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「こんにちは、あるいはこんばんは。クソッタレな世界」

(デカい女っていいよね)初投稿です。


 俺は絶望した。


「……もう夕方だぞ」


 あまりに時の流れと煙草の消費が早すぎる。スタンド攻撃かよ。

 お昼寝をキメている間に酒カスが帰宅していた夕方五時半。

 カーテンの隙間から差し掛かる夕暮れの光は、世間一般的に言うエモの主原料らしく橙色に俺の部屋の中を染色していた。が、ああエモいななんて大学生みたいな思考に陥る思考に陥る程俺の心中は穏やかでは無い。


「どうして今無いんだ」


 何故なら煙草が切れたから。俺のエンジンでありモチベーションであるソイツが無ければ俺は生きる事が出来ない。くしゃりと空になったソフトパッケージを握り潰す。

 これに関しては少し足を運んでコンビニに買いに行けばいいだけの話だ。

 そう、それだけだ。だがしかし。いやしかし。


「…………だっる」


 とても面倒臭いのだ。朝焼けから夕暮れの時間まで寝ていた身体は倦怠感に塗れて、俺の意識とは別に動いてくれやしない。

 クソ。己の怠惰な身体が憎らしい。

 えーんえんと内心嘆きながら、最後の一本をギリギリまで吸い切ってから灰皿にぶち込んだ。


 さて、どうするか。


 俺は考える。煙草を買いに行かなければいけないが、行きたくない。

 しかして煙草のウーバーなどある訳もなく、自分の足もしくは誰かの足を使わなければいけない。

 そう、詰まるところ誰かの足さえ使えればいいのだ。ふむ。これは考えるふりなだけだったようだ。答えは出ていた。


 俺はスマホを手に取った。


「…………もしもし」


『もしもし』


「一生に一度のお願いがあるんだけどさ」


『ソレ。キミの口から何回聞いたと思ってるんだい?』


「ちょっと煙草買ってきてくんない?」


『またかい』


「いや今日はちょっとアレがアレでさ」


『報酬は?』


「煙草一箱」


『ワタシをパシりに使っておいて一箱?』


「三箱でどうだ」


『ふむ。まあ、いいだろう』


「パシられるだけで三箱貰えるとか良いご身分だな」


『他人に煙草を買いに行かせるキミには言われたくないな』


「ごもっともで」


『まあ、少し待ちたまえ』


「おう」


『今着いたからさ』


「ん」


 ガチャリ、と扉が開けられる音がする。相変わらず仕事が早い。

 電話をティロンと切り、目を玄関の方へ向ければ足音も立てずいつの間にかヤニカスが其処に居た。

 いつも通りの真っ暗な死んだ目のソイツは、手に俺のよく吸う煙草を持って口元だけ微笑んで立っていた。


「こんにちは」


「もうこんばんはの時間でもいいと思うけれど」


「日が沈んだらこんばんは派なんだよ」


「まあ、そういう人も居るよね」


「な。しかしやっぱり早いな」


「お隣さんだからね」


「にしてもだろ」


「たまたまキミのと同じのを幾つか買ってたのさ」


「ほおん。浮気性のお前がここ数週間は続いてるじゃねえの」


「飽き性なだけだよ」


 静かな足取りで近寄って煙草を手渡すヤニカスに礼を言って、ぺりぺり包装を剥がしてとんとんと煙草を出して咥える。

 ジッポ……と手を彷徨わせかけて、そっと寄せられた火の揺れるライターに近づけて火を点ける。

 行動が早いようで。煙を吐き出して、「どーも」と改めて礼を言う。「いいよ」と笑うソイツは、ぎしりと隣に座る。


「今日は仕事じゃねえのか」


「うん」


「ちゃんと休んでんの」


「働き過ぎたみたいで、暫くは休むように店長にシフトを調整されたよ」


「残業塗れのコンビニ店員は病むだろうしな」


「まさか。ワタシがそういった精神疾患にかかる訳が無いだろう」


「はは。笑える」


「?」


「……なんだその顔」


「いや、冗談を吐いたつもりは無くてだね」


「お前その目で病んでないって言い張るのは無理だろ」


「この目は生まれつきだ」


「嘘こけ」


 この世の闇煮詰めましたみたいな目が生まれつきであってたまるか。

 もっときらきらした目になってから冗談言えよ。明らかに絡んじゃいけないやばい女オーラマシマシだろ。

 ヤニカスは首を傾げながら煙草に火を点けて、その造形の良い顔で煙を吐き出す。


「まあ、恋を病気とするならいつしか病むかもしれないけれど」


「その病に罹ったならきっとお前は目に光が灯るだろうよ」


「別に灯らなくていいと思っているよワタシは」


「その顔にゃ腐った目も悪くは無ぇが、きらきらした目も存外似合うだろ」


「つまり、可愛いという事かい?」


「そう言ってるだろ」


「これはもしや口説かれている?」


「俺が口説くのは記憶を無くす程酔った時か、面白そうな時だけだ」


「そんな。ワタシの心を弄ばないでおくれよ」


「弄べるくらい豊かな心してねぇだろ」


「こんなに感情豊かなのに?」


「お前が豊かなのは胸くらいだろ」


「おやセクハラ」


 胸を手で隠すな。隠れてねぇから。うわやっぱでっか。

 スイカだろうか。いや、もしやスイカ超えているのでは。そんな視線を送っていると、不意にすんとヤニカスが鼻を鳴らす。

 首を傾げれば、ソイツはずいと距離を詰めて俺の首元で鼻を鳴らして匂いを嗅ぎ始めた。何だコイツ。


「ふむ」


「なんだよ」


