表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 6 喪失の咎

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

133/172

透明な心にこそ

 ティカからの情報を受けて、俺が選んだのは龍仁一家の仕切る市場、活人会への調査だ。どちらも同じくらい情報を持っていそうだったが、個人的な理由で真司を見ると多分俺は、どうしようもなくアイツを殴りつけたくなる。

 暴力的な衝動はジャックの血を注がれたからか、それとも俺自身の怒りなのかは分からない。どちらにせよ、俺の中では正当性がある。思えば真司に何もかも奪われた。アイツが余計な事ばかりするから俺の人生は……

「ジュードさん、大丈夫ッスか?」

「……悪い。ボーっとしてたな。ちょっと考え事があって」

「あんま肩肘張っても何も起きないッスよ。へらへらしときゃいいんス。気楽に行きましょうや。あたいを見習ってさ」

「……ティカは俺の世話役なんだよな。とはいえ、命は惜しくないのか?」

「え、脅迫ッスか? 何されるッスか?」

「……俺は運が悪いんだ。俺のせいで透子は傷ついたし、川箕って同級生も家を失って……生死不明。ニーナって子に至っては恨まれてもしょうがない。一度救っておいて、また全部失わせたんだから。何もかも思い通りになった試しがなくて、いつも俺の都合が悪いように世界は動いて……お前もその流れに呑まれるんじゃないかって」

 ティカは座席の上で胡坐を掻くと、俺の不安を笑い飛ばして窓から外の景色を眺めた。

「この世界には、何でも自分の思い通りに出来る人間が居るらしいッスよ?」

「何?」

「権力が凄いんじゃなくて、滅茶苦茶運が良いらしいです。もう運って呼べないくらい、自分で自分の幸運を勝手に起こせるようなそんな人が」

「……何の話だ? そんな奴はいない。幸運な奴は居るかもしれないけど、何でもかんでも思い通りに進む奴が居るなら世界は今頃そいつが掌握してるだろ」

「そうッスね~。そんな奴はいない。ジュードさんだってそうッスよ。運が悪いなんて、そんなのは間が悪かっただけッス。自分の人生は自分が主役とか陳腐ッスけど、だからって他人様を勝手に端役扱いしないでほしいッスね。じゃあ聞かせてもらうッスけど、透子さんと出会ったのは思い通りな事ッスか?」

「…………」

 全く、違う。

 誰かが来るなんて思わなかった。来てほしいとさえ思わなかった。だからあんな場所で泣いていて。それでも手を差し伸べてくれた透子が、俺にはあまりに眩しくて。

 透子は俺の…………。

「…………」

「殆どの人が透子さんを化け物だって言うッス。勿論それは事実なんスけど、ボスが嫉妬したくなるくらい、透子さんは貴方と会えた事、嬉しく思ってましたよ。ここに用事があってくる度、貴方の話ばかりしてました。嬉しい、大好き。愛してる。そんな言葉じゃ足りないくらい……ジュードさんを想ってたッス」

「…………」

「ボスのはちょっと大げさッスけど、透子さんと出会えて良かったって言う人は少ないッス。みんな心のどこかでずっと恐れてる。あたいも……やっぱちょっと怖いッスよ? みんなに怖がられてるってのはあんまり良い気分じゃなかったでしょうけど、それでも透子さんはこの町の秩序を保ってた。あの人は優しいッス。優しいあの人が誰にも渡したくないって言うくらいジュードさんは好かれてたッス。だから、自分の運が悪いなんて言わないであげて下さい」

「……ああ。そうだな。透子に会えたのは、俺の人生最大の幸運だ。それは間違いない。たとえ俺がこれからどんな風に死んだとしても……あの日見上げた顔は、日傘は、まるで昨日の事のように思い出せるよ」

