刃物を使えと。

 その刃物がもし真司の用いた素材と同じもので出来ているなら容易に俺の肌は裂かれ、命より重い人造の血液が溢れ出すだろうがそんな事にはならない。鋼鉄の刃が俺に触れるより早く全て叩き落とし、むしり取った机の破片を全員に突き刺して回った。


「うぐ―――!」

「ぇぁが……!」

「いおぅえ!」


 一瞬の出来事に残る生存者は次々と銃口を下げ、繊維を喪ったように席に座っていく。素早く動いたせいで店内は滅茶苦茶だ。床に刻まれた凹みは全て俺が動いた証拠である。

「いい顔つきになったじゃねえか災害。まあ即死してないのがちっと甘いが、合格だ。舐めたのは悪かった。評価を改めてやろう」

「……じゃあその机の下でニーナに向けてる銃をしまえ」

「え、え、えっ」

 KIDは軽く舌打ちすると、銃を引っ込めて今度こそ無抵抗を示すように両腕を背もたれへと預けた。俺が少しでも温い動きをしたら撃つつもりだったのだろう。普通の人間ならどこを撃たれても重傷だ。特にニーナはまだ未成熟で、俺が知る限りなの子の次に幼い。なの子はリーサルウェポンなので打たれ強さには定評があるものの、彼女は?

 席に戻ると、レインが気まずそうに頭を振ってKIDの肩を小突いていた。

「KID。やりすぎだよ」

「黙ってろ、茶々を入れられたら台無しだ。しかしよお、脅しってのは便利なもんだよなあ。あんだけ暴力に躊躇のあった奴が力を手に入れた途端にこれだ。なんつーか、いじめられっ子はイジメから抜け出したいのではなく同じ事をやりたいって感じだな」

「……好きに言えよ。透子が居なくなった以上、いつまでも甘えた事は言えないってだけだ。俺だって出来ればこんな事したくない」

「そうか? まあでも、期待以上の物が見れて俺ぁ満足だぜ。これなら十分この町の災害としてやっていける。どうだ、お前はあの怪物を探してるのかもしれねえが、見つからなかった時の身の振り方ってのも考えた方がいいとは思わねえか? 手を組もうぜ」

「お前さ、人を誘うの下手くそだろ。俺は散々コケにされたんだ。合理性の前に感情があるのが人間だ。お前と組む事にメリットしかないがそれとは無関係にムカつくから嫌だってな。とっとと失せろ、俺に殺されない内に」

「おいおい、こっちが下手に出てもお前はどうせ誘いに乗ってくれなかったろうに、調子がいいのはどっちだ? 分かったよ、誘いには乗らないのな。別にいいのさ、目的は達成したからな。あばよ人間災害。今度会う時はもっとフレンドリーに接してやるさ」

 代金は気にするな、とKID率いる三人組はそのまま店を出てしまった。さっきまで俺を殺そうとしていた男達は裏口からとっとと逃げてしまったのでここには俺とニーナの二人しか居ない。店員も逃げてしまったので残るは……死体だけだ。

「うええええええええん! ジュード様あああああっぁぁぁぁ…………!」

「ニーナ、怪我はないよな? ごめんな、こんな形で食事させて。残してもいい……その、ごめん。巻き込んで」

「そ、そうでは……ひぐっ。なくて! ジュード様、お身体が……ぼ、ボロボロに…………」

「ああ、それは……前からだよ。もういいんだ別に。いつまでも自分を労わってたら透子の下へ行けないからな。力を使わないといけないなら、やるだけだ」

 泣きじゃくるニーナを胸の中で宥めつつ、これからの事を考える。


 ―――目的は達成した?


 俺はKIDと組んだつもりはない。後で一方的にそういう事実を造られても暴力的に否定してやるつもりだ。なら目的というのは…………

「…………やられたな」

 コードの所在かと最初は思ったが、俺が持っている事が割り出されていてもどんな形をしているかは分からない。要は俺からコードを移動させれなければ問題らしい問題ではない。だから残る可能性は一つだ。




「おい、ジュード。いい加減にしろよ」




 頭の中で思考を整理していると、割って入るようにジャックがレストランの窓を蹴破って侵入してきた。元々俺が荒らしたせいで大半壊れているが、わざわざ壊れていない窓を壊す辺り、常識がない。

「殺すな、というのはそんな無茶ぶりだったか? その血を抑えてやってるのは俺だ、勝手に駆動させりゃすぐ分かる。シンジの一件は目を瞑るとしても……遂に快楽殺人者になったなら、いよいよお前を生かす理由はないが、どうだ?」

「……そうやって自分の寿命ばっかり気にしてたら俺は何もしないのが正解って事になるぞ。言いたい事は分かるし、もう透子に顔向け出来るような男じゃなくなったって意味ならお前の言う通りだよ。けど……出来る事をしたいんだ。最後に死ぬなら、せめて」

「自暴自棄を正当化するな。俺がここに来たのはそんな馬鹿な考えを正す為……ってのは今考えたが、伝えたい事があったから来たんだ。とても大事な話だからよく聞けよ」




















「トウコの居場所が分かった」




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