 零距離で目が合う。


「女の匂いがするね」


「ああ、朝まで飲んでたからな」


「にしては。少し濃いけれど」


「一緒のベッドで寝てたからな」


「……ふうん?」


「…………どう言う目だよ、それ」


「こう言う目だけれど」


「意味わかんねえ」


 近ぇよ、という抗議混じりの意味合いを込めて顔面に息を吹き掛ける。されど動じないソイツは、眉一つ動かさず零距離のまま俺の目を見つめ続ける。


「浮気とは感心しないね」


「そも付き合ってないが」


「実質浮気ではないかな?」


「そういう台詞を吐くのは目に光を灯してから言え」


「なんで目の光が関係あるんだい」


「ヤンデレに見えるから」


「……ふむ。確かに病んだ女の癇癪に見えるのは些か問題か」


「些かというか大分」


 包丁でも持ってこられたら敵わない。こちとらひ弱な一般物書き超絶イケメンなんだ。ヤンデレ適性など無い。


「今度からは目にハイライトを入れてから癇癪を起こすとするよ」


「それもそれでなんかアレだけど」


「アレってなんだい」


「なんか、こう、きもいなって」


「ワタシの目に光が入ると気持ち悪いって?」


「慣れたら良いとは思うんだが」


「かなり暴言寄りの言葉を吐いている自覚はあるかい?」


「ある。すまん」


「謝罪の言葉が言えるならワタシは許すよ、寛容な女だからね」


「助かる」


 ハイライトの無い女が癇癪起こす時だけ光が差し込むのはだって気持ち悪くねぇ?恐怖ですらあるだろ。

 ヤニカスが離れて零距離では無くなり、嘆息と共に煙を吐き出す。仕返しとばかりに俺に煙を吹き掛けるが、顔の良い女に吹き掛けられる煙は大好物だ。

 いいぞ、もっとやれ。

 

「この目の何処が気持ち悪いのか、ワタシとしては甚だ疑問ではあるがね」


「鏡見た事あるか?」


「あるが」


「多分その鏡買い替えた方いいよ」


「毎週掃除を欠かさずしているから機能面で問題は無いけれど」


「悪い、目ん玉の問題だったか」


「ソレを取り替えたら今回の話は全て解決してしまうね」


「レーシックで治るかな」


「生憎目はいいからする必要も無いんだ」


「目に光を灯す手術って無いんだろうか」


「ワタシは聞いた事無いしする必要性も感じないね」


 じり、と吸い切った煙草を灰皿に放るヤニカスは徐に立ち上がる。見上げれば、スマホを見ながら少し目を細めるソイツの姿が目に映る。


「と言う事でワタシは仕事の時間だ」


「ん、ありがとな」


「いいさ。いつか倍返しにしてくれる事を期待しているよ」


「煙草なら買ってやるよ、気が向けばな」


「キミ、そうそう気が向かないだろう」


「まあな」


「気まぐれ小僧だね」


「そう褒めるな、照れるだろ」


「キミのそういうところは称賛できるよ」


「ああ、今のは馬鹿にしてるのは何となくわかるぞ」


「まさか。ワタシは人を馬鹿にする事なんてないよ」


「本当かよ」


「ただ下に見るだけさ」


「もっと悪いかもな」


「あれ」


 ナチュラルクズ発言。人の心を持て。

 「それは悪かったね」と口の端を持ち上げる笑みの真似事をするソイツにしっしと追いやるように手を払えば、肩を竦めながら玄関へと向かう。

 かと思えば、振り返ってこちらへ近づいてくる。


「ああ、そういえば」


 つん、と鼻先が触れる。


「なんやかんや、ワタシは目に光を灯す事くらいは出来るよ」


 だから、あまり火遊びをするのはやめておくれよ。


「…………」


 零距離で見るその瞳には、初めて見た感情の光が灯っていた。

 面食らっていると、ふ、と笑うような吐息が聞こえて。

 すっと身を離して、玄関へ再び向かうヤニカスの背中がゆったりと遠ざかっていくのが焦点の先に見える。


「……お前、その方が可愛いんじゃねえ?」


「こうしてたらモテてしまうだろう?」


 振り返らず、返ってきた言葉に俺は返さず肩を竦める。

 ……いや、そもそも、お前はビジュアルがいいからモテると思うが。

 バタンと扉が閉まって、夕焼けに染まる部屋の中で立ち上る煙と俺だけが静寂と共に残る。


「…………」


 一息、吸って吐く。


「…………でもアイツの目、なんかギラついてたよな」


 光が灯ったアイツの目は、何故だか獲物を狙う獣のような鋭さを感じた事に不思議だと首を捻りながら煙草を吸う。いつもあんなに無気力で無感情な死んだ目なのに。

 思ってたきらきらと違う。きらきらというよりギラギラだ。

 アイツ、もしかして本当は目つきが鋭いのを隠す為に無気力に振る舞ってるのかな。適当に考える。


「……ふむ」


 でも、生き物っぽくてあの目のヤニカスも良いな。

 そう思いながら、夕焼けが差し込む窓のカーテンを閉じて煙草を灰皿に捨てる。

 ……しかし、目に光を灯せるなら何でいつも死んだ目をしてるのだろう。という疑問は、答えが出ないだろうと言う事で迷宮に投げて俺は再びベッドに横になった。

 




 とりあえずお返しを期待しているとの事だったので、ネットで新しいコスプレを購入しておいた。値段的には倍以上だからまあ倍返しだろう。ヨシ。

「カス」

・睡眠はいつでもいつまでも取れる。


「ヤニカス」

・睡眠はあってもなくても良い。

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