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「おやすみなさい。クソッタレな世界」

初投稿です。


「で?」


 俺は目の前で正座する金髪モデル体型スレンダー女、もといパチカスをベッドに座って見下ろしながら訊く。


「……くだ、さい……」


「もう一回言ってみろ」


「……恵んで下さい……」


「聞こえない」


「……ご飯を、恵んで下さい……!」


「…………」


 多くを語るまでも無く。コイツはパチンコに負けて有り金を無くして俺にたかろうとしているところだ。

 事の経緯は。ヤニカスに煙草を持って来て貰い、外に出る用事も消えてのんびり部屋の中に引き籠っていようと考えていたところ。そう間もない時だった。

 パチカスからの、「ちょっと今から会お♡」と可愛らしい声で電話が掛かって来て、そして今。


「……ごめんなさい、いや、ほんとに……」


 この様だ。おお哀れ。全く、ギャンブル中毒というのは救えない。


「何打ったの」


「魔法少年オレガ★ガルカ……」


「パチ?」


「パチ……」


「俺の記憶が間違いじゃなきゃ199だった気がするんだが」


「単発、単発に重ねて単発……ラッキートリガーも引けず出玉も財布も呑まれた」


「引き弱すぎんか?」


「言わないで。泣くから」


 ぐすりと涙ぐむパチカスを尻目に煙草を吸う。女の泣き顔を見ながら煙草を嗜む趣味は無いが、顔が良いのでまあ美味しい。

 一本差し出してやれば、無言で咥えて火を点けた。互いに吐き出した煙が混じる。

 さて、飯を奢れという話だったか。


「何食いたい?」


「……いいの?」


「断る理由も無い。今日は外に出たくないからウーベーな」


「ああ、神様仏様ラノベ作家様……」


「おう感謝しろ、そしてコスプレをしろ」


「う、……えっちなの以外ね?」


「お前が断る道理は無い」


「ひいん」


 一転して明るい表情になったパチカスを見て、次はなんのコスプレをさせようかなーなんて考えながらスマホを取り出す。胸が薄い女でも似合うコスプレ……ふむ、迷うな……。

 たぷたぷと飯宅配アプリを開いて、ラインナップを見ながら煙を吐き出す。

 今日はなんやかんや何も食べていないし、がっつり食べてもいいだろう。導き出される結論は。


「んー、ピザどう?」


「はい、ウチは奢って貰う側だから何でも大丈夫です」


「俺、女の言う何でもいいが嫌いなんだよね」


「ツナマヨコーンピザが食べたいです」


「よろしい」


 飯食いに行こう、って誘って来た側が何でもいいと言う癖に、提案したら不満を漏らす現象をどう名付けるべきだろうか。ぽちぽちぽちと注文完了。

 ツナマヨコーンとその他複数のピザを注文して、配達までは約三十分と表記が出る。いつもより少し早い時間だ。

 ……さて、三十分間暇という事だが、何をしようか。

 

「取り敢えず三十分裸で踊ってくんない?」


「友達のライン超えてない?」


 駄目か。いい案だと思ったんだけどな。


「ピザが来るまでの三十分、何して暇を潰す」


「三十分?」


「おん」


「んー、三十分」


「ああ」


「…………ゲームとか」


「わかった、野球拳だな」


「何ですぐエロに走るのアンタは」


「いかんのか?」


「いかんでしょ」


「年齢制限掛けてる人生でも無いのに厳しいな」


「倫理観というか常識というかその辺りは守らなきゃでしょ」


「ルールは破る為にある」


「守る為にあんの」


 ギャルみたいな見た目してる癖に妙にお堅いのは何でだ。もっと脳味噌を遊ばせろよ。

 肩を竦めて立ち上がる。キッチンへと歩いて行き、其所からブツを手に持って戻る。

 ドンと机に置く。パチカスが目を細める。俺は頷く。


「お互いにイッキして好きなところを言って、言えなくなったら負けゲームだ」


「何言ってんのアンタ?」

 

「お互いにイッキして好きなところを」


「聞き返した訳じゃなくて」


 ショットグラスへ酒瓶から強い酒を注ぐ。時間潰しにもなるし酒でハイにもなれる。ついでに好きなところを言われてハッピーな案だ。なんて素敵なゲームだ。これを思いついてしまう俺の脳味噌が愛しい。


