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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 5 禍混じりて共に逢

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喪うばかりの人生に合縁を

 この町でいつまで生きていくのだろう。

 漠然とそんな物思いに耽った事もある。この町で生きていくと決めたのは俺の意思だが、理不尽な死と暴力が隣り合わせの世界はたとえ生が保障されていても精神的に摩耗していく。間違いなく幸せな世界でも、ノンストレスかどうかはまた話が別だ。

 俺には守ってくれる強い人が居る。ただその人は事実無敵でも心は繊細な女の子で……俺と知り合うずっと前からありとあらゆる人間に敵対視され、今も何処かで誰かが彼女を殺すにはどうすればいいかと試行錯誤しているだろう。いつまでも無敵かどうかは分からない。そんな彼女の正体は人造人間。作れるなら当然、壊し方だっていつかは生まれるかもしれない。

 

 そう。今は安全なだけで、決して安心出来る訳ではない。


 それはきっと彼女も感じている事で。じゃあその危険を徹底的に排除する為にこの社会を滅茶苦茶にするのかと思えばそんな事はしない。災害と呼ばれた女の子は、それでも人に歩み寄ろうとしているから。


 ―――これからも、災害と呼ばれ続ける筈だ。


 その呼び名は、誰からも拒絶を受けてきた彼女にとって唯一人間社会に関わる事の出来る名前。台風だって来る時は大変だが、マクロな視点で見ると台風が存在しないのもそれはそれで困るだろう。 災害の名もまたそれに違わず、なければないで困る筈だ。人間災害を排除したい町民も、自分がまともな生活が出来ているのは誰のお陰かを考えた方が良い。ごく小規模な抗争がちょっと起きる程度の治安の悪さで済んでいるのは彼女のお陰だ。彼女が居なければきっとこの町は治安の悪さを嘆く暇もない硝煙の町になっていただろう。誰も手を出せないからこそ、誰に手を出したら導線に火が点いてしまうか分かりにくいからこそ、この状態だ。

「…………ん、ん……」

 目を覚ました瞬間、俺は全てを理解した。記憶は鮮明に残っている。残っていない記憶は気を失った理由だ。或いは疲れて眠ってしまったのか……なにぶん初めてだと、張り切り過ぎてしまうのかも。

 ベッドに視線を落とすとあちこちに下着が散乱している。自分のもあるが、例えばあの白い布はサラシだ。あのレースの白い下着は同級生が着けていた物だ。それらの持ち主が何処に居るかというと―――俺の両隣。

「……………………」

 



 やっちゃった。



「…………」

 透子の血液による被害を防ぐ為に、川箕の体液が必要だった。彼女が巻き込まれなければならなかった理由が正にそれだ。要するにコーティングである。要は表面に誰かの体液があれば、透子の血液はそちらに対して影響を及ぼし、俺は無事間抜けな死に方をせずに済むという理屈だ。

 液体でさえあればいいので、極論、川箕がこんな形で巻き込まれる必要性は何一つとしてなかったのだが……じゃあどこかを刃物で切って流した大量の血を俺が被るのか、という話だ。俺はそんな状況望まない。何だって透子と一線を越える時に血を浴びなければならない。ヴァンパイアかと。

 俺の身を護る為と言えば聞こえはいい。聞こえはいいが、やった事はというと二人と関係を持った事だ。罪悪感はない。無理やりしたという訳でもなければいつでも中断出来た筈の行為を最後まで通した。俺には拒否する理由もなければ拒否する余地もなかった、ただそれだけの話だ。

「…………ケダモノ」

「うわっ」

 二人の顔をなんとなしに見ていると、不意に川箕が目を覚ました。彼女は俺よりずっと寝起きが良いらしく、自分がどんな姿かも理解している様だ。胸の辺りを布団で隠して頬を染めている。

「何か言う事あるよね?」

「ご、ごめん。俺が透子の血液に耐性がないばかりに」

「透子ちゃんの血には誰も耐性とかないからっ。そうじゃなくてさ……う、上手く出来た? 私、何も気にならなかった?」

「え、…………ああ、うん。俺は別に。まあ強いて言えば」

「言えば?」



「………………腰が、砕け散りそうだ」



 学校が無くなって忘れていたがそういえば元テニス部だし川箕の体力が存外あったのはそれを忘れていた俺の落ち度だ。ただ最早そんな事はどうでも良く―――透子が、凄かった。

 俺の腕にしがみついてぐっすり眠っているが、思い返しても最後まで透子が疲れていた様子はなかった。好きな人と―――こういう関係になったのだ。俺も頑張ったと思いたいが、災害は全てが規格外だった。

「…………破瓜の危険性が杞憂に終わったのはいいけど、これはこれで…………無事じゃない」

「あはは。なんていうか……夏目も、色々抑えてたんだね」

「女子二人と同じ屋根の下で済んでまともに暮らせると思ってたならどうかしてるぞ。俺は二人共……全然意識してたし」

 ニーナさえいれば、保護者としての理性が働いてまだやり過ごせると思っていたがそのニーナが昨夜は既に眠っていた。こうなるのは時間の問題だったし、自明の理だったのかもしれない。

