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青春は日傘を差すくらいが丁度いい  作者: 氷雨 ユータ
TRASH 5 禍混じりて共に逢

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透明な愛情

「か、彼氏って……それで信じてもらえたんだ!?」

 無事に透子の代わりを見つけた事で俺も無事に帰宅出来た訳だが、川箕に一連の話を聞かせると大層驚いていた。透子が思いのほか信用されているからというよりは、俺にそんな嘘をつけたのか、という驚きだろう。別に俺は何でも正直にしか話せない人間じゃない。嘘を吐く理由があるなら許せるし、そうせざるを得ないような状況なら責めないだけだ。無意味な嘘と、嘘に伴う試し行為が嫌いなだけ。

「で……本当に告白したの?」

「してる訳ないだろ! 誰にも……してないよ」

 華弥子は居ないのでノーカウントとして。川箕は何か複雑な表情で机越しに(ニーナの誕生日会でも出した机だ)俺を見つめている。

「…………ま、まだフリーならさ。その…………」

「そうだ、透子は何処に行ったんだ?」

 帰ってきたし直前に電話もしていたが姿が見えない。二人の様子からまたいなくなった訳ではないだろう。俺が無事に返ってきて露骨に嬉しそうなニーナを宥めつつきょろきょろと辺りを見回してみる。隅っこに立っているという線はない。

「……透子ちゃんはちょっとおめかし中だよ。お化粧をちょっと教えたからさ。今日くらいしたいんだって。軽くでも」

「そうなのか」


「お、お待たせ」


 噂をすればという奴か。声の方を向くと、オフショルダーの服に着替えた透子が恥ずかしそうにもじもじとしながらガレージに現れた。色調は赤と白を中心にサンタっぽい服装だ、仮装とは言えないがこの場の空気には相応しい。恥ずかしがっている理由は軽装を好む川箕と違って透子はコートを着るくらいには露出を避ける女性だ。あれは別に寒いとかではないらしい。

 それは多分、俺に正体を隠す際に何の拍子にバレるか分からないから徹底したのだろう。残念ながら夏目十朗は鈍すぎた。胸の谷間に顔を埋めてもちっともその正体には気づけないで。

「か、かわいっ」

「………………あ、あんまり見ないでよ」

 鎖骨まで露出する透子も貴重だが、それ以上にメイクだ。詳しくないがいつもより目が大きく見えるし、表情も柔らかく見える。別人とは言わないが、愛想の悪さをまるで感じられない。

「可愛い! 可愛いぞ透子! う、上手いじゃないか。化粧」

「そ、それは川箕さんに教わっただけだから」

「私もネットで調べながら教えただけだよ!?」

「お姉様。私にもお化粧をお教えいただけませんか? 私もジュード様に褒められたいですッ!」

「に、ニーナちゃんは……ど、どうしようねえ」

 ああ、これだ。本来、こういう日を過ごすつもりだったのだ。透子のトラブルとか、気になる出来事とか、クリスマスのバウンティハントとか、兄ちゃんの危機とかじゃなくて。大切な人達と―――過ごす夜を。

 カメラが手近な場所に置いてあったので俺からの希望で撮影をする事になった。どういう風に撮るかは俺が決めていいらしいが、透子は恥ずかしくて死にたくなってくるそうなので早い所決めないといけない。

 そうして決まった立ち位置はシンプルだ。ニーナを足元に座らせて、俺は二人の肩に手を回しながら座る。指で作るポーズに拘りはなかったが、珍しく二人の意見が完全一致していたのでそれを採用する事になった。

「こ、これで本当に出来てるのか?」

「出来てる気がする! 行くよ、はい、チーズ!」


 パシャッ。


 シャッターの切られる音を待って散開。川箕は写真を確認した後、完璧と言わんばかりに親指を立てた。それからこちらにカメラを向けて中身を見せてくれる。正面から見えるのはニーナが両手でピースをする姿と、肩から回った俺の指と協力してハートを作る二人の姿だった。手持無沙汰になった方の手ではピースをしていて、とにかく全員が仲良さげに見える。

