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「街中で知り合いに会うという運をパチンコに使わせろ」

(借金が増えるので)初投稿です。


「あ」


「あ」


 何気ない街中で、知り合いとすれ違った。


「やあ、奇遇だね」


「だな。何日振りだ?」


「二日と少し。君が会いに来てくれないから寂しかったよ」


「彼女面すんな惚れちゃうだろ」


「いいよ」


「やだよお前みたいな煙草臭い女」


「喫煙者が言う台詞ではないね」


 なんなら喫煙所でばったり遭遇してる。煙草臭いコンビ。

 ふらりと夜飯でも食べようかと外に出て、散歩していたらこれだ。なんとも奇遇な事か。

 しかし珍しい、普段この時間はコイツは仕事をしている筈だが。


「今日は休みでね」


「珍しい。お前休みとか取るんだ」


「そりゃあね。ワタシだって人間さ」


「俺がコンビニ行った時には居ない時がないのは何でだ?」


「偶然だろうね」


「偶然か」


「そうだとも」


「まあ、そうか」


 でもこの店員さんいっつも居る……休んでるのかな……って心配するから本当に休め。日本人は働き過ぎなんだよ。全国民社会不適合者になれ。


「しかし君こそ珍しいね。出不精だろう」


「最近は煮詰まっててな、散歩が脳味噌にいいんだよ」


「チャイナ服もその件に絡んでただろう。当てが出来たと断られたがワタシは」


「後でお前にも着て貰うから安心しろ」


「欲張りさんだね。いいけどさ」


 口角が浅く笑むソイツは、煙草の煙を立ち上らせながら雑に結んだお下げを揺らす。

 死んだ目でこちらを見るソイツ、ヤニカスは今日もラフな格好の胸元にはでかい胸が存在感をエベレストばりに放っている。

 俺の知る中で一番胸がでかい。きょうもすごい。


「君は何の用で出歩いてたんだい?」


「飯。冷蔵庫に何もなかったし」


「君料理しないだろう。元々無いじゃないか」


「しなくても酒とかつまみとか酒とか酒は入れるだろ」


「ただのアル中じゃないか」


「ヤニカスに言われたくはねえな」


「そう褒めるな、照れる」


「頭イカれてんのか」


 照れる要素ねえだろ。思いながら煙草に火をつける。

 

