9/太客が居ない日の営業。
評価感想よろしくお願いいたしますです。
「最近来ないわね、アイツ」
お客さんの居ない薄暗い店内で、ホットミルクで手元を温めながらアカネちゃんがそう言った。
「アイツって?」
「ほら、アオイちゃんの顧客」
「ああ、ご主人様」
確かに、とスマホでカレンダーを見れば『Butterfly Dream』で既に周知の人物である顔の良い太客である私のご主人様がお店に来なくなってから三日が経過していた。
一般的なお客さんだったら三日来ないのは普通の事でなのだけれど、約一ヶ月ほど欠かさずお店に来ていたご主人様がぱったりと三日も来ないというのは、普通の事だと言うのに私達は珍しいと錯覚してしまう。
アカネちゃんは退屈そうに頬杖をついて、はあと溜息を吐き出す。
「雨の日も風の日も、ダーリンだけは来てくれたんだけどね」
「まあ、お仕事って言ってたからまた少ししたら来るんじゃない?」
「来なくてもいいわよ、あんな奴」
「とか言ってますけど、アカネちゃん結構好きそうなタイプでしたよねぇ?」
「モモうるさい」
モモちゃんが意地悪な表情でアカネちゃんの顔を覗き込む。その甘々な声に慣れているアカネちゃんは肩を竦めて、脇腹をくすぐってそのちょっかいをキャンセルした。
「ひゃっ……」
「それを言うなら、モモちゃんの方が好きそうでしょ」
「えへへ、バレましたぁ?」
「え、そうなのモモちゃん?」
にこ、と笑みが返される。
「そうなんですよぉ、ザコオス君を一目見た時から結構気に入っててぇ」
ザコオス君て。
「…………呼ばせ方は結構アレだけど、好きなタイプなんだ?」
「はい。イケメンでお金持ちなのでぇ」
「身も蓋も無い」
「まー事実だし」
玉の輿、と言えば玉の輿かもしれない。
自分の顔と身体でお金を稼ぐ事に前向きなモモちゃんは、にっこりと笑顔を浮かべて思い出すように顎先を指でなぞる。
当店のエロ担当なだけあって、仕草一つもえっちだ。
「私、ザコオス君のお嫁さんになれますかねぇ?」
「うーん、ダーリンなら言えばお嫁さんにしてくれそうじゃない?」
「でもなんだか、あっさり振られちゃいそうな気もしてぇ」
「据え膳は食うタイプでしょ」
「誘惑すればイケるって事ですかぁ?」
「既成事実の一つや二つ握らせておけばいいと思うけど」
「あら、得意ですねえ」
「ガチサキュバスじゃん」
サキュバス二人の裏の会話を聞いて、ふと想像してみる。
おっぱいの大きいモモちゃんに言い寄られて、それに対して真顔のご主人様は…………ううん。いつもの感じだったら、鼻の下伸ばして手も出してきそうだけど。
果たして素直に既成事実を作ってしまうだろうか。
「なんか、ご主人様ってそういうのはしっかりしそうだよね」
「そういうのって?」
「なんか…………避妊とか?」
「ちゃんと着けれる男性は好感触ですねぇ」
「着けるのが普通だけどね」
「着けない方も居るんですよぉ」
「経験があるって事?」
「さぁ?サキュバスなのでわかりませぇん」
「サキュバス免罪符にすな」
「うふふ」
ものすごくえっちだ。
「でもまあ、ダーリンならしっかりしそうだよねそこは」
「ね」
「へえ、お二人とも信頼してるんですねぇ。…………え、もしかして?」
「「違う違う違う」」
「なぁんだぁ、私てっきり」
「勘違いしないでよ、私とダーリンはあくまでお店だけの関係なんだから。アオイちゃんと違って」
「アタシに矢印向けるのやめてくれるかなアカネちゃん」
「過ちの一つや二つありそうな雰囲気してるじゃない」
「失礼な!しっかりしてます!」
「アオイちゃんは過ち多そうですよねぇ」
「多くない!」
全く、アタシの事を何だと思ってるのか。
はあと溜息を吐けば、椅子に座ってスマホを弄っていたミドリちゃんが意外そうな顔でアタシを見る。
どうしたの。
「……多くないんですか?」
「ミドリちゃんまでアタシの事を何だと思ってるの!?」
ほら私達以外にも、と言わんばかりの顔を向けるなサキュバス二人。
えっちなモモちゃんとは正反対に真面目そうな雰囲気を出すミドリちゃん。冷え性なので他の子と比べて露出は少なめだが、ボディラインが分かるので逆にそれがえっちな隠れえっちのサキュバス。
ミドリちゃんはポニーテールを揺らして驚いたような表情のまま首を傾げる。
「アオイちゃんってなんか裏でもめっちゃサキュバスかと……」
「してないよ!?」
「……そうなんだ」
「どうして皆アタシをそう過ち常習犯みたいに思うのか分かんないよ」
「……?アオイちゃん、知らないの?」
「え?」
「……あぁ、そういう事ですかぁ」
「なに、なんなの?」
三人は不思議そうな表情の顔を見合わせる。
「……最近、店長がアオイちゃんとの夜の話を惚気てるから、割とそういうの慣れてるんだろうなって皆思ってるよ」
「身内が敵!」
「……私は、アオイちゃんって軽く見えるけど実はガードは硬い系の人だと思ってたんです。だけどどうも、印象が変わってしまって」
「前から私は両刀なのかなぁ、って思ってましたぁ」
「私もまあ性欲強そうとは」
「偏見も大渋滞!」
クロエちゃんが犯人だったらしい。あのハイスペサキュバスが!
