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「パチンコはお洒落をすると当たる気がする」

初投稿です。


「何でアンタが居るのさ」


「こっちの台詞だわボケカス」


 場所は本日イベント日の激熱なパチンコ屋。

 今日の運命を決める抽選を終えて、315番という良番とは言い辛い抽選券を握り締めて再整列に向かう前の一服をしようとしたところで知り合いと遭遇をした。

 キャップを被って、やたらスポーティーな格好で清楚ギャルみたいな顔立ちのその女は見間違えようもないパチカスだ。何で此処に居るんだよ。


「ウチは今日という激熱イベントを逃すなとお天道様に言われて」


「随分ギャンブル推奨なお天道様だな」


「アンタも似たようなもんでしょ」


「そらそうだろ」


「まーそうか」


「何番?」


「316番」


「俺315番」


「偶然にしてはきもくない?」


「きめえ」


「それな」


 溜息を吐きながらイヤフォンを外すソイツは懐から電子タバコを取り出しながらちらりと俺を見る。


「で、何狙い?」


「がらごろフェスティバル」


「ウチも。今日なんか熱そうだしね」


「でも空いてねぇんだよな多分」


「んねー。どする?」


「スロは軒並み座られてるからパチって思考」


「一緒。並んで打とっか折角だし」


「おう」


 本当はイベント日だしスロットが設定も入っていて非常に期待出来るのだが、今回のお店はスロットに非常に力を入れているところだ。今此処に並んでいるギャンブラーは軒並みスロットに座りに行くのだろう。

 故に、300番台の俺達が座れるのはあまり期待値の無いスロットか釘が弄られているパチンコの二択になる。

 一応『チャクラ』という光ったらBIG(6000円)かREG(2000円)のAタイプスロットもあるが、タコ勝ちかタコ負けの二択しかない俺とコイツの脳裏には打つ選択は無い。