「おー、こうなるのか……」

「どうかした?」

「い、いや。大丈夫だなって思って」

 一秒だって忘れた事はないが、本来なら俺達は高校生と呼ばれる立場の人間だ。もっと言えば過去の恋愛経験から……俺は思春期真っ只中。幾ら同学年でも肩から手を回そうなんて平常心では居られないし、そもそも川箕の服は背中が常識を疑う程開けており、術らかな感触がずっと腕に伝わってきていた。

 透子は透子で肩に手を回す為に必然彼女の胸元を覗き込むようなアングルにも出来る為、視線を逸らすのに必死だった。やっぱり、大きい。凄く。二人共。見てると頭が真っ白になって、何も考えられなくなりそうで。

「後でプリントするね!」

「お、おう。ま、まあさ、色々あったけどやっぱり今日は四人で楽しく過ごしたいし、パーっと騒ごう! な!」

「ジュード様! こちら、私から貴方様へのクリスマスカードです! 受け取っていただけますか!?」

「……あ、そういえばそういう文化があるんだったな。透子も書いてないだろ?」

「何の話?」

「クリスマスカードだよ。なんか、感謝とか伝え合うんだってさ。俺もお前からの頼みを聞いてて書いてないんだ。せっかくだし今書こう。ニーナにだけやらせるのは不公平だ」

「…………感謝、ね。分かった。書いてみる。でも書き方が分からないし、参考にしたいから川箕さん、試しに朗読してみてくれない?」


 …………え?



















「と、透子ちゃんへ。透子ちゃんが殆ど住んでる勢いでウチに来てくれてから安心して過ごせています。ら、来年もよろしくね……」

「長文じゃないし、もう年末の挨拶なの?」

「ニーナちゃんに文句言ってよ! 大体メッセージカードだし伝えたい事は簡潔に書かなくちゃっ」

 まつりんなんて呼び方はしないけど、二人はもう十分立派に友達関係だと思う。知り合った経緯とか、透子の正体のせいでややこしいだけだ。ニーナの方を見ると、彼女は俺から受け取ったメッセージカードに感極まって泣いているところだ。バイザーの機能を使えば視界に映る色を偏らせる事も可能なようで、点字を書かないで済んだのは良かった。慣れない文字は書きたくない。


『君に沢山の幸せが訪れますように』


 伝えたい事は簡潔に。人生のどん底から思う存分上がってくれればいい。いっそ俺達すら置き去りにして、とんでもない幸せを掴んでくれたらこれ以上はないだろう。

「はいこれ、夏目にあげるっ」

 透子が机の上を滑らせてメッセージカードを俺に渡してきた。耳まで赤いように見えたのは明かりのせいだろうか、すぐに視線を戻して透子とああでもないこうでもないと争っている。

 カードを受け取って、裏返す。

「………………」

 送り先を間違えてはいない、と思う。だがこういうメッセージは勘違い……いや、勘違いというか…………とにかく、一旦記憶を消した。

 何かの見間違いだと思って、再度裏返す。


『夏目が守ってくれたあの日から、出会えてずっと幸せだよ。これからもずっと私の傍に居てね!』


「…………!」

 簡潔、に。気持ちを。俺は。川箕の事を。

「はい、ジュード君。私から君に」

 透子がいつの間にか書き終えていた。学校のマラソン練習で最後尾を並走していたのに最後の直線で裏切られた気分だ。俺はまだ書けていないのに。こういうやり取りを華弥子とした事がない。対応マニュアルの引き出しにないから何をすればいいか分からない。

 簡潔ってなんだ? 気持ちってなんだ? 英語で書いた方が良いか?

 羞恥心とか緊張とかで、思考がうまく整理出来ない。透子のメッセージを見れば何か分かるだろうか。ニーナは川箕に色々教えておいて自分は長文を贈ってきた子だ。光を失った自分にとって俺がどんなに代えがたい存在だったかをカードが埋まるくらい書いてきたが、俺もそんな風にすればいいのか。それとも本当に簡潔……気持ちに、正直に?

 透子は、どんな言葉を書いたのだろう。









『君さえいれば、力も要らない。ありがとう。大好き』

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