第49話 おっさん、ミスリルドラゴンをボウッと燃やす
「――――――【焼却】!」
――――――ボボウっ!
銀トカゲ(ミスリルドラゴン)を中心に俺の炎がバッと広がっていく。
銀はまあまあ硬い。
なのである程度時間をかけて燃やしていく。
親父に仕事を教わっていた初めの頃は、この銀トカゲが苦手だった。
すぐに燃えないからだ。
銀トカゲは体全体が硬い物質で出来ている。
だから外側だけ燃やすのではダメなのだ。
例えるなら中火でコトコト煮込む感じだ。
元職場である魔界のゴミ焼却場は、銀トカゲだけを燃やせばいい訳ではない。次々に魔物は送られてくるのだ。
大量の魔物に同じ炎を使うのではなく、そいつに合った燃やし方で処理をする。
瞬時に燃やす炎、じっくり燃やす炎。俺の親父が色々教えてくれた。
全ての炎はひとつとして同じものはない。
俺の炎の幅がグッと広がった。
ゴミ処理場での立ち回りも分かってきて、仕事がより楽しくなったんだよな。
魔界ゴミ焼却場の同僚たちにも燃やす固有能力をもつ仲間は沢山いた。
彼らの炎も1人1人違う。
ちょっと懐かしいな。
「―――ギャグォ……ォォォ!!」
おっと、すこし思い出にひたってしまったか。
目の前の銀トカゲはすでに半分溶け始めている。
まあ、硬いとは言ってもたった一匹。
多少時間をかければそこまで大変な作業ではない。
そこへ眼前の湖面から気泡がブクブクと上がって来た。
―――なんだ?
「ぷはぁ~~死ぬかと思ったぜぇええ……はぁ……はぁ……」
湖から出てきたのはザーイ王子だった。
生きていたのか……アフロ。
たしか銀トカゲの尻尾にバシされて吹っ飛んで行ったはず。
そのまま湖に落ちたようだな。
「ああ……おっさんじゃねぇか! って―――あちぃ!!」
そりゃそうだ。
【焼却】を発動しているのだから。
「ヒャハハハ、このクソドラゴン。おっさんごときに燃やされてやがるのか。いい気味だぜ!」
自分を追い詰めていた魔物が瀕死の状態と見るや、高笑いを始める王子。
そしてとんでもないセリフを口にする。
「こりゃいいぜ! このままおっさんを殺れば、ミスリルドラゴン討伐は俺様の手柄だ!」
何言ってんだ? この王子。
相変わらず言動が良く分からんぞ。
湖まで吹っ飛ばされた衝撃で頭がおかしくなったのか。
「おい! そこの雑兵ども! こっちへ来ておっさんを殺せ!」
静まり返る兵士たち。
「おい! なぜ俺様の命令を聞かねぇ! 早くしやがれぇ!」
「―――黙りなさい、ザーイ王子!」
後方から第三王女の声が飛んでくる。
「ああ? ファレーヌか? なに偉そうに俺様に指図してやがる」
「バートスは、王国軍と共に戦ってくれているのです! お兄様は邪魔です!」
「はあ? 俺様の軍だぞ? なに勝手な事してやがるんだ!」
「お兄様。あなたには聖女リズロッテ一行暗殺未遂の容疑がかけられています。拘束するので大人しくしなさい」
第三王女の言葉に周辺の兵士がざわつく。
「はあ? 俺様が何をしたってんだ! 邪魔な出来損ない聖女やおっさんをぶっ殺して何が悪いんだ! 俺様は王子だぞ! てめえらとは違うんだよぉ!」
自ら罪を認める発言をするアフロ王子。
もはや周りがなにも見えていないのか。
「おい……なんだお前ら。その目は……」
元より王子に振り回され続けていた兵たちは、もううんざりしていたのだろう。
誰も王子の味方をしようと動く者はいなかった。
「くそがぁあ……」
王子が懐をゴソゴソいじりながら怨嗟の声をもらす。
「なら俺様がドラゴン始末して、おっさん始末して! ついでにてめぇらクソ部下どもも全員始末してやるぜぇ! こいつでなぁ!」
懐から小瓶を出していきり立つアフロ王子。
そんなものでなにしようってんだ?
「こいつはなあぁ。この世で1本しかない究極ポーションだ。飲めば一定期間全ての身体機能爆上がりで、数万の軍勢に匹敵する力を得ることができるんだよぉお!」
そんなにすごい小瓶なのか!? あれ!
「ええぇ……あれって王国の秘宝って言われているやつじゃ……」
「たしか王城にある建国の聖女像が手にしていたやつだろ……なに勝手に持ち出してんだこの王子……」
兵士たちのざわめきが大きくなる。
「俺様のとっておきだったんだが、ここで使うしかねぇだろうなぁ。
俺様は――――――最強の王子になるのだぁああ! ギャハハハ……」
―――パクっ!
うお! 王子のやつ、右腕ごとドラゴンにパックリいかれたぞ!
半分溶けかかったミスリルドラゴンが、最後の力を振り絞ったのか。王子への異常な執念がそうさせたのか。とにかく右腕ごと食べられたアフロ王子。
「ひぎゃぁああああ! 俺様の腕がぁあああ!!」
―――ドクン
「いでぇええええ!」
―――ドクン、ドクン
オイオイ……なんか銀トカゲの様子がおかしい。
ポーションも一緒に食べたからか?
みるみる銀色の体が再生していく銀トカゲ。
いや……再生どころか、体中に力がみなぎるような肉体の躍動とともに、一回りも二回りも大きくなっていく。
「――――――ギャグォオオオオオオ!!!」
耳が痛くなるほどのデカい咆哮をあげるドラゴン。
【焼却】の炎もその勢いで消し飛ばされた。
そしてその大きな口が開かれ、真っ赤なマグマのような炎が溜まっていく。
―――なるほど、この炎は銀トカゲのものではないな。
さすがに正面から受けると熱そうだ。
俺は下腹に力をグッと入れた。
この感じ―――
これは魔界にいた時以来の緊張感だ。
だが同時にかつての魔界での日常が戻って来た感もある。
やっと仕事っぽくなってきたじゃないか。こうじゃないとな。
さて、おっさんの仕事をするか。