 ティカは俺の肩を肘で軽く押すと、悪戯っぽく笑って言った。

「そうそう、そんな感じでよろしくッス! 文字通りいく場所は活人会なんで、もっと明るく行くッスよ!」

 車が停まり、活人会の開催されているらしい広場前に降ろされる。黒い車に長時間閉じ込められていたせいだろうか、夕日がいつにも増して眩しく、焼けるような色合いに景色が滲んだ。ティカは横で大きく伸びをしている。小さな身長が、この時は腰と両腕が大きく反りあがって随分大きく見えた。

「~っんんんん! 狭い所って苦手ッス。やっぱ広い方が身体が生きてる感じがするッスからね~。ほいじゃ、行きましょうか」

「えっと……確認しておくんだけど、透子の情報を持ってそうな人物を探すんだよな」

「で、捕まえる。つっても特定の誰かが判明してる訳でもないんで、暫く市場を歩いてみないスか? 話を良い感じに聞けば相手も絞れてお得ッスよ」

「そうだな。まだここに残ってる人の生活も見ておきたいし」

 広場に入れば、そこは活人会。

 まるで記念日か何かの喧騒が俺達を出迎えた。通り行く人々の顔は明るく、あそこに行こう、そっちへ行こう。多くは家族連れで、子供が走り回るのを親が抑える。かばね町という物を知らなければ一般的には平和な光景が広がっていた。


 ―――治安が、良いのか?


 ゴミも転がっていないし、荒らされている家もない。災害の余波によってどうしようもなく破壊された建物は全て立ち入り禁止の札で囲まれ、景観を損なわないよう、装飾品を飾る壁として一部利用されている。だからぱっと見は廃墟と気づけなかった。

「割れ窓理論的なあれッスかね?」

「確かにここまで徹底的に安心安全アピールされたら、警戒緩むかもッスね」

 その警戒……俺達は勢力上『鴉』に属する故、そのままの恰好ではどうしても異物になる。だから俺もティカも事前に制服を支給されていた。どうもかばね町がかばね町と呼ばれるようになる前にあった高校の制服らしい。ティカはあまり制服を着ていた期間がないのか、凄く嬉しそうに高校生っぽく振舞っている。

「分かるッスか? 至るところに警備がいるッス。一件普通の人に見えても何となく……分かるんすよね。龍仁一家の人って」

「以前ならさっぱり分かんなかっただろうけど、ジャックのせいかな。俺にも血の臭いって形でハッキリわかるよ。かなり厳重な警備だ。俺達に武器が持たされなかったのは納得かもな」

 入るときに身体検査があった訳じゃない。だから持ち込もうと思えば自由に持ち込める。けどこれだけの警備を民間人に紛れ込ませて会場を包むように広げているのだ。気づく人間なら持ち込もうと思わない。気づかないならきっと気づかない内に取り締まられる。

 目に見える形の警備は警察がやっているが……何か妙だ。警察は元々機能していないに等しかったが、人々がその警察を信用しすぎているような。

「……もしかして、警視庁とかからの人員なのかな」

「警察って管轄超えて首突っ込んでくる事あるんスかね」

「その辺の事情は詳しくないけど、元々この町の警察は悪党寄りで、しかも透子の一撃で警察署も破壊されてる。到底信用出来る相手じゃない。なのに信用されてるような感じなのはそういう事だろうな」

「…………あー。ちょっと待つッスジュード先輩。あれを見るッス」

「は? 先輩?」

「身長的に後輩っぽいんで三下やっとくッス。それよりあの制服。うちじゃ見かけない柄だから、多分外の人間ッスよ。修学旅行とかで来たんスかね?」

「……それ、兄ちゃんが助けようとしてた子も似たような経緯だったな。以前はともかく、今回は正に災害が起こった直後なんだぞ? 修学旅行ってのはあり得ないだろ」

「直後つっても三か月ちょい経ってますからね。それに、警察の信用され具合とか、綺麗な街並みとか見るに、こういう仮説考えられないッスか?」

 ティカは地図を広げると、かばね町をえぐり取るように一部を鉛筆で塗り潰した。





「ここはかばね町ッスけど、外なんスよ。活人会が開いてる最中は外の法治を受けてるッス! だからこんな……あたいらから見たらおかしな光景ばかりなんじゃないですかね?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