「ともあれ、チャイナ服とは至高である。」
(借金とまらないので)初投稿です。
何はともあれ。
「…………どう?」
「エッチコンロ点火」
「きも」
目の前には、ネイビーな髪を肩口まで伸ばしたボブの顔の良い女が、黒チャイナ服を着て立っている。
ベネ。ディモールトベネ。
居酒屋から場所は変わり俺の部屋にて。チャイナ服となった酒カスはほろ酔いでも少し恥ずかしいのか、丈の短く太腿の眩しく覗くスリット部分を抑えながら俺を少し睨む。
「やっぱ似合ってる。最高に可愛い。あとエロい」
「感想がちんこすぎ」
「ついてるから仕方ないだろ」
「もげ」
「やだよ女の子になるのは来世なんだから」
「それもそれできもい」
罵倒されながら酒カスの全身を舐めるように眺める。
黒地に龍や花の意匠があしらわれているそのチャイナ服は短い丈で、加えてスリットが入っている。酒カス自身の控え過ぎず盛り過ぎない胸が昇り龍を歪ませ、これがヤニカスだったらもっと歪んでたんだろうなとふと思う。
チャイナ服というスタイルが大きく出る服装だからこそ、酒カスの細身が映えると心の中の俺がサムズアップしてくる。
「意欲が非常に湧いてきます」
「……創作意欲?」
「勿論。それ以外に何があるって言うんだ」
「言わせないでよ変態」
「男は皆変態なんだよ」
「知ってる」
罵られながらまじまじと眺めるのを続ける。
ついでに太もも絶対領域が映え過ぎる網タイツも履かせたのが正解だった。絶対領域の白さが眩しく光る。
目線に耐えかねたのか、酒カスは紛らわすように机の上に置いていたストロング缶を煽る。本日の対価に家で飲む分の酒も買わされた分の一つである。
「……しかし、えっちだな」
「何度も言わないでよ」
「だがえっちであると共に俺は思う事がある」
「……何?」
「何故人はこれを着て街を歩かない?」
「えっちだからよ」
「えっちだからか」
即論破。いや、だが。
「意義あり!」
「声でか」
「それは違くないけど違うよ」
「弾丸並みの論破出来るのそれ」
「出来る」
「出来るんだ」
俺は考える。何故チャイナ服を私服として歩く女の子が居ないのか。
チャイナ服とは素晴らしい服装だ。可愛いし、綺麗だし、えっちだ。
一般的な私服をするより何倍もお洒落で、そしてえっちだ。付け加えて、えっちだ。
「……そうか、えっちすぎるんだ」
「……論破出来てなくないそれ?」
「えっちだからとえっちすぎるは違うんだ」
「違くない」
「違う」
俺の脳内CPUは最適解を導き出す。
「チャイナ服は華奢でも豊満でも映えてしまい、万人に似合いその価値を高めすぎてしまうんだ」
「おっぱいの話してる?」
「してる」
「変態」
「お前は聞いた事あるか?例えば和服は巨乳だと似合わない説」
「……まあ、らしいってのは」
「俺は誰でも似合うと思うが、世間一般ではそんな馬鹿な風潮があるように向き不向きがある」
「……で?」
「他にも例えるなら縦セーターは巨乳が最強説。これに関しては異論は無い」
「異論あれよ」
「巨乳の方が縦セーターは似合う。ベネッセでも教えられる」
「ベネッセはそんな事教えない」
「天神でも教えられるぞ」
「嘘つけ」
それって貴方の感想ですよね。教えるに決まってるだろ。
「それに対してどうだ。チャイナ服はちっぱいでもでっぱいでも似合わない人は居ない。つまり、あまりにも強すぎるんだ」
「おっぱいに結び付けすぎじゃない?」
「おっぱいが結びつくのが悪い」
「おっぱいを悪く言うな」
「言ってない褒め称えている」
「すがすがしい程の変態」
誉め言葉を受けながら、俺は締めくくる。
「結論。誰でもえっちになれてしまうチャイナ服は、えっちすぎるが為に人々はその危険を鑑みて着ていない」
「物凄い馬鹿っぽい結論」
「天才すぎてノーベル賞が取れてしまうなこれは」
「馬鹿の世界チャンピオンは与えられるんじゃない?」
「名誉すぎだろそれは」
「不名誉でしょ」
天才すぎるQEDをしてしまった俺は、達成感のあまり煙草を咥えて火を点けてしまう。ああ、己の頭脳が憎い。天才すぎて。
「その理論だと、チャイナ服着る人はおっぱいが小さくても大きくても平等って事?」
「おっぱいはでかい方がいいだろ何言ってんだ」
「自分のさっきの結論ぶん投げたね!?」
おっぱいはでかい方がいい。広辞苑にも載っている。
「……アタシのはおっきい?」
「ほどよい」
「ほどよいって何よ」