「何座れっかな」


「まあ見てみてでいいんじゃない?パチンコは運だし好き嫌いの話でしょ」


「だな」


「んじゃ適当に目についた奴に座ろ」


 そう示し合わせて、俺も煙草を取り出して喫煙所に並んで歩き始める。入場時間まではまだ少しあるし、煙草を吸えば丁度良いくらいだろう。

 このパチ屋は外にも喫煙所を設置している神店だ。こうして抽選と再整列の合間に吸って時間を潰す事が出来るのだからなんと素敵な事か。

 灰皿の前に辿り着いて、のんびりと一服。


「そういやお前煙草吸ってたっけ?」


「ん?最近吸い始めたの」


「お前、煙草に使うお金はパチンコに使うべきとか言ってなかったか」


「それが聞いてよ、前にタコ勝ちしちゃってさあ。つい」


「いくら勝ちだよ」


「聞いて驚け、十万勝ち」


「やるじゃねぇか負け犬大学生の癖に」


「はあ?ニートが何言ってんの」


「物書きは働かなくていいんだよ、稼いでるから」


「ヤな奴」


 遅れて電子タバコのタネが点いたのか、ふーと煙を吐き出すパチカス。顔が良い女は紙タバコが似合うのに。勿体ない。


「で、今日の願掛けは」


「健康的ならば引きも問題無く引けるでしょうコーデ」


「ほーん」


 見れば、キャップから垂れる金髪はぶかぶかな黒のハーフジップに流れて、太ももを惜しげもなく晒してくれるショートパンツの装いをしていた。

 良い脚をしている。馬であれば三冠も余裕な名馬となっているだろう。

 ただ、胸が無いのが残念だが。何故無い。


「良いじゃん。胸さえあれば」


「死ね」


「顔と脚はいいんだから胸をどうにかしろよ」


「生憎スポーティーに生まれ育ってしまったの」


「言い訳すんな」


「もやしが」


「まな板」


「租チン」


「マグロ」


 鍔迫り合う。ぎりりりり。


「で、アンタの願掛けは?」


「【悲報】ナンバーワンホストの俺氏、パチンコ台にすら貢がせてしまう【メシウマ】」


「だからそんなクズみたいな恰好なの」


「悪い、似合いすぎて世のホストに申し訳ない」


「ハーフアップに柄シャツは典型的なクズ男の恰好すぎ」


「中身は清楚で清廉で潔白なのにな」


「対義語言うの得意じゃん」


「黙れよビッチが」


「ぽいのは見た目だけだっての」


 ギャルっぽいのは自覚してんだよなコイツ。部類としては清楚ギャルだけど。

 早起きした脳味噌にニコチンが染み渡る。これから脳汁放出による快楽で潤す未来を考えて、心臓が僅かに高鳴る。

 目指せ五万発(二十万円)。そのままコンプリート(遊戯終了)へ……。


「てか、今日ノリ打ち?」


「んー、お前今日タコ負けしそうだし別にさせてくんね」


「はぁ?勝つし」


「どーだか」


「アンタこそ負けそうだけど」


「貧乳よりは勝てるんじゃないですか」


「戦争」


 戦いの火蓋を切ってしまったらしい。要らぬ争いを誘ってしまったようだ、おお、貧乳よ心の余裕だけは豊かになりたまえ。


「敗者は勝者の言う事なんでも聞く」


「何でもって言ったな?」


「ウチに二言は無い」


「調子良い事言うじゃねぇかガキンチョ」


「同い年じゃん」


「ああいや胸が幼稚で貧相って意味でおっと間違えた」


「泣かせる」


「泣くのはテメェだパチカス」


 灰皿に煙草を互いに放る。バチリと視線が交差して、火花が散る。


「俺の勝ち星がまた一つ増えてしまうな」


「は?前負けたのアンタでしょ」


「総合で見れば俺の方が勝ってんだよな」


「いやウチでしょ」


「自分の負けた数も数えらんないなら今日から数え直せば?ほら、まず一回目」


「いつまでも過去の勝利に拘るつまらない男がよく言う」


「あ?」


「は?」


 抽選番号順の再整列の行列に並ぶ。睨み合いは止まず、お互い煽り合ってボルテージを上げていく。

 貧乳の癖に言葉のボキャブラリーは豊富なんだな。ついでに胸も豊かにしとけよ。

 時間になり、先頭の抽選勝ち組がぞろぞろと店に入っていくのを尻目に口論の攻防を続ける。


「大体何で胸の事しか弄らないんだよ悪口下手か?」


「いや別に胸以外そんな悪いところ無いし」


「えっあっうんありがと」


 攻防終わっちゃったよ。仕方ねぇだろ気に食わないの胸が小さい事だけなんだから。

 中身もサバサバしてて別に面倒臭いタイプじゃないし。本当に胸がデカければなあ。溜息。

 すん、と口論を再開する流れでも無くお互い少し閉口して、「てか」と話を変えるように口を開く。


「アンタ、勝ったら何命令するつもりなの?」


「メイド服着せて耳かきして貰うつもりだけど」


「童貞?」


「どどど童貞ちゃうわ」


「別にウチはメイド服着るくらいなんて事ないけど、それでいいの?」


「ビキニメイド服だけどいいか?」


「……ビキニメイド服?」


「ビキニメイド服」


「…………ビキニメイド服ぅ?」


「ビキニメイド服」


 一転、少し考えるように顎に手を当てるパチカス。


「…………もしかしてえっちじゃないそれ?」


「いや大分えっちだけど」


「そうだよね」


「まあお前が勝てばいい話だろ」


「まあ、そう……………………いやビキニメイド服は大分恥ずかしいかも」


「それがいいんだろ」


「変態なんですけど」


「次回、ビキニメイド服は至高である」


「次回予告演出出さないで確定演出みたいにしないでお願いだから」


 いいや、着させるね。何故なら俺が勝つからだ。

 うーん、と敗北の後の屈辱の可能性を考えてもじもじするパチカスをさて置き、前の人が進んだので俺も進む。遅れて、パチカスも進み始める。

 え、まじかな。まじだよね。そんな呟きを背にパチ屋の中へと入店する。


「対戦宜しくお願いします」


「宜しくお願いします神様どうかウチを勝たせて下さいどうかどうか」


「神に祈ってるようじゃ負けんだよな、信じるのは自分の腕だろ」


「神に愛されてこそパチンコはタコ勝ちするんだっての」


「所詮運任せ。これだからビキニメイド服着る奴は」


「何でウチがもう着る前提で話してるの?」


 鼓膜を揺らす喧騒の中を進んで、俺達は気の赴くパチンコ台を求めて歩く。そう、今はまだ朝の十時。これから長い戦いになる。

 けれど今日は独りじゃない。隣にはパチカスが居る。

 無限に投資する敗者を眺めながら、俺は連チャンして脳汁を気持ちよく出しながら煽るんだ。ねぇ、今どんな気持ち?って。


「俺達の戦いはこれからだ」


「最終話?」


 絶対に、勝つ。負けられない戦いが此処にある。いざ、出陣────────!










「まずいまずいまずいまずいまずい本当にまずいこれ何枚目だよ当たんなさ過ぎて吐くまじで吐く」


「神様お願い本当にお願いしますどうか当てて下さいこれ以上は生活費が本当にやばいんですどうかどうか」

 

 数時間後、俺達は絶望していた。両者ともに当たり無しの養分ゾーンを散歩していた。

 今からでも入れるパチンコ保険とか無いですか。



「カス」

・脳汁愛好家。パチンコはよく負ける。


「パチカス」

・金髪貧乳大学生。パチンコはよく負ける。



『がらごろフェスティバル』

・AT初当たり564/1(設定1)のパチスロ。上位ATで4000枚(80000円)が期待出来る。


『チャクラ』

・ボーナス合算168/1のパチスロ。光ったらBIG(6000円)かREG(2000円)。

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