「お前は?」


「……まあ、散歩かな」


「なんだ、同じか」


「ナンパ待ちしてご飯を無料で食べられないかな、と」


「腐ってんな」


「ワタシ可愛いから。可愛いならそれくらい許されるだろう?」


「外面と内面が比例してりゃ良かったのにな」


「おや、反比例しているとでも?こんな可愛いのに?」


「ドブみてえな中身してる癖に」


「酷いじゃないか、傷ついてしまうよ」


 そのどろどろに濁った眼をどうにかしてから言えよド屑ヤニカス女が。

 口角を上げて目だけは一つも笑っていないその女の顔は、感情も何も読めない。軽薄な口調からも奥底の感情など透けて見えやしない。

 けれど、いつも会う度に会話は弾むのだから不思議だ。


「で、どうだい?」


「あ?」


「ご飯、行かないのかい?」


「すわ逆ナンか」


「タダ飯の為ならついていくよ」


「ドブカスが」


「いいだろ、底辺コンビニ店員にお恵みをくれたって」


「廃棄で生き延びてるからいらねえだろ」


「久しぶりにほかほかのお米とか食べたいんだよ」


 お願いさ。そう言って、手を合わせるヤニカス。

 顔が良い女のお願いには弱いが、コイツはなあ。胸もでかくて好みの女だとは言え、コイツはなあ。

 えー、と素直に声を漏らせば。


「メイド服」


 ぴくり。


「ふむ。……スク水」


 ぴくぴく。


「……なるほど、シスターか。いいよ」


「交渉成立だな」


 じりっと灰皿に煙草を押し付けて火を揉み消す。思わぬ収穫だ。心が弾む。

 にい、と俺の心の内を見透かしたかのような目は気に入らないが、まあその無駄に聡いところは褒めてやろう。

 ヤニカスも続いて煙草を灰皿に放り、二人並んで喫煙所を出る。


「そうか、今はシスター服の時期だったんだね」


「ああ。よく分かったな、俺がそれを求めていると」


「キミの小説、そういうの出したがるだろ?」


「読んで予測してくんのは小説家泣かせじゃねぇか?」


「伏線は張ってあったからね」


「ち、よく読んでやがる」


「好きだからね。よく分かるよ」


 目がどろりと俺の事を捉える。笑みが深まる。


「そりゃどーも」


「どういたしまして」


「で、何食いてえの」


「そうだね、特に無いかな」


「は?」


「何でもいい。任せるよキミに」


「一番飯食いに行きたくねえ女かもなお前」


「はは。褒めないでよ」


「目だけじゃなく感性も死んでんのか」


 街中を歩く。未だ眠る事を知らない東京の夜は始まったばかりで、行き交う人々は十人十色の表情で街を染めている。

 大学生のグループやら女子高生二人組やら若い人間が楽しそうに道の端で語らっているのが目に入って、思わず目を細める。

 眩しいなあ。俺にもあんな時代があったなあ。


「流石に女子高生はまずいと思うよ」


「そういう目で見てねえ」


 茶化しやがる。確かに瑞々しいその太ももは見たが。ナイス太もも。

 

「寿司でいいか」


「いいよ」


「いいのか」


「ほかほかのご飯が食べたい気分だけれど、まあキミが食べたいんだろう?」


「ほかほかのご飯は次にしろ。俺は今日寿司の気分だ」


「ふむ。次も行ってくれるんだね?」


「あ?割り勘な」


「港区の女ならケチを垂れているところだけれど、ワタシは良い女だから喜んでいくよ」


「蛇足じゃらじゃらしてねえでわかったの一言だけでいいんだよ」


 回転寿司でいいや。スマホでマップアプリを開いて寿司と調べる。

 今日は異様に魚が食いたい気分だった。最近は飲み屋が多かったし、たまにはこういうのもいいだろう。

 近くにあるといいんだけどな、とマップをスワイプし始め。


「ねえ」


「んだよ」


 裾を引かれる。足が止まる。

 ヤニカスを見ると、目線が俺の左後ろを向いていた。

 ぼーっと見て、何か心惹かれるものが其処にあるようだった。


「今からワタシはキミの意思を曲げるマジックを見せるよ」


 何言ってんだコイツ。


「おっぱい戦法は今日は聞かねえぞ。多分。……いや、まあ、うーん、恐らくは」


「ぐらぐらじゃないか。いや、それで勝つのは確定だからやらないんだけどさ」


「どんだけお猿さんだと思われてんだ俺は」


「違うの?」


「違わねえよ」


「男の子だね」


 おっぱいに勝てる筈無いだろ。何言ってんだ。


「で、なんだよマジックって」


「あっち見てよ」


「あ?」


 左後ろを指差される。見る。何かある。


「…………ラーメン屋」


 あれは、ラーメン屋だ。ごてごての家系だ。あまり並んでいない。


「おい」


 脳裏にフラシュバックするのは、強烈なまでに脳を刺激する美味いという感情。

 麺、スープ、油、チャーシュー、ほうれん草、海苔、米、卵、エトセトラ。それらの織り成す味覚の大爆発。

 犯罪的なまでに暴力的で最強無敵な食べ物が其処にある。


「何だい?」


 足は勝手に進む。ヤニカスの手を引いて、俺は逸る気持ちのままに財布を取り出す。


「マジックは大成功だ」


「あはは」


 夜のラーメンって美味いからな。仕方ないよな。寿司とかいいわ今はラーメンでしょラーメン。

 

「キミならそうなると思ったよ」


「気に食わねえ言い方だな」


「おや、謝罪しようか」


「いや、ラーメンに気付かせてくれたお前にはこの千円をやる」


「ライスも頼みたいからもうちょっと欲しいな」


「欲張りが」


 もう千円渡す。


「早く食おうぜ」


「ラーメンは逃げないよ」


「逃げたらどうすんだよ」


「その時は別のラーメン屋さんに行けばいいじゃないか」


「それもそうだな」


 頷き、千円札を握り締めて店の前に立つ。

 この高揚感。今の俺を止められるものは何も無い。

 ただ、ラーメンを食す。それだけだ。


「いざ」


 そして、扉を開けて────────!









「あーすんませんもう閉めるとこなんすよ」


「おい責任とれよカス」


「あっはっは」


 この後他のラーメン屋探してニンニクマシマシで犯罪キメた。大変美味しゅうございました。


「カス」

・煙草はレギュラー派。


「ヤニカス」

・死んだ目で黒髪のコンビニ店員。胸がでかい。

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