「……それ、やんなきゃ駄目?」


「別にスク水で三十分チェッチェッコリ踊らせてもいいが」


「どうして変な方向性のアイデアしか出ないの」


「嫌いか?チェッチェッコリ」


「そういう訳じゃ……はあ、わかったやればいいんでしょやれば」


「よしきた」


 他にやる事も無いしいいだろ。諦めてショットグラスを手に取ったパチカスと乾杯して、一杯流し込む。

 カッと熱く喉から胃へと流れるアルコールを感じながら、酒精の混じる吐息を一息吐く。

 パチカスが眉根を寄せて度数の高さに悶えているのを尻目に、言い出しっぺの俺から好きなところを言う。


「顔がいいところ」


「一つ目がそれなの?」


「別にいいだろ」


「……まあ、いいけど」


「はい次」


「顔がいいところ」


「同じじゃねえか」


「別にいいじゃん」


「いいけどさ」


 一手目はさして差し当たりの無いところから始まる。いざ開幕されたこのゲームは、きっと大学生の間とかで流行っているだろうヤンチャ系イベントであるので是非やった事の無い人間はやってみて欲しい。俺は初めてやったけど。


「ッあー……髪が金髪なところ」


「見た目責め禁止にする?」


「後々困るのはお前だから禁止にしなくていいだろ」


「ん、まいっか…………ッふぅ、お金貸してくれるところ」


「好きなところにしては最低か」


「仕方ないじゃん、ウチは好きだよ貸してくれる人」


「やはり金か」


「お金が嫌いな人は居ないでしょ」


「そらそうだ」


 二杯目が終わり、三杯目を飲み干す。


「大学生頑張ってるところ」


「……そうかな」


「お前、基本は講義出てるだろ」


「まあ、単位に関わるし」


「大学生なんざギリギリアウトで教授に泣きつくまでがマストなんだから偉いだろ」


「ギリギリアウトになったら留年じゃん……」


「遊んでなんぼの時期だろ大学生期間は」


「学んでなんぼだと思うけど」


「根が真面目ちゃんすぎる」


「真面目だったらパチンコとか打ってないんですけど」


 それはそうかも。パチカスが飲み干す。


「ふー…………パチンコ一緒に行ってくれるとこ」


「あ?それは行くだろ」


「いやほら、並び打ちとか楽しいから、来てくれるのは割と嬉しいし」


「まあ基本は断らないが」


「そ。誘い断らないとこ、が正しいかも」


「たまたま暇な時が多いんだよ」


「いつも暇の間違いじゃない?」


「あんまり言ってやるな、刺さるかもしれないだろ。俺に」


「ごめんごめん」


 四杯目。


「服が何でも似合うところ」


「……そう?」


「モデルなだけあって大体似合ってる」


「まあ、似合うように着てるし」


「似合わないって思った事が無いからな、元がいいんだろ」


「なんか、シンプル嬉しいねそれ」


「あとは胸が大きければ本当に良かったんだがな」


「好きなところを言うゲームだよこれ」


「間違えた悪い悪い」


「……割と気にしてるんですけど」


「需要はあるからいいだろ。嫌いじゃないぜ」


「本音は?」


「デカければデカいほどいいんだから早くデカくしろ」


「マジで最低」


「本音を聞いたのはそっちだろ」


 パチカスが飲み干し、カンっと強く机にショットグラスを叩き付ける。ああ、少し酒が回って来たか。ピザが来るまでの間潰れなきゃいいけど。


「否定しないとこ」


「あー…………しないっけ俺?」


「胸とか色々弄りはするけど、否定とかはしてないから。あとその他諸々」


「そうだっけ」


「全肯定ロボットって感じ」


「それ、ルビでメンヘラ製造機って読まん?」


「読む」


「いやあ、自覚はないんだがなあ」


「それがタチ悪いんじゃないかな」


「ははは。天性の才能」


「ホストとか行ったらナンバーワン取れるよマジ」


「マジか。ちょっと今度行ってみるわ」


「客側?」


「意外と楽しいらしいぞ」


「まあ珍しくは無いのは知ってるけど……」


「そも俺がホストなったら他のホストに申し訳ない」


「その自信過剰なとこ、ウチは好きと嫌いを反復横跳びしてる」


「好きになれよ」


「ウザイ時が多いから無理かも」


「手厳しい」


 と。

 なんやかんやでハイペースでショットを飲み干していく俺達は、好きなところを一個ずつ吐き出しながらアルコールを回していく。オォン、エンジンの供給過多だぜ。

 


