お局の流れは絶えずして、しかも、もとのお局にあらず。
結論から言いますと、私はお局に一矢も報いることが出来ないまま、あっけなく二ヶ月の契約期間を終えました。
お局の根掘り葉掘り攻撃は二日目以降も絶え間なく続きました。昼休憩はもちろん、作業中にもです。
私は辟易しつつも、よくそんなに聞く事があるもんだと半ば感心しながら対応したものです。
その一方でグリドンの選別はとても愉快な作業でした。「この空間にあるのが私とグリドンだけならばどんなにか良いだろう」と何度思ったことか。
結局私がこのグリドン選別作業場で得たものは賃金とある程度のお局耐性、それにゴテハンダーを効率良く使う技術だけでした。
オチの無い話で申し訳ないのですが、事実は小説より奇なりなんてことは無いと私は思っています。(小説の方がよっぽど不思議で奇妙ではないですか?)
実を言うと「私とお局が次期第一外科教授の座を巡ってドロドロの派閥争いを繰り広げた」だとか「お局と絡まりながら階段を転げ落ちたら身体が入れ替わった」だとか「親指を立てて溶鉱炉に沈んでいくお局を泣きじゃくりながら見送った」だとかの胸熱展開を挿入しようかとも考えたのですが、リアリティに乏しくなりそうだったのでやめました。
事実を簡単に記すだけにとどめておきます。
仕事の最終日のことです。やっとこれでお局から解放される! と爽快感いっぱいに作業場の建物を出ようとしたところ、後ろから呼び止められました。
お局でした。手に紙袋を持っています。
「二ヶ月間よく頑張ったわね。あなたと話すの楽しかったわよ。これ、皆んなから」
なんとお局はパートさん全員からお金を集め、お餞別を用意してくれたのです。
家に帰って開けてみたらそれは、袋いっぱいの落雁でした。
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余談になりますがその後のことを少しだけお話ししましょう。
ゴテハンダーに味をしめた私が次に就いた職は、ゴテハンダーの部品を製造する会社の事務兼雑用でした。
残念ながらそこにもお局は存在していました。お局を完璧に避けて通れるほど世の中は甘くはないのだと私は思い知りました。
しかしグリドン選別作業場でのお局体験のお陰で、入社当初の私のお局対処技術は少しはマシになっていたと自負しています。
月日はどんどん流れます。
一体のお局が退職しても、次のお局が発生します。寄せては返す波みたいに、次々に押し寄せては消えていきます。
お局の流れは絶えずして、しかも、もとのお局にあらずってヤツです。好む好まざるに関わらず、私は数々のお局と遭遇してきました。
私のお局捌きは日ごとにキレを増し、最終的には右から大挙として押し寄せてくるお局軍団を、指一本触れさせることなく左に受け流すことの出来る域にまで到達しました。
そして時はさらに流れ、私がお局になる権利がついに生じたのです。
今では私もお局の気持ちがわかる気がします。どう足掻いても取り戻せない若さと言う輝きを持った年下の女をいびる心理が、わかる気がするのです。年齢を重ねて初めて見えてくるものもあるのですね。
しかし私はお局に関して嫌な思いをした経験から、自身は絶対にお局にはなるまいと誓っています。
せいぜいわざと若い女従業員の目の前でパピコを割り、彼女の目を凝視しながら二本ともを実にうまそうに食したり、アヒル口をつくって「私、いくつにみえるぅ〜?」と、ウザい上に反応に困る質問を浴びせるくらいです。
お局の連鎖は、誰かが断ち切らねばならないのです。
さて、長々とヤマの無い話を続けてきました。そろそろこのお局物語を終わりにしたいと思います。
え? 肝心のお局の倒し方を早く教えろって?
手榴弾でもテキトーに投げときゃ勝手に息の根止めるんじゃないスかね? 知らんけど。
ありがとうございました。