「大きすぎず小さすぎず、つまりは理想だ。アヴァロンと呼ぼう」
「本音を言え」
「もうちょいでかい方が俺好み」
「本当に最低」
絶対零度!一撃必殺!な視線と言葉を頂いてしまう。
「だが胸は大きい方が俺はいいと思うんだ」
「その童貞みたいな思考捨てなさいよ」
「どどどど童貞ちゃうわ」
「どーだか」
「この思考は童貞とかじゃなく男の意見を総括して俺が言ってるんだ」
「本当に?」
「中には小さい方が好みと言う人間も居るのも否めないが、それもまた武士道」
「武士に謝れ」
「武士が本当に小さい方が好みならお前が謝れよ」
「真実が迷宮入りじゃん」
「迷宮入りしてしまうちっぱい好きの真実を求めるのは間違っているだろうか」
「は?」
は?って言うのやめろ。M気質が目覚めるだろうが。ぶひぃ。
溜息を深く吐いて、そのボディラインが浮き彫りになるチャイナ服で酒カスはまた酒を煽る。
アルコールが嚥下する喉元を見ながら、煙草を一口吸って。
「あ」
「…………嫌な予感がする」
ティンと思いついてしまった。
「なあ」
「嫌だ」
「まあ聞け」
「…………なに?」
「そんな嫌そうな顔するなよ」
「大体碌でも無いじゃん、こう言う時」
「どんな時だよ」
「すけべな雰囲気を感じる」
「気のせいだろ」
「気のせいじゃない」
「だってすけべじゃないからな」
「……じゃあ言ってみて?」
「膝枕してくんね?」
「えっちすけべド変態」
三段活用するな。
「ついでに耳かきもしてくれ」
「そういうお店じゃないんですけど」
「知ってる。そういう友達だよな俺ら」
立ち上がる。じりと後ずさられる。
「俺、チャイナ服の女に耳かきされてみたかったんだ」
「最低な事を言ってるのはわかる?」
「最高な事を言っているのはわかる」
「じゃあわかってないわ」
そこまで言われる筋合いは無いと思うのだが。
まあいいや、と座って灰皿に煙草をじりと押し付ける。
「そういや今日はどうすんの」
「んー、泊まってく」
「おけ」
「いやあ、変態だけど助かるよそこは」
「素直にありがとうって言えよ」
携帯を開いて時間を見れば、既に終電の時間はとっくに終わっている遅い時間だった。こうして酒カスと飲んでいるとよく見る光景なので慣れたものだ。
座り込んでぺこりとお辞儀して揺れるネイビーな髪を見て、まじ寄生虫みたいと思いながら手元のストロング缶を煽る。
酒気の帯びた溜息を吐いて、口元が物寂しくなってまた煙草を口に咥える。
「明日は?」
「お仕事。夜から」
「ん。頑張れよ酒カス」
「しっかり貢がせてきます」
ブイサインを掲げる酒カスを見て、職場で酒をせがまれる客の事を考えて不憫に思う。まじドンマイ。
コイツ自体顔が良いからリピーターも多く客足の絶えない盛んな要因の一つであるのだが、搾り取られる客からしたら堪ったもんじゃない。
コイツはザル過ぎるのが悪いのだが。
「ご主人様はお仕事ですかぁ?」
「おう。営業ボイスやめろ」
「そういってパチンコでしょ絶対」
「イベ日のパチは仕事だろ。タコ勝ちしてくるわ」
「勝ったらウチおいでよ、サービスしてあげるから」
「勝ち分全部持ってかれるわカス」
「カスは言いすぎでしょ社会不適合者」
「お前もだろ」
「アタシもでした」
わはは。
二人して笑い、はあとクソデカい溜息を吐く。何で社会ってクソなんだろう。辛い。
酒を煽り、空にしたそれを握り潰してゴミ箱に放る。入らなかった。
「わり、入れてくれ」
「下手くそ」
ぶつくさ言いながら缶を拾ってくれる。
座った姿勢からそのゴミ箱近くのところへ手を伸ばし、立ち上がるのが面倒臭いのかそのまま四つん這いの姿勢でゴミ箱へ向かっていく。
その時、目を見開く。
「─────!」
意図せずしてこちらにお尻が突き出されるようにして見えてしまうその絶景は、ラッキースケベという現象に他ならぬものであった。
良いケツ。そして丈の短いチャイナ服が捲れ上がって見えたその下は、黒だった。
白に映える黒。やはり黒こそ至高であるのか。脳内時間にして十分を超える思考を一秒で終わらせる。
「ありがとう」
二重の意味で。
「どういたしまし……なにその目」
「この世の真理を見た」
「何言ってんの?」
俺はここで宣言しよう。黒こそ至高であると。声、高らかに。
数秒後、普通にパンツ見えてたと教えたら強烈なビンタを喰らった。理不尽だろ。見せたのはお前だろ。
「カス」
・チャイナ服は黒色派。
「酒カス」
・せめて長い丈のチャイナ服が良かった。