「正直、ね。正直…………凄く嬉しいっ。シチュエーションは酷かったけど、夏目に気持ち伝えられて……良かった。今は、は、恥ずかしくて言えないけどね!?」

「……川箕」

「だ、だからって毎日求めたりしないでよ? ニーナちゃんにバレたくないし、私も身体持たないからさ。夏目だってもう朝だけど、全然動きたくならないでしょ」

「動けないの間違いだ。昼まで寝てたいけど、ニーナが起きてくるからこのままでも居られないとは思ってる」

 三人共に生まれたままの姿であるのは服を着ればいいだけだが、問題はこの散らかった部屋と、鼻をつくようなニオイだ。バイザーを装備したニーナにごまかしが効くとも思えない。基本的に視界の補助に当てているだけであれは感覚統合バイザー。嗅覚を鋭くしようと思えばそれも可能なのだから。

「ニーナちゃんは私が対応するよ。お風呂、入ってくるね。夏目は透子ちゃんの寝顔でも見てなよ」

 しかし体を隠す布団を持って行かせる訳にもいかず、川箕はそのままの姿でガレージへと出て行ってしまった。歩くだけで揺れる、その柔らかさと大きさを見るだけで―――やはりいつかこうなるのは時間の問題だったように思う。

 透子の顔を見つめる。まるで子供に見えた。俺に甘えているのではないかと。実際の力関係は遥かに違うというのに。


 ―――やっぱり俺は、この町が好きなのかもな。


 断言してもいい。学生のままの関係だったらきっとこうはならなかった。体裁とかお互いの将来とか倫理とか道徳とか、色々考えて。

 けどかばね町にそれらはない。将来と言ったってこの町で決められる将来は大抵碌でもないものだ。倫理も道徳も、道端に捨ててあって誰も拾わないものだ。この町の住人になった事で俺もガードが緩くなってしまった。だからつい、こんな形で流されて。

「透子、信じてくれたか? 俺がお前を……女の子として見てるって事」

 寝息が、頷くように連続する。

「俺にとって祀火透子はとっっっっても魅力的な女の子なんだ。不安になんてならなくていい。血はちょっと怖かったけど…………自分が人間じゃないって思うようになったらいつでも、俺が女の子に戻すからさ」

 指輪を嵌めた方の手を掴み、互いの胸の間で指を組んだ。

「……大好きです。祀火透子さん」




















 「ジュード様が帰っていらっしゃるまで起きていたかったです……」

 ニーナが起きてくるまでに後片付けの方は何とかなった……いや、川箕が何とかしたようだ。俺達は正午に差し掛かるまで部屋で死体のように横になっていた。どれだけロマンチックな言葉をかけても、やっぱり体力が限界である事に変わりはなかったから。

 途中から透子も目を覚まして後片付けを手伝ってくれた。うまく入れ違いになる形でお風呂にも入ったのでニーナに昨夜の出来事は気づかれていない。部屋のニオイは残っているので入られたら、分からないが。

「昨夜はクリスマス当日でしたのに。ジュード様は早くにお出かけになられて、寂しい思いをしておりました……」

「ご、ごめんなニーナ。透子の事件を調べてたら遅くなったんだよ」

 気づかれないための工夫なら幾らでもある。普段俺に抱き着かせているところを、今日は透子が椅子を用意する形でニーナを対面に座らせ、身体の異変に気付かれないようにするという工夫だ。異変というか……キスの痕とか、甘噛みの痕とかだけど。

 バイザーによって構築された視界は残る感覚が拾える情報によって視界を形作るから、触覚がそれに気づかない限りニーナの世界にそれは存在しないものとされる。

「しかし、本当に途中で起きなかったんだな。結構、うるさかったと思うけど」

「へ? 私が寝ている間に何をしていらしたのですか?」

「夏目!」

「かるた大会よ。白熱したから」

「かるた…………私もやってみたいです! ジュード様も嗜まれているという事でしたら!」

「透子ちゃん!」

 ナイスアシストだった筈が、自滅だった。見破られにくい嘘は一部本当の情報を混ぜる事らしいが、これはどうだ。うるさかった(主に透子)のも、白熱したのも事実だけど……。

「じゃ、じゃあ今日は暇だし、本当にかるたでもして遊ぶか。調査は午後からやれば……ああ、透子が嫌なら取りやめだけど」

「―――あの子達の死の真相について急いでも仕方ないわ。私は君を信じて大人しく待つ事にする。ね、ジュード君」

 あの透子が、笑った。

 普段は微笑みくらいで留まっていて、それは時に無愛想と呼ばれても仕方ないほど、感情表現が下手という事だが……今は屈託のない笑みを、俺に向けてくれている。

「…………そうか。じゃあやろう! 川箕、かるたを出してくれ!」





「…………………あ、ある。かな? ある……ある? うん、わ、分かった。すぐ、出してくる……ね!」

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