03 戦勝そして俺の葛藤
ブライタリー伯爵の独断によって、星の力を持っているコルトールが戦争に参加したが、戦況は先ほどよりも目に見えて、快進撃と化していた。
他の兵士たちが、撤退した中、戦場の荒野の上で彼女一人だけがたたずんでいる。
まるで、ほかのものを寄せ付けない、王者の風格、もとい、星の選ばれし者としての風格が嫌とわかるほどにじみ出ている。
いまだ、喧騒が鳴り響く荒野の地獄のような光景。それでも、彼女は全く、怖気た様子もなく、この地獄のような光景に静かに周りを俯瞰しているだけであった。
そんな彼女の存在に敵味方関係なく、刹那の時にのみ戦場が凍り付いたように静かになった。
まるで、この世のものではないような、存在感のようで、それでいて、現実感のないような言い表しようのない光景に、俺を含めて、誰もがそんな彼女に見とれていた。
だからだろうか。
一瞬、彼女と目が合った。
戦場を睥睨するような、二つのプラチナブロンドの眼と俺の視線が一瞬ではあったが、交錯した。
彼女は、俺に向けて、一瞬小悪魔的な笑みを浮かべた。その表情は、慈愛に満ち溢れているようで、それでいて、とてもやさしいようなそんな表情でもあった。
彼女は、すぐに表情を戻して、きりっとしたものに戻して、戦場を見る。
いや、見るなんて表現では、生ぬるいかもしれない。
睥睨している、そんな、表現がいちばんあっているだろう。
その証拠に、敵兵がものすごく怖気づいている様子がわかる。
恐怖、義憤、怨嗟、そして、畏怖。
様々な感情が、敵兵からあふれ出ている。
こちらから見ていても、わかるほどにあふれている。
王国兵も対象外ではない。
そんな、環境の中、突如敵側が、火矢を放ったことにより、この雰囲気が瓦解する.
そして、星の力を持つ、コルトールと皇国軍の戦いの火蓋が切られた。
★☆★
星の力を持つコルトールが参戦してからというものの、その光景は、一ことで言えば、蹂躙だった。
敵が、攻撃をしても、攻撃をしただけ、攻撃が跳ね返ってくる(・・・・・・・)のである。
火矢を敵側が、コルトールに向かって、打ち出す。
火矢がコルトールのもとに、近づいてくる。
彼女は火矢が自分に向かってくるのにもかかわらず、またっく物おじしていない様子で、小さく、それでいて、はっきりと力強く言葉を紡いだ。
「逆行」
そう、彼女がつぶやいた瞬間、彼女のほうを向いていた、火矢がまるで逆再生のようにして、敵のもとへ戻っていく。
戻っていった火矢は敵兵に当たる。まさか、攻撃が戻ってくるなんて、思ってもみなかったのであろう。
その油断が、命取りとなった。
「うわああぁぁ!」
「火が!火が!」
「助けてくれ!」
様々な怒号が、敵兵の弓部隊から聞こえてくる。
こうして、弓部隊が、壊滅した皇国軍は、あっという間に降伏をした。
★☆★
「皆の者、今日の戦、大儀であった!お前ら、いや、主に、星の力があってこそだが、忌まわしき皇国軍を負かして、降伏まで持ち込めた。これで我々の領土は、奪還された。誇りある王国民としての威厳を保てたどころではない!その威厳を皇国軍に知らしめることができた。感謝する!」
そんな言葉を口にしているのは、こちらが見ていても引く程上機嫌なブライタリー伯爵だった。
そんな言葉を聞きながら、周りを見やる。
周りは、ものすごく、歓喜していた。
みんな、皇国軍を打ち負かせたことに、そして、皇国軍に降伏させたことに対してとても喚起しているのである。
王国軍は皇国軍に劣勢、そして、幾多もの戦において敗戦し続け、そして、降伏してきた。
そんな中、皇国軍に打ち勝ち、降伏まで追い込んだのであるから、みんな受かれているのである。
