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5/新顔って言葉はいいよね。朝顔みたいで。

(なんかランクインしてたみたいですね)お読みになったら、評価や感想をよろしければお願い致します。

 アオイちゃんという昔の女を捨て、俺は新しく別のサキュバスとお話をする為に今日も『Butterfry dream』に通っていた。

 既に慣れた垂れ布を割いて通り、「いらっしゃいませ」と複数のサキュバスの歓迎の声を耳にしながら少し待てば案内してくれるサキュバスがやって来てくれる。

 赤髪ツインテールで、身体の凹凸が少ないが露出度とラインの美しさが素晴らしいその釣り目のサキュバスは、腕組みをしながらふんと鼻を鳴らして俺の前に立つ。


「何、今日も来たの」


「うん。初めまして、アカネちゃん」


「何で名前知ってんの」


「遠目に見てたから。可愛い子だなって」


「そ。名前も盗み聞きしてたんだ」


「たまたまね。不快?」


「不快で不愉快よ。今日もテーブル席?」


「いや、カウンター席で」


「……?珍しいわね」


「ちょっと一週間程、アオイちゃん意外とも話してみたくて」


「……そ。じゃあ、案内するわ」


 ついてきて、と先に行く彼女の後ろ姿はやはり細かったがラインが綺麗だった。

 揺れるツインテールは最近眺める事も無いもので、古からの文化でもありながら今では新鮮さがあり思わず目で追ってしまう。

 連れられた先、端のカウンター席に座れば正面に営業スマイルの無いぶっきらぼうな可愛らしい顔がやってくる。


「改めて、一応自己紹介ね。アカネです、宜しく」


「うん、宜しく」


「……アンタは?なんて呼ばれたい?」


「ダーリンで」


「何でそんなキモイ即答出来るの」


「いかんのか」


「いいけど。ダーリンね」


 自己紹介と共に名刺を受け取り、ちらりと眺めてから胸元に入れる。

 ツンデレ系サキュバス、アカネちゃん。彼女は赤髪ツインテールやつるぺたといったそれらの属性を活かして、そういうサキュバスとして接客をしているらしい。

 予め。この二週間でどんなサキュバスが居るのか、店長もといクロエちゃんに軽く説明を受けた事もあり、彼女の事も知っている。顔と名前だけだが。


「飲み物は?」


「ハイボールで」


「ん」


 そのまま目の前にグラスを出し、からころと氷を入れながら作ってくれるのを眺める。炭酸水、ウイスキー、レモン。見事なお手前で出来上がるそれをコンと置かれれば、美味そうなのでひとまず飲み干してみる。


「美味。もう一杯」


「はや……身体に悪いよ?」


「美味そうなハイボール作る方が悪い」


「何それ」


 変な物をみるような目で見ながらも、もう一杯作り始めるアカネちゃん。


「アカネちゃんはお酒何が好きなの?」


「何でも」


「じゃあ飲みたいの何でも勝手に飲んでいいからね」


「太っ腹ね」


「まあね」


「一体どんな仕事してるんだか」


「なに、気になる?」


「そりゃあこんな毎日来てるんだから、お金の出所が気になるでしょ」


「何だと思う?」


「株とか」


「惜しい」


「答え何」


「小説書いて人に夢を見せる仕事」


「全然違うじゃん」


 コトン、とおかわりがやって来る。今度もイッキして飲もうかと考えたが、アカネちゃんの目が「無理しないで」と少し優しめだったので軽い一口にしておく。

 それでいいとでも言いたげなアカネちゃんは、うんと少し瞼を細めながら手に持つカップを掲げて「いただきます」とお礼を言ってくれる。いつの間にか用意していたそれはどうやら香りからしてココアのようで、こういうお店の女の子にしては珍しくお酒以外のものを飲んでいる。

