異世界初日
異世界に行く事になったのだが、まずはスキル付与が行われるらしい。さっきまでいた広い会議室を出て、連れて行かれた先は2階にある白を基調としたシンプルな部屋だった。
部屋には丸い白机を挟むようにして白い椅子が2つおいてある。
女神様は白い椅子に座るよう促してきた。近いよ!少し離れようよ!キョリカンダイジ……。
御手洗少年の願いも虚しく対面で座ってきた女神は今からスキル付与を始めると告げてきた。
「今からスキル付与を行います。これは〚恩恵〛という形で付与されるもので、特別なものとなっております。」
スキルは、特殊な方法で手に入れる〚恩恵〛型と経験で手に入れる〚技能〛型があるらしい。
〚技能〛型は特訓や経験によって得ることができ、レベルによる際限などは無いようだ。
まあ、こういうものは実際に使っているうちに覚えるだろう。
手を出して下さいとのことで手を差し出すと女神様は……
手を、握ってきた。
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はっと意識が戻ったときにはスキル付与が終わっていた。くらくらする頭でなんとか自分が【スキル強化】というスキルを手に入れたことを思い出す。
「それが御手洗さんの特別なスキルです。それに加え、異世界で苦労しないように【鑑定】と【翻訳】のスキルも付与しました。これで、いつでも異世界に行けますよ。」
凄く、あっさり終わった。部屋の奥にある白いドアが異世界への入口らしい。今日初めて出会った訳だけれども、死んで不安だったときに優しく対応をしてくれたこの美人な女神様と別れるのが寂しい、と思った。
「色々と、ありがとうございました。頑張ってみようと思います。」
でも、元々出会うこともなかったような存在だし別れるのが寂しいと口にするのはやめた。
ドアノブに手をかける。
開けようと手を回したとき
「あの!」
という女神様の声が遮った。
「御手洗さんがよかったらなのですが」
という言葉に続けて
「異世界から定期的に連絡を取ってくれませんか?」
と、提案をしてきた。正直、とても嬉しかった。何が待ち受けているか分からない異世界で、誰かとコミュニケーションを取れる心強さは計り知れない。
「え、ええ!よろしくお願いします!!」
と、カッコ悪くも大声で答えてしまった。
「はい、よろしくお願いします。ここ、とっても退屈なんですよ。連絡忘れないで下さいね。」
と、いい女神様は少しスマホを貸してくださいと言ってスマホを受け取ると何やら少し操作したあと返してきた。
「これで大丈夫です。応援していますよ。」
魔王を倒す意志も決まった。きっとどんな窮地でも頑張れる。
ん?待てよ……
「もしかして、異世界に行く人全員と連絡取ってるんじゃないですか?」
だとしたら、浮かれた自分が恥ずかしいし悲しいではないか。
その質問に対し女神様はふふっと笑い、違いますよと言った。
なんなんだ?これは脈アリなのか?こんなにも心を弄ばれるとは。
「なんとなくです。あなたがこれからどんな冒険をするのか気になるんです。神様は人間一人一人まで見守ることは出来ませんから。」
そう言われてしまえばしょうがない。結局僕である理由は分からなかったがそろそろ出発するか。
「御手洗さんが面白くて、あなたと同じように私もこのまま別れるのが寂しいとおもったからですよ。」
「え?僕寂しいなんていいましたっけ?」
すると、女神様は本当に楽しそうな顔で
「なな神様はすごい神様だから、人の考えていることを読めるのよ。思っていたこと全部筒抜けだったのよ?まさかこんなに美人とはッ!透き通るような青い瞳、切れ長の目ッ!」
「ええええええ!」
え。口調が…違……、え!最初っから全部聞かれてたのか!?対面のときも”コイツドキドキしているな”って思われていた!?
「そりゃ勿論。清楚だと思い込んじゃって〜。ウブね〜♪」
頭が真っ白になっている中、開いたドアの隙間から眩い光が漏れてきた。
「異世界に行く用意が出来たみたいね。さあ、いってらっしゃい。」
ドアが開き、体を包み込む。
「ちゃんと連絡しなさいよ〜」という声が聞こえてくる。クソッ、やっぱり異世界転生なんてクソだ!
なんて言っているうちに意識が遠のいていき……
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御手洗少年が目覚めたところは広い原っぱの真ん中だった。
放心状態だった彼はモンスターに突かれているところを他の冒険者に発見され、結局宿に連れ込まれた。
異世界初日は結局なにもないまま終わったのだった。
毎日投稿できるよう頑張ろうと思います。