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4/お前、船降りろ。

評価・感想、宜しくお願い致します。

「で、二週間が経った訳ですが」


 すぱぁ、と口から力無さげに煙を吐き出す。


「何の成果も得られませんでした」


「もしかして、ご主人様って使えない?」


「おうもう酒飲ませてやんねぇぞテメェ」


「やだなぁ冗談じゃないですかご主人様ぁ、だぁいすきぃ」


 甘ったるい営業ボイスを灰皿に煙草の吸い殻と共に揉み消し、あまりの収穫の無さに溜息を吐く。今は俺以外客の居ない既に見慣れたピンクな店内で、退屈そうに椅子に座って談笑するサキュバス達を尻目にハイボールを一口。


「一週間もあればそれらしい人間が見つかると思ったんだけどな」


「んー、たまに来る人って線は?」


「家にまで着いてくるような輩が男に持ち帰られるのを見て、平静で居るってのは薄いだろ」


「そう?たまたま用事が重なって来れてないって線は?」


「その線も薄い。恋するメンヘラは二週間も耐えられるほどメンタルは強くない」


「それはメンヘラさんに失礼じゃ」


「行動派メンヘラはそういうもんなんだよ」


「妙に経験ありそうな感じ」


「あるからな」


「へー、モテてたんだ」


「ああ。うっかりお腹刺されるくらいには」


「あはは、冗談上手いね」


「ははは」


「…………え、ガチ?」


「夢ならばどれほど良かったでしょう」


 イケメンだからね。仕方ないね。からりと飲み切ったハイボールのグラスを置き、机端にスライドさせればこつりと近くにハイヒールの足音が近づく。


「おかわりしますか?お兄ちゃん」


「是非とも」


「お兄ちゃん呼びも慣れてきたねー、クロエちゃん」


「はい。二週間絶えず来て頂けると、流石に」


「クロエちゃんの為なら何年でも通うさ」


「あら、お上手ですね」


「本心なのに」


「ふふ、そういう台詞は私以外に向けて下さい」


「俺はこんなにもクロエちゃんに夢中なのに」


「私、女の子にしか興味ないので」


「振られちゃった。おかわりお願いします」


「喜んで」


 去っていくでっかい素晴らしいドスケベサキュバスの笑顔にデレデレしていると、かつ、とネイルが机を小突く音が小刻みに聞こえる。

 音のする方を見れば、向かいに座るアオイちゃんが頬杖をついてやけに目を細めて俺の事を呆れたような眠いような微妙な顔で見ていた。

 一つ息を吐かれた。


「一応、ご主人様ってアタシの恋人役な筈なんだけど」


「なんだ、嫉妬か?」


「他の女の人にデレデレするのは違くない?って感じ」


「それは失礼、俺はお前しか見ていないよ」


「矛盾から始まってるけどその台詞」


「ホントホント。イケメン嘘つかない」


 彼女の言う通り、あの夜からこのニセコイ関係は未だに続いている。俺はアオイちゃんを推す盲目的な痛客彼氏で、酒カスはそんな痛くてイケメンなご主人様を愛しちゃうメンヘラ彼女。

 そんな設定で二週間も続けたものだから、カップルムーブもお互い板についてきた。ムーブを見せるべきストーカー候補の客も居ないのにこのテンション勘で居るのは、最早役者と言えるだろう。

 で、いつまでこの恋人ムーブすりゃいいんだ。


「まあ、クロエちゃんは綺麗だから見ちゃうのも仕方ないけどさ」


 ついと向けられた視線を追えば、その先にはお兄ちゃんと呼んでくれる素敵なお姉さんサキュバスが居る。頼んだおかわりのハイボールを作ってくれているのか、客と向き合えるカウンダーの奥でおしとやかな笑みで酒を注いでいるのが見える。