「何、アオイちゃんそれも知らなかったの?」
「知らないよ!そもそもその話何!?」
「言わせないでくださいよぉ、恥ずかしい」
「……今更純情ぶるのは無理なんじゃ」
「ミドリちゃん?」
「あ、はは、何でもないです……」
「ミドリちゃん虐めないでモモちゃん」
「虐めてないですよぉ」
……それにしても、クロエちゃんとの夜の話とは。
「で?その夜の話って?」
「アオイちゃんがこのお店に入る前の夜の話、とかなんとか?」
「……あぁ、朝チュンの……」
「そ。前にちらっとは聞いてたけど、アオイちゃんはお酒で記憶無いから詳しいところは聞けなかったんだけど」
最近は「内緒♡」と誤魔化してた店長が、ひそひそ雑談の合間にその日の出来事を話すようになったんだよね。
それを聞いて、確かにクロエちゃんは今までその朝チュンの夜の事を誰にも話さなかったのを思い出す。私は酔っ払って覚えていないけれど、クロエちゃんのみぞ知るその夜の話は秘密にされていた筈だった。……秘密にしてた理由も分からないけど。最近話したんだ。
「確か一番初めは前の雨の営業日だったかな」、とアカネちゃんが思い出すように話す。
「私とシロエちゃんのツーオペしてた日……その日はダーリン来てたから本当に最近なんだけど」
…………それ四日前の話では?ずぶ濡れでウチに来たご主人様を思い出し、「それさ……」と口を開きかけて閉じる。やっぱりサキュバスだなんだと騒がれるのが見えたから。
「クロエちゃんがずぶ濡れギャン泣きでお店に来てお酒を頼んだところから始まりだね」
「ごめん、ずぶ濡れギャン泣きの状態って何?」
「私に聞かれても」
いつも笑っているクロエちゃんが泣いている姿なんて想像できないけれど。しかも雨にずぶ濡れでギャン泣きって。
「とりあえず私がタオルでわしゃわしゃして、その間にシロエちゃんがホットワインの用意して飲ませて」
「うん」
「一旦着替えさせて毛布被せたらなんかイッキしだして」
「うん?」
「ワインをボトルで煽り始めたから止めようとしたらシロエちゃんに止められて」
「ううん??」
「ボトルをイッキして一瞬で出来上がったクロエちゃんが、すんっと鼻を鳴らして言ったの」
──────今からエロい話をします。
「って」
「これどこまでがフィクション?」
「どうもノンフィクションらしいですよぉ」
「……クロエちゃんって意外とお茶目ですよね」
「お茶目で済むかなあ」
うーんこれは長い話になりそう。私は話をよく聞く為に、一旦ピッチャーを持ってビールを注ぎに行った。女子会には兎にも角にも酒だよね。
「アオイちゃん」
・酒カス。ネイビーのボブ。顔が良い。
「アカネちゃん」
・ロールプレイングのプロ。赤髪ツインテール。顔が良い。
「モモちゃん」
・エロ担当。桃髪ロング。顔が良い。
「ミドリちゃん」
・真面目担当。緑髪ポニーテール。顔が良い。