 ふらりと酩酊感と多幸感が溢れ出して来て、パチカスも壁にもたれ掛かってグラスを持ったまま停止する時間が増えて来たショット十杯目を超えて暫く。


「てかさ」


「何」


「これ、負けたら何かあるの?」


「あ?負けたら?」


「そ。負けたら」


 呂律も少し危うくなり、明らかに酔っている様子のパチカスの問いに俺は答える。


「そりゃあ、コスプレだが」


「また?」


「俺は顔の良い女にコスプレを着させる事でしか得られない栄養で生きているからな」


「餓死しちゃえ」


「この世に顔の良い女が居る限り、俺は栄養失調にはならん」


「ど変態男」


「褒め言葉だな」


 とくとく、とショットグラスに酒を注ぐ。

 琥珀色の液体で満たされるそれをずいと差し出せば、流れるような動きでソイツは迷わず飲み干して力強い動きで机に叩き付ける。

 完全に酔ってる。コイツ二日酔いルートなんじゃ。


「次は何のコスプレさせる気なの」


「未定」


「決めときなよ、どうせウチ着る事になるんだから」


「ノリノリか」


「まあ、嫌いじゃないからね」


「その割にはいつも渋ってるが」


「恥ずかしいからね」


「本音は着てもいいと思ってると」


「そ」


「酔ってる?」


「酔ってない」


 酒カスとの飲みで感覚がバグっていたが、コイツは別に酒が強い訳じゃなかった。ふらふら揺れてるが大丈夫かコイツ。


「水飲め」


「まだ飲めるし」


「大人ならチェイサー飲むもんだぞ」


「大人は間に挟まなくても飲めるもん」


「いいから飲め」


「飲んだら何かしてくれる?」


「何かしてやるから大人しくしてろ」


「言質とったり」


 無理に飲んで吐かれでもしたらこっちが迷惑だ。程良く酔って気持ち良く寝るまでが飲みだ。無理して飲まなくていいんだよ仕事でも無いんだから。

 立ち上がってキッチンへ歩く。冷蔵庫を開ければ、未だそこには水がたぷたぷに入ったコンドームの姿がある。

 取り出してコップに水を注ぐ。とぷとぷとぷどばっ。また零してんじゃねえか。


「ほれ」


「ありがと」


 パチカスに持っていけばにへらと笑って両手で受け取り、ちびちびと飲み始める。コイツ、酔うと毒気が抜け過ぎて最早ただの可愛い女になるの何なんだ。

 俺も一口飲んで、スマホの時計を見る。あと五分ほどでピザが来る時間だ。良い時間潰しが出来たと思いながら、煙草を咥えて火を点ける。ぷはー。

 ちょいちょいと裾を引かれて、向けば雛鳥のように口を尖らせるパチカスが居たので今し方吸い始めた煙草を口に突っ込む。少し面食らった顔をして、ぼけーっと煙を吐き出すのを尻目にまた一本に火を点ける。


「で、何してもらおっかな」


「あ?」


「水飲んだから、何かしてくれるんでしょ?」


「おん」


「じゃあね、んーとね」


 コイツこんな幼児化する奴だったかな。首を捻る。


「あ」


「思いついたか」


「明日パチンコ行こ?」


「パチカスが」


「アンタの金でね」


「ゴミカスが」


「駄目?」


「いいよ」


「やった」


 選ばれたのはパチンコでした。やはり脳汁の快感に取り憑かれたパチカスは、酔っていても脳汁を出したい欲求が根底に存在するらしい。

 

「何打ちたい」


「今日のリベンジ」


「よかろう」


「明日こそ勝ってアンタに借金返すんだぁ」


「おう早めにな」


「明日もし負けて返せなさそうだったら体で払うねぇ」


「そしたらマイクロビキニメイド服でご奉仕してもらうわ」


「いいよぉ」


 そんなほのぼのとした会話をしていると、ぴんぽーんと部屋の中にインターホンの音が鳴り響く。やっとこさ待ちかねたピザが到着したようだ。

 よっこらせと立ち上がろうとして、思ったより力が入らずこてんとベッドに倒れてしまう。無限ショット編で脳味噌は既にアルコールにずぶずぶに浸り切って平衡感覚を失ってしまっているようだった。

 うへーと気の抜けた声を漏らす俺をけらけらと笑いながらパチカスは馬鹿にしたように指を刺してくる。


「ベロベロで草なんだけど」


「るせえ債務者お前がピザ取ってこい」


「人に物事を頼む時はもっと態度ってもんがあるんじゃないですか?」


「誰がピザ買ってやったと思ってるんだ?」


「はーい取って来させて頂きますご主人様ぁ」


 舐め腐った態度でへにゃりと笑い、よっとパチカスは立ち上がり。

 どさり、と。次の瞬間には俺の上に覆い被さって来ていた。ごつんと体が衝突してほんの少しの痛みが走り、ああこいつも立ち上がれねぇんだなと本日のピザを早々に諦める事を視野に入れた。