 いや、露出の多い服装だからこそ温まるものを飲みたいのかもしれない。何処かで腹巻きでもして接客したいという声を聞いた気がする。


「で」


 煙草を咥えて火を点ける間に、アカネちゃんが本題を切り出すように口を開く。


「何で今日私なの?」


「え、可愛いから」


「そういうのいい」


「冷たいなあ」


 言いたいのは、何故長期間アオイちゃんを指名して通っていたのに、突然別の娘を指名してきたのかという疑問だろう。

 確かに、毎日飽きもせずやってくる太客が急に別の娘の接客を望んだのなら理由も聞きたくなるだろう。……何故ストーカーうんぬんで思考が直結しないのは、アオイちゃんや店長がその辺りの話をしていない為だろう。

 勿論注意くらいの声掛けは行っているだろうが、不要な混乱や不安を店内に持ち込まないというのは当事者と店の長としては正解なのだろう。


「うーん、まあ強いて言うなら」


 では、この問いに対してどう答えるのが正解か。


「メタで言うならロールプレイが一番しっかりしているから」


「うぇ」


 この期間で得た彼女達の印象を理由づけにすれば、彼女達からすれば納得だろう。

 元々、アオイちゃん以外の娘とも話してみたいとは考えていて、では一通りの娘を見て誰が好ましいかといえば、コンセプトカフェという環境の中でロールプレイのしっかりしたプロとも話してみたいと言うのは客側の思考としては自然だろう。

 いやほら、アオイちゃんのロールプレイってただの猫撫で声の酒カスサキュバスなだけだし。


「……私と一度も話した事も無いのに、よく言うね」


「まあ、話さなくてもこんだけ来てれば皆の接客くらい見えるし覚えるよ」

 

「ふーん。そ」


 素っ気ない反応をされるが、少しだけ口角が緩んだのが見える。ええ、何そのミクロデレ。おじさんもっと指名しちゃうゾ。


「褒められて悪い気はしないね」


「いっぱい褒めたげるよ、ベイビー」


「有り難く受け取っとくよ、ダーリン」


 ダーリンだって!!!!かわいいなァ!!!!!!


「取り敢えずアフターする?」


「調子乗らないで」


「冗談冗談だから包丁構えないで似合ってるから」


 きらりと光るモノが降ろされて胸を撫で下ろし、落ち着いて煙草をひと吸い。

 さあて。とニコチンを脳味噌に回しつつ、上機嫌なアルコールは身体に回す。

 冗談も程々に。


「まあ、さっきのもアカネちゃんを指名した理由なんだけどね」


「ん」


「他には、アカネちゃんに他の娘の事を教えて欲しくてさ」


「なに。もう他の娘のところに行こうとしてるの?ダーリン」


「はは、すぐ刺そうとするのやめなってドキドキしちゃうから」


「恋?」


「かも」


「何言ってんだか」


 いつでも包丁を取り出せるのははてさて偶然だろうか。それとも教育の賜物だろうか。ひい。


「で、何で他の娘の事を私に聞きたいの?アオイちゃんに聞けばよかったじゃん」


「聞いたら情報料としてテキーラと乾杯する事になっちゃって」


「肝臓クラッシャー?」


「優しくて、一番落ち着いて教えてくれそうなのがアカネちゃんだったから」


「その条件だと、店長……クロエちゃんも当てはまるんじゃないの」


「クロエちゃんは隣に居るとドキドキしちゃって」


「私だとドキドキしないって事?」


「そうは言ってないって違うよだから物騒なモノを下ろしてくれ」


 ツンデレ系だと思ってたけど実はヤンデレ系なのこの子?