 ちらりとその視線はこちらを見つめ、艶やかなウインクが送られてくる。はぁ?ガチ恋するゾ。

 負けじとウインクをばちこーんと返し、胸高鳴るウインクの衝撃を紛らわせるように新しい一本に火を点ける。


「一応、店長なんだっけ。クロエちゃん」


「そ。何でも、可愛い女の子がえっちな格好しているのをずっと見る為にこのお店を作ったんだって」


「行動力」


「どこからそのお金を持ってきたかは知らないけど、なんかめっちゃお金持ちらしいよー?一人で従業員雇ってるくらいだから、結構」


「……俺クロエちゃんの事もっと気になってきちゃったなー?」


「玉の輿狙うな。アタシの店長だぞ」


「馬鹿言え。選ぶのはクロエちゃんだ」


「阿保みたい。アタシが選ばれないっての?」


「こんなイケメンが選ばれない訳無いだろいい加減にしろ」


「いやいや、おかしいでしょ。こーんなお酒も呑めて優しくて可愛くて素敵な女の子を選ばない筈がないでしょ」


「はは。金持ちイケメン天才ラノベ作家。加えて昼も夜もお仕事は大得意だぞこちとら」


「誰が床上手なところまでアピールしろって言ったのよ」


「……でもクロエちゃんに結局手玉に取られちゃうんだろうなぁ……『ざっこぉ♡お兄ちゃんよわよわ♡大人しく一人でカキカキ執筆してたらどうですかぁ?』って……」


「そんなメスガキみたいな……なんでにやけてんの?」


「可愛くてえっちなお姉さんにざっこ♡って言われたい人生だった」


「えー♡そんなの幾らでも言ってあげますよぉ♡よっわぁ♡煙草の吸い過ぎで歯まっきいろー♡こんなところ来てないでお家に帰って歯磨きしなよぉ♡」


「なーんか違うんだよなー」


「何が違うの?」


「それについては『わからせ』という単語について説明する必要があってだね」


「お兄ちゃん?」


 からん、とハイボールが置かれる。


「ウチのアオイちゃんにメスガキされてました?」


「はい」


「どうでした?」


「後で指導しておいてください」


「はい、しっぽりと」


「何でクロエちゃんはご主人様側なんだろう」


「可愛い女の子がメスガキを覚えるのは私得だと感じたまでです」


「そうだよねクロエちゃん、女の子は半分くらいメスガキであるべきだよね」


「はい、全くもって」


「ああ忘れてた、この人変態側なんだった」


 その言い方だと変態が悪みたいな言い方なので辞めて欲しいものだが。置かれたハイボールを一口。

 

「しかし、進捗が無いですね」


 ぽそり、と呟かれる言葉に視線を向ける。

 憂うような顔で顎に手を当てて考えるような仕草をするクロエちゃんはミステリアスで魅力的で、とても理知的でえっちだ。

 穏やかな笑みの奥に垣間見える聡明さは、きっとこの二週間の間アオイちゃんのストーカー事件に向けて存分に扱われている事であろう。


「クロエちゃん目線では何か分かった?」


「いえ、それがあまり」


「そっか」


 頭を振るクロエちゃんに肩を竦めて、吸いかけの煙草を灰皿に置く。


「クロエちゃんなら、すぐ分かりそうなものだと思ったんだけれど」


「買い被りすぎですよ、私は一サキュバスですので」


「何それえっち」


「そうですね、えっちです」


「何そのラリー」


「店長ならよく来るお客さんのリストアップとか、色々してるんじゃ?」


「ええ。ある程度、顧客の方々ならしていますが」


「その人達は特段怪しくはないんだ」


「そうですね。その中にはアオイちゃんを推してる方は居ませんから」


「え、アオイちゃん推されてないの?」


「なんかちょっと失礼」


「正確には推す方も居るのですが、かなり酒飲みなのでかなり軍資金を貯めてから来るので二週間程度では来ないですね」


「あー……」


「なのでそう来るとして考えられるのはお兄ちゃんのような稼ぎの良い方ですが、アオイちゃん推しのお客様の中にはいらっしゃられないので」


「お店で貢げないから、せめてもと店の外でストーカーをするような人は?」


「私が見る限りでは、なんとも」


「……ふむ」


 置いていた煙草を手にし、一吹き。

 整理すると、アオイちゃんの顧客リストに目ぼしいストーカー候補居ないと。で、二週間の中で怪しいのも特にお客さんの中には見つからないと。

 だとしたら、今回の騒動の容疑者はお店とは全く関係の無い人間か、あるいは。


「…………」


 情報が足りない。そも俺は探偵でも無いのだから、当然の如く推理ごっこなど出来る訳も無い。

 しかし人間観察においてはしてきたものだから、ある程度分かるものだと思っていたのだが。

 あまりにここまで難航すると、犯人は貴方ですねとビシリと言うよりは、いよいよ襲ってきたストーカーを取り押さえる方が早い気もしなくもないが。


 ちらり、と他のお客さんを接客する可愛らしい話した事の無いサキュバス達に目を向ける。


「んー……」


 …………いや、まあ、乗り掛かった船だし。


「アオイちゃん」


「なんですかぁ?」


「左遷で」


「うぇ」


 とりあえずコンカフェというものを満喫してみる為に、他のサキュバスの接客が受けたいので酒飲み青髪サキュバスは担当から解雇です。




 暫く駄々を捏ねていたのが見えるが有無を言わさずクロエちゃんに連れて行ってもらった。ええい引っ付くなそういう接客だと思われたらグレーでエッチなお店になってしまうだろうが。いやそうなんだが。


「カス」

・メスガキは好き。


「酒カス」

・メスガキを理解ってない。


「クロエちゃん」

・メスガキは好き。

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