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1/如何にタイプであろうと倒れている女の子には話しかけるな。

本編です。


 道端に女の子が倒れていた。


「…………」


 いや、寝ていた。ぶっ倒れているには幸せそうな顔で、緩んだその顔は酷く酔っていそうだったが熟睡を味わっているように見えた。

 青髪ボブの、ピアスバチバチの、地雷系の可愛い女の子。

 誰も通らない路地裏の隅で、それはもうぐっすりとその女の子は寝ていた。


「…………ふむ」


 気まぐれで立ち止まってしまった。どうするべきだろうか。ほろ酔いで上機嫌な脳味噌で考える。

 普段であれば一瞥してそのまま見過ごすのだが、いかんせん顔が好みだ。あと剥き出しの脚が良い。

 じゃない。間違えた。パチンコに勝った今日という終わりには、一善で締め括るのが次の勝利へと繋ぐ良い行動ではないだろうか。


「つってもな」


 懐から煙草を取り出して、一本吸い始める。隠れた名店であるモツ煮が美味い路地裏の居酒屋の帰りに、たまたまその前で寝てしまっている女の子を見つけたのは縁の一つではあろうが。

 

「どうしたんだい」


「いや、ほら」


「…………ふむ。流石に落とし物をお持ち帰りするのは宜しくないんじゃないかな」


「何で俺がお持ち帰りする前提なんだよ」


「君はそう言う人間だろう」


「安全性の高いモノしか俺は持ち帰らねぇっての」


「これだから男は。嫌だね全く」


「その目を向けるな、全く光が無いから怖いんだよそれ」


「失礼だね、こんなにもキラキラしていると言うのに」


「鏡を見てから言え」


 後ろからコツコツと煙草を吸いながら近づいて来たのは、大人になってからも俺の数少ない友人として交友を深めている魚が死んだ目のような真っ黒でどす黒くてハイライトが一つも入らない瞳を持つ女。

 胸が大きい事と顔が良い事が取り柄のヤニカスは、やれやれと呆れたような身振り手振りで俺を煽る。コイツは俺が真の男女平等主義者であり女性にもドロップキックを食らわせられる男だと知りながら、メスガキよろしく挑発してくるのでやりやすい。

 躊躇無く蹴り飛ばす事が出来るから。


「ひゃん」


「んな可愛い声あげるなよらしくない」


「失礼、ついね。どうしたんだい、スパンキングは趣味じゃないよ」


「俺も趣味じゃねえ」


「なら蹴るのは辞めなよ、周りにDV彼氏と思われるだろう」


「小突いた程度でDV認定される世界が間違ってる」


「是非ともぶっ壊してくれたまえ、協力するよ」


「任された。手始めに何処から叩く?」


「キミの頭かな」


「饒舌じゃねえか、咬み殺すぞ」


一吸い。


「で、珍しいじゃないか。道端の酔いどれに立ち止まるなんて」


「いや、ただの気まぐれなんだがな」


「ふうん。キミの好みだったからかい?」


「ああ。顔は文句無しだしこの地雷っぽさが何とも」


「こういう関わったら駄目なタイプと関わりに行くのがキミの美徳でありその反対でもあるよね」


「褒めるなら終始一貫褒めろよ」


「はは。褒めてるじゃないか」


「美徳の反対も付けてるじゃねえか」


「それに関してはロクな事にならないのを知っている癖に飛び込む、のが正しいかな」


「馬鹿。人生はトラブルある方がいいだろうが」


「何事も平穏が一番だと思うけれど」


 言いながらしゃがみ込んで、その倒れている地雷系を覗き込むヤニカス。俺も隣にしゃがんで、その顔を改めて覗き込む。

 うん、可愛い。目元に赤いアイラインを引いているところがよりグッドだ。明らかに泣いた後で赤く腫れた目元で無ければより可愛かっただろうが。

 ちらり、とヤニカスを見ればヤニカスも俺の方を見ていた。


「ワタシはトラブルには巻き込まれたくないから此処でお暇するよ」


「おい、何でトラブル確定にした」


「泣いて酔い倒れた地雷系の女の子は本当に地雷さ、触れたら終わりだよ」


「解除方法ミスんなきゃ大丈夫だろ」


「解除法がある地雷だといいけどね」


「おや、身に覚えがあるのか?」


 ぴた、と煙草を吸う手が止まる。


「……さてね、昔の事は忘れてしまったよ」


「都合の良い頭」


「古い記憶は抹消するに限るよ、キミもそうしたまえ」


「生憎記憶力は良くてな」


「ワタシはそうじゃない」


「隣の芝生は青いぜ」


「そうかい」

 