「クロエちゃんじゃなくてアカネちゃんを選んだ理由は、最初にも言ったロールプレイに繋がるんだって」


「続けて」


「クロエちゃんはね、ガチ恋上等ドスケベサキュバスロールプレイなの」


「は?」


「アカネちゃんは、営業健全サキュバスロールプレイなの」


「……はあ」


「つまり、営業でツンデレしてくれるサキュバスの方が恋に落ちちゃう可能性が少ないから、アカネちゃんに頼ってるんだよ」


「…………別にガチ恋してもいいんじゃないの、クロエちゃんに」


「あの子にガチ恋したら搾り取られそうだもん」


「あー……」


「ね?」


「……私が居て良かったね」


「優しいサキュバスが沁みるぜ」


 じり、と灰皿に煙草を押し潰す。


「つまるところ最適な人材がアカネちゃんだったって事でもある訳」


「まあ、納得」


「ご理解頂けて何より」


「他の娘が困ってたらすぐ助けに行く視界の広さとかもね」


「そんな事してないけど」


「変なおじさんに絡まれて困ってる娘のところにすぐ行ってるの、何回も見たし」


「きも。言っとくけどあんたも変なおじ……ううん、お兄さんだから」


「そこは直してくれるんだ」


「おじさんって言うほど老けても不清潔でもないし」


「ありがとう、お兄さん嬉しい」


 ぐすぐすと泣きながら残りのハイボールを一気に飲み干して、おかわりを頼む。

 またイッキして、みたいな目で見ながらもすぐグラスを下げてお酒を用意してくれるアカネちゃんにお礼を言いながら、もう一本煙草に火を点ける。

 ふう、とニコチンで脳味噌の回転をより増やしていく。


「それで?結局何で他の娘の事を知りたい訳」


「そりゃ、お仕事に活かせれば良いと思って」


「ああ、なるほどね」


「簡単でしょ?」


「まあ。なに、あんたの書く小説にサキュバスが出る予定でもあるの?」


「んー、予定って訳でも。ただ、アイデアの一つになればポンポンお話が生まれてくれるからさ」


「へー。なんか大変そう」


「そうでもないよ。やってる事は、結局キモい妄想を文章にして大衆に見せつけて気持ち良くなってるだけだから」


「なんで急に卑屈に」


「物書きに性根が陽気な奴なんて居ないよ」


「ふーん、覚えとこ。はい、ハイボール」


「覚えといてー。ありがと」


「ついでにあんたの書いた小説とか今度見とく。暇だったら」


「それ見ない奴」


「面白そうだったら見るって。多分」


 そう言って見る人間は居ないのだ。俺は知っている。

 愛読者ゲットチャンスを逃した事におよよと泣いてみれば、溜息と共に、トンと小皿に乗ったチョコレートが置かれる。

 はて。頼んでいないけど、と目線で問えば。


「いっつも来てくれてるし、サービス」


「ありがとう。とりあえずアカネちゃん、結婚しよっか」


「なんでサービス一つで求婚されなくちゃいけないの」


「無償の優しさには愛で返さなきゃと思って」


「愛すぎるでしょ」


「顔も良くてお金持ちで優しくて素敵な旦那貰っときなよ」


「此処に来てる時点で難ありなのは確定だからやめとく」


「サキュバス側がそれを言うか」


 有り難くチョコを頂けば、ほろ苦い甘味がカカオの香りと共に広がる。


「まあ、他の娘についての話とか長くなりそうだし」


「なに、それくらいしっかり教えてくれるの?」


「適当でいいなら適当にするけど」


「ああごめんなさいいっぱい教えてください」


「……あんたって女の子に尻に敷かれるタイプよね、ほんと」


「どっちかって言うと敷かせて頂きたい、が正しいかな」


「変態」


「ありがとうございます」


 本日何度目かの溜息か分からない溜息を吐かれる。

 彼女の中での俺はきっとしょうもない事を並べて言うおちゃらけた男に見えているのだろう。実際そうなのだが。

 アカネちゃんがくいっとココアを飲み干して、からんとカップを置く音が響く。


「じゃ、うちの娘達について話そっか」


 そうして、チョコとハイボールとサキュバスが並ぶドスケベ空間にて語られるサキュバス達のステータスと裏事情。

 創作意欲が掻き立てられるような、俺が思わずエロ小説家になってしまうような情動を熱する話が始まる。

 次回はモザイク無し。ポロリもあるよ……!




「変な事考えてる?」


「全ッ然?」




 見透かされていたようで少し冷めた目で見られたのはちょっぴり興奮しました、まる。

 


「カス」

・仕事はやれるからやってる。


「アカネちゃん」

・仕事はやりたいからやってる。

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