姉とドラグバイザー
特撮に詳しい姉がいる。どのくらい詳しいかというと、一番くじの『仮面ライダー龍騎』のグッズで、オーディンの持つ「無限のサバイブ」のカードのカラーリングが間違っているのを見て、「確かに本編のエンドカードではこの間違った方が表示されてたけどさぁ……」と言いながら静かに憤っていたほどだ。
アドベントカードの上部に配置された7本の縦ラインは、通常は金色だが、疾風・烈火・無限のサバイブを含むサバイブ関連のカードはこの部分が赤色になっている。最近『アウトサイダーズ』で王蛇が使用したのもそうであるように、「無限のサバイブ」も当然赤ラインが正しいのだが、本編45話のエンドカードでは誤って金ラインの「無限のサバイブ」が表示されており、一部の資料ではこちらのバージョンが使われてしまっているのだという。生粋の龍騎オタクである姉にはそれが見逃せないというのだ。
この話をDiscordで聞きながら、私は『龍騎』放送当時のある光景を思い出していた。もう番組も終わりかけた頃、街のジャスコで投げ売りになっていたDXドラグバイザーをお年玉か何かで買ってきた姉が、厚紙で自作したカードで「当選おめでとう!」だの「最強のアドベントカードだ!」だのといった特殊音声を鳴らして喜んでいた記憶だ。
小物アイテム認識系玩具の走りであるドラグバイザーは、先述のアドベントカード上部の縦ラインに開けられた穴(バーコードでも何でもなく本当に穴が開いている。この縦ラインはそれを目立たなくするためのデザインなのだ)を物理的に認識して、「ファイナルベント!」などカードに対応した音声を鳴らすことができる仕組みだった。無印のドラグバイザーでは、7本のラインの内の6箇所が使われているので、2の6乗=64通りの認識パターンが存在する。これが後半登場のドラグバイザーツバイになると、7箇所目も使われて128通りになるのだが、実は先述の赤ラインとは、無印ドラグバイザーには対応していないツバイ限定のカードであることを示す印なのだ。「この玩具仕様を理解していれば、サバイブカードを金ラインにしてしまうことなど有り得ない」とは姉の言である。
それはともかく。最終回間際になってようやく無印ドラグバイザーを手に入れた姉が、真っ先に何をしていたかというと、その日の内に手元のアドベントカードの音声は全て鳴らし終え、ネットに出回っていた解析リストを元にダミーカードを自作して、嬉々として特殊音声を鳴らしていたというわけだ。当時はドラグバイザーの内部構造をベノバイザーに移植する猛者が全国に居たそうだから(ダークバイザーやマグナバイザーでは構造的に無理で、ベノバイザーしか改造に適さなかったらしい)、それと比べれば可愛いものかもしれないが、それにしたって小学生女子の遊び方ではないと思う。
思えばあの頃が、彼女が「特撮好きの子供」から「ヤバイ特オタ」へと本格的に脱皮していく転換期だったのかもしれない。特にアドベントカードの種類などは私も散々叩き込まれたものだ。中でも、丸大食品のおまけカードの専用音声である「ソーセージを食べて強くなろう!」は延々聞かされたので、今もミラーワールドの金切り音の如く耳の奥にこびりついている。『龍騎』の話題に触れたり、新玩具の音声解析について見聞きするたび、私の脳裏に蘇るのは、あの時姉が鳴らしていた「ソーセージを食べて強くなろう!」なのだ。龍騎ソーセージは一度も食べたことがないのに。