 ヤニカスは立ち上がり、もくりと煙を吐き出しながら踵を返す。「また」と手をひらひらと振るのを見送り、「じゃあまた」と返す。

 数歩歩いて、ヤニカスは不意に振り返って「ああ」と此方に視線を向ける。

 どろりと、真っ暗で其処が見えない見慣れた瞳を。


「でもさ、地雷が爆発しても皆が無事ならいいよね」


 たらればだけどね、とさらりと呟いてそのままヤニカスは路地裏を抜けて夜の街の何処かへと消えていった。

 相変わらず目が怖いんだよアイツ。いい加減ハイライトくらい入れろ。キャラデザの制作費足りねえのか。

 じりっと煙草を地面に擦り潰して、一息吐いて地雷少女に視線を戻す。


「…………」


 さて、気まぐれで立ち止まってみたはいいものの。

 具体的にどうしよう、こうしたい、とは考えた訳ではない。行き当たりばったり、ただ何となく「ああ、可愛い女が倒れてる」と目について足を止めてしまっただけだ。

 特別持ち帰ろうと下心を働かせている訳でも、介抱しようと善意を沸かした訳でも無く、本当にただの何と無く。


「へい、地雷女」


 まあ、何かが引っ掛かったんだろう。知らんけど。多分一日一善してパチンコに勝ちたかったんだよな俺。

 考えるのを止め、びたびたと頬をビンタしながら声を掛ける。ぐうぐうと熟睡しているこの地雷女は何回かビンタしても起きず、寝返りまで打つ余裕がある。

 ぺろんとスカートが捲れ、良い尻と黒色パンツが御来光された。ラッキー。二礼ニ拍手一礼。


「おはようございまーす」


 起こす作業に戻る。肩を揺する。耳を引っ張る。またビンタをする。

 こめかみを叩く。ビンタをする。腕を抓る。

 ビンタをする。ビンタをする。鼻を摘む。


「………………ッ?」


「お」


 起きたかも。摘んでいた鼻を離せば、眉を顰めながらのろりと身じろいで止まっていた呼吸を埋めるように深く息を吸う。

 何回か繰り返して、呻き声を上げながらその地雷女は漸く瞼を開いて、何回かぱちぱちと瞬きをする。

 ぼーっと暫く正面を眺めて、また呻き声を上げて、視界の中に居る俺と言うイケメンを捉えたのか此方に視線を向ける。


「………………おはようございます…………?」


「おはよう」


「はい、…………え、誰……?」


「不審者」


「自分で言うんだ……変な人……」


「真夜中に美少女に声掛ける時点で不審者だろ」


「……あー、ナンパ?」


「あー……可愛いから足止めたってのがあるから、間違いじゃないか」


 懐から煙草をもう一本取り出して咥えて、火を点ける。


「こんな所で寝てると危ないでしょ」


「……いいでしょ、別に」


「なに、危ない目に遭いたいって事?」


「…………そういう訳じゃ」


「そ」


 目線が逸れる。赤いアイラインと腫れた目元の赤が重なって、酷く可愛らしい。

 地雷風の見た目も重なって、その姿はやっぱりどう見ても地雷そのもので。思わず、目を細める。

 先ほど向けられた、ヤニカスの真っ暗な瞳と声がフラッシュバックする。


『地雷が爆発しても皆が無事ならいいよね』


 高校の時に大爆発したあの女が言うなら、まあその通りか。

 記憶を消去出来る程都合の良い脳味噌をしていない癖に、アイツは忘れた振りをするのが得意な女だ。煙草を吸う度に思い出す癖に、ニコチンに浸り切った脳味噌は否応無しに思い出させる癖に、皮肉なくらい光が無いあの瞳は笑ってしまうくらいに引きずってる癖に。

 あの時のアイツが縋るように向けて来た瞳と、この女が逸らした瞳が重なったように錯覚した。


「じゃ、俺ん家来る?」


「え」


 言ってみれば、虚を突かれたようにその女はこちらを見て。

 数秒、無言。

 一瞬、また目線を逸らして。


「……ん、いいよ」


 何を考えているか分からない目を俺に向けて、頷いた。


「主人公」

・トラブル巻き込まれ屋さん。


「ヤニカス」

・胸がデカイ良い女。


「地雷少女」

・多分酒が好き。

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