ダンジョン始めました
仕事から帰った後30分ほどの散歩の日課を続けてとうとう土曜休みにが来た。
下調べや準備も終わっているのでとりあえずダンジョンのぞいてみようとやってきた。
「お疲れ様でーす。こちらライセンスの確認お願いします。」
ダンジョン入り口ゲート前にいる警備員の方にライセンスを渡す。
「はい、お預かりします。
はい確認終わりました、今回が初めてですね。
ダンジョン内の行動は自己責任ですのであまり無理はしないようにしてください。」
「了解です、見ての通りの軽装ですから健康のためにスライム潰しに来ただけなんで無茶する予定はありませんよ。」
「まあそうですよね、それでも注意してくださいね、
ダンジョンの中は今までの世界の常識と違いますからね。」
「はい、ありがとうございます。
それでは、行ってきます。」
「はい、行ってらっしゃい、どうぞ、お気をつけて。」
ゲートを抜けてダンジョンの階段をゆっくりと降りる。
このダンジョンはすべての階層の探索がされている。
5階層までしかなく、各階層の地図も公開されていて出てくるモンスターも開設までされている。
ライセンスが発行されると現状で入場できるダンジョンの情報へのアクセスが許可されるので、5階層すべての地図と情報をプリントアウトしたものと携帯端末にダウンロードして持って来た。
今日は1階層しか歩かないけど念のためね。
装備としては目を守るためのゴーグルと革の手袋、スライム潰すための金属バットと少し履き込んだエンジニアブーツだけ。
長袖のTシャツの上にコートを着て、下はストレッチジーンズと普段着のままの探索。
それだけスライムの危険度は低い。
コートのポケットには印刷した資料とスティック型のバランス栄養食、500mlのスポーツドリンクを入れてある。
あとは少し前まで無料だったコンビニのビニール袋、スライムの魔石はポケットに入れられるけどさすがにスライムゼリーはポケットに入れたくないからね。
階段を降りてやっと1階層にたどり着く。
「まだ足首が硬いな、平らな道を歩くだけじゃ気付かなかったけど階段を降りるときは気をつけないと。」
ダンジョンの中は石造りの壁なんだけど全体がうっすら光っている。
そのおかげで照明器具を持たなくていいので楽ができる。
「おっ、第一スライム発見。」
まずは金属バットで叩いてみる。
両手で金属バットを握りダンジョンの床をもぞもぞ動くスライムの上に力強く振り下ろす。
ゴンッ
「痛っ!」
手痛い反撃を受けた・・・訳ではなくスライムごと床を叩いてしまった。
スライムは思った以上に弱く思いっきりダンジョンの床を叩くことになり衝撃が手に伝わる。
「情報通りとはいえスライムめっちゃ弱っ!もー少し軽くでいいかな。」
スライムのいたあたりが淡く光る、後には粒ガムくらいの半透明で白っぽい寒天みたいなものが残る。
「スライムゼリーか、とりあえず持って帰るかな。」
コンビニ袋に入れて左手にぶら下げる。
右手の法則で右の壁に沿って移動する、もちろん印刷した地図も確認しながらね。
「第二スライム発見。」
今度は右手に持ったバットを軽く振り下ろす。
ブチュッ
「えっ!こんなもんで潰れるのか、これだとエンジニアブーツで蹴っ飛ばしたり踏み潰すだけでも倒せそーだな。」
新品のブーツでやりたいことじゃないけどとりあえず倒せば消滅するしやってみるかな。
次に見つけたスライムをまずは右足のつま先で蹴る、いわゆるトーキックってやつね。
エンジニアブーツはつま先に鉄のカップが入ってるからダメージ出そうなのでね。
ブチャッ!
「うわっ!飛び散った!!」
蹴った勢いで潰れたスライムがブーツとジーンズに飛び散ってしまった。
幸いなことに飛び散ったスライムの粘液?も淡く光って消滅したのでブーツもジーンズもシミになることはなかった。
そのあとも右足で踏み潰し、左足でも蹴りと踏み潰しを試して見て倒せることを確認した。
「ほんとスライムは潰すだけなんだな。」
とりあえず6匹倒したところで帰ることにした。
ドロップしたのは魔石とスライムゼリーがちょうど3個づつ。
ここまでで約30分かかったから戻るのもほぼ30分かかる。
何が限界って足が限界なのよ、ダンジョンでの一番の強敵が靴綴れとはシャレにならん。
足に馴染んでないから履くと足を痛める。
でも履かないと足になじまない。
わかってて選んだことだからいいんだけどね。
新しく始めた趣味がダンジョン、で、その前に始めた趣味が革靴。
それも1年ほど前から始めたばかりの初心者でわからないことだらけ。
ネットで調べれば色々情報は出てくる、「エンジニアブーツはめっちゃ硬くて馴染むまでしんどいぞ」「スライムはめっちゃ弱くて潰すだけだ」そんな感じ。
「~らしいよ」、って情報だけの知識を「~だった」って実感して見たくなったんだよね。
50過ぎたおっさんで体力が落ち、メタボになり、あちこち痛んでくる。
でも、まだ間に合う、知ったつもりではなく実際に知ることができる、ほんの少しだけど自分の世界を広げることができる。
他人から見たら無駄なこと、くだらないことなのかもしれない、ちっぽけなことだけど毎日の生活にハリができた。
趣味なんてめんどくさいことを楽しむようなもんだし、どうせ一度の人生だ、他人に迷惑かけるわけでもないんだ、やりたいようにやってみよう。
まー若い頃は70kg台前半だった体重が90kg台後半まで来るとさすがに運動しないとまずいかなって思ったのがメインなんだけど。
好きな靴を履いてゲーム、漫画、小説の中にしかなかった世界の入り口を覗きながらちょっとした体力づくりができる。
なかなかいい趣味を見つけたと思うよ。
筋肉痛にならなければ明日も来てみよう、無理して怪我して月曜の仕事に支障があるとまずいから。
サラリーマンはつらいよ。