 俺の上では「あれ?」と間抜けな声を間延びさせながらパチカスがその薄い身体を俺に擦り付けるようにしてもぞもぞとしていた。


「ふらふらで草」


「なんで立ち上がれないのウチ、へんなの」


「変だな。とりあえずそのもぞもぞとするのを止めろ、くすぐったいから」


「だってピザ取って来ないと」


「それはそう」


「でも立てないんですけど」


 ぴんぽーん、とまたチャイムが鳴る。行きたいんです。けど体が言う事を聞かないんです。

 もぞもぞもぞもぞ。ベッドに手をついて、そのスプリング性に力が抜けてまた倒れ込んで、手をついて、倒れて。

 それを三回ほどパチカスが繰り返して、ついには諦めたように俺の胸の上に寝そべって気の抜けた声を漏らした。


「うー」


「ピザはまた今度だな」


「でもぉ」


「今日は動けないから諦めろ」


「ツナマヨコーンピザ…………」


「食べたいなら頑張って起きて取りに行け、ほら」


「もーウチも動けません」


「ほな駄目かあ」


 ぴんぽーん。三回目のチャイムが鳴る。もうきっと不在と思われそのピザは廃棄となり、俺達の胃袋へ落ちる事無く焼却炉の底へと消えていくのだろう。南無。

 ピザはさて置き、俺の身体の上では現役モデルが寝そべるというまるで夢のようなシチュエーションが広がっているが、腹の上に広がる感触があまりにも薄く、俺の煩悩モチベーションが低い天井にぶち当たり恐ろしい程に興奮しない。

 酒で酔うと本能が出る、と言うが如何にドスケベマシーンである俺とは言え胸の無い美少女には興奮出来ないようだった。


「無念」


「今何に対して言ったアンタ?」


「勿論ピザだが」


「ダウト、邪念を感じた」


「勘の良いガキは好きだぜ」


「この」


 頬を引っ張られる。べろべろなので力が入っておらず全く痛くない。

 しかし手首に付けているであろう香水の香りがふわりと鼻に届き、ああやっぱ女の子なんだななんて思考がいや何を高校生みたいな思考出してんだ心頭滅却八切り五スキップ十二ボンバー。

 ぐりぐり、と頬を揉みくちゃにする手がぴたりと止まり、んー、とぼやけた声を上げながら突然パチカスが俺の首元に顔を寄せた。吐息が首筋に掛かる。


「コスプレ、今日してあげるよ」


「えっ」


 酔って力が入らなくなっていた筈の俺の身体に活気が巡る。このゲボカワ美少女サマは今何を言ってくれやがった?


「アンタってさぁ、おっぱい無い娘でもコスプレすると目の色変わるって自覚ある?」


「……そんな露骨?」


「うん」


「そんなにも俺のコスプレ好きの情熱が漏れ出てしまっていたか」


「引くくらいにね。なんならキモいくらい」


「なんだ、罵倒オプションはつけてないぞ?」


「そういうとこホントにキモいよね」


 酒精の混じる吐息が首筋に吐き出され、思わず身じろぎする。

 もじり、と胸の上の身体が這い上る。酒に浸った脳味噌が出す指令がパチカスの荒い呼吸として、俺の耳朶を刺激する。

 それはきっと、興奮からではなく身体の酸塩基平衡の調節としてアルコールによって体内のバランスが崩れているから呼吸がここまで荒く大きくなっているのだろう。それはそれとして、かなりこそばゆいものだが。


「なんかアタシの小さい胸で勝手に萎えてんのも癪だしさ」


 ぽそり、と。


「アンタの好きな格好で、ぶち上げてあげるよ」


 かぷ。耳朶を噛んだのは距離感を間違えたのか、彼女の言う癪という感情から来る挑発めいた攻撃だったのか。

 その真意は俺からしたら分からないが、そんな事はどうでもいい。

 一発の煽りで、俺はプッツンとスイッチが入った。




「マイクチェックの時間だオラァ!!!!!!!!!!!!」


「うわっ声でかっ」





 この後へろへろになるまで無茶苦茶コスプレさせた。


「カス」

・ピザは全部好き。


「パチカス」

・ピザはツナマヨコーンが好き。

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