「それでは、皆の者本日は、大儀であった。戦勝を祝して、乾杯。
「「乾杯!」」
ブライタリー伯爵の言葉とともに、兵士たちが、声を上げる。
そんな中俺は、何か嫌な予感が拭えなくて、周りの兵士たちのように盛り上がれなかった。
王国軍に対して優勢であった、皇国軍が素直に、そして、たかだか一部隊が壊滅しただけで降伏するだろうか。
普通に考えれば、王国軍に勝ってきたのである。
皇国軍の兵士たちのプライドが許さないのではないのか。なのに、こんな簡単にいともたやすく、降伏するだろうか。
俺はそんなことを考えて、どんどん嫌な予感が増していくことに気づく。
いや、もしかしたら、ただの杞憂かもしれない。俺は昔から、最悪の事態ばかり考えてしまう。そんな性格に嫌気がさしながら、俺は、思考を切り替え、自分を落ち着かせるために、外へと出た。
★☆★
俺は、思考を切り替えるために外へと出ていた。
外は、満天の星空が空を一面上に覆っていて、戦争中であることを忘れさせてくれるほど、神秘的で幻想的であった。
それにしても、コルトールの力はすさまじかった。
何回見ていても、その力には、驚かされ、そして、畏怖敬遠の眼差しで見ることしかできない。
金星の力。
それは、世界に七人しかいない星の一人で、今まで六人しかいなかった、星の新たなる星の力でもあった。
金星の力は、他の星の力と比べても強力であった。星の能力は、強力すぎるが故か、星1つに付き、能力も一個なのだが、金星逆行なんてものは、他の星たちの力と比べてとても強力である。
金星逆行。
その能力は、あらゆる物理現象や魔法現象を、逆行させることができる。
いうなれば、あらゆる事象を跳ね返す力であった。
その力は、とても強力であり、最強無敵とまで言われているほど、強力な能力なのである。
まさか、俺のましてや、近くにいたはずの幼馴染がこんな強力な力を持っていたなんて思いもしなかった。
近くにいたはずなのに、遠くなっていく。
俺は、幼馴染たちのことをわかっていたつもりであったが、わかっていなかった。
そして、俺は、自分に才能がなかったので、さらに遠くに行ってしまう。
悲しいと言ったら変かもしれないが、自分自身のことが嫌になってっしまう。
近所の人たちには、比べられ、そして、表に出して言わないが、裏で俺の無能さを嗤う。
そして俺の呼ばれ名が、「神童の腰巾着」
だから、俺は、幼馴染であるベックとコルトールから身を引いた。
幼馴染たちの迷惑になりたくない。
俺と一緒にいたら彼らの名声が下がる。
そう思って、俺は身を引いた。
それでも、幼馴染たちは俺にかまってきた。
俺は身を引いたはずなのに。
それでもかまってきた。
訳が分からなかった。
それでも俺は幼馴染たちの好意に甘えてしまう。
どうしたらよかったんだろうか。
わからない。
それを教えてくれる人もいなければ、頼れる人も幼馴染以外誰もいない。
俺を家族同然のように育ててくれた、ベックのご両親ななんというだろうか。
きっと、俺を、擁護する言葉で、やさしくしてくれるだろう。
両親を生まれて、早くに失った、俺への不憫さもあって、そう言ってくれるだろう。
でも、俺の求めている回答ではない。
一体俺はどうすればよかったんだろう。
そんな自問自答をしているが、結局答えが返ってくるはずもない。答えがわかるはずもない。
また、卑屈になってる。俺は、苦笑を浮かべながら、夜空に向かって、ぽつりとつぶやいた。
「…なあ、お星さま。俺はどうすればよかったんだろうな。」
そんな俺のつぶやきに当然答えが返ってくるはずもなく、返ってくるのは、涼しい風と満天に輝いている星の明かりだけであった。