02 ブライタリー伯爵の独断
「お前ら、もっと真面目に戦わんか!」
指揮官となっている貴族が叫ぶ。何をのんきなことを言っているのか。こちとら、まじめに命を懸けて戦ってるというのに。
「前進するんだ。皇国軍に押されていては、王国民として示しがつかんぞ。お前らそれでも、誇りある王国民の一員か!」
貴族の指揮官がなにかをしゃべっているが、そんなことは関係ない。
こっちは、今は戦うことのみに集中しなくては、いつ殺されてしまうか。たまったもんじゃない。
「とにかく、前進だ!前に進め!これ以上、王国に汚らしい、皇国軍を入れるな!」
貴族の指揮官は、そんな、戦略もくそもないようなことを言って、王国軍を動かしている。
この国の貴族は、阿呆なのであろうか。
実際にも、戦争は、貴族たちの功績をあげる場所でもあり、そして、少しでも自分の地位を上げようよしている。
全く、こっちの身にもなってほしい。貴族連中は自己中心的な奴ばっかりしかいない。
「お前ら何をやっている!前に進めと言っているだろ!ええい、なぜいうことを聞かんのか!」
貴族の指揮官が、同じようなことをわめいている。
そして、このままでは、自分の地位が危ういと思ったのだろう。
貴族の指揮官は、とある決断を下した。
「おい、そこのお前。」
「は、はい!」
指揮官の男は近くにいた衛生兵に指示を下す。
「星を呼んで来い!」
「え!?星を呼ぶんですか?」
「そう言っている!さっさと連れてこんか!」
「え、でも、王都にいる中央軍に許可をもらわないと…」
「この場では、だれが一番偉いかわかっているのか!この貴族である、ブライタリー伯爵だぞ!私の指示に従え!」
そういって、貴族の司令官は、星を呼び出した。
この時の星であるが、もちろん、星とは、金星の力を持っているコルトールのことである。
本来、星の戦争参加には、王都にいる中央軍の総司令部に許可を取る必要があるのだが、この伯爵貴族は、独断で、星を戦場に出
そうとしているのである。
この行為は、貴族としても、ましてや、軍の司令部の指示に歯向かう行為でもある。
軍の司令部には向かうということは、王国にも歯向かうことになるのだが、この貴族はそのことを理解しているのであろうか。
「わ、わかりました!今すぐお連れ致します!」
「最初からそう言っている!なぜ、いていることがわからない。これだから平民は…」
ブライタリー伯爵は、司令官の男を侮蔑に近い目線を向け、それを恐れた衛生兵の男は、逃げるようにして、コルトールのところまで、向かっていった。
「お前ら、前進しろ!もうじき、星がお前らの増援に来る!」
ブライタリー伯爵の言葉で軍全体に安堵が広がる。
星とは、それほど強力な戦力でもあり、畏怖敬遠の対象でもあるほど、信頼もされている。
コルトールの幼少期からの正義感が強い性格あってか、国民からも信頼が厚い。
王国の最終兵器とまで言われるほど、協力でもある。コルトールが破れたら、王国は終わる。
こんな言葉まで、出始めるほどであった。
そんなことを考えていると、先ほどの衛生兵の男が戻ってきた。
「星である、コルトール様をお呼びいたしました。」
衛生兵の男が、ひときわ大きな声で叫ぶ。
軍全体に一層、安堵の意気があがる。
それに続いて、ブライタリー伯爵が、叫ぶ。
「お前ら、星が来たからには、戦勝必然!勝つ気力で望め!全速前進!」
その言葉を皮切りに、軍の行進スピードが速くなり、皇国軍を押し始める。
皇国軍は見る間に押されてゆき、王国の領地から完全に追い出された。コルトールの信頼度、そして、星としての力強さに改めて、俺は感心する。
「全速前進!皇国軍を皇国側に押せ!」
見る間もなく皇国軍が、どんどんと押されてゆく。
でも、なんかおかしい。先ほどまで、我々王国軍のほうを圧倒的な戦力で押していたというのに、こうも簡単に、皇国軍が王国軍に押されるのだろうか。
俺は、何か得体のしれない、いやな予感がする。
何だろうか、何か悪いことが起きる気がするのだ。
そう考えていると、指揮官の言葉に、思考を中断させられる。
「星が来たぞ!お前ら、星を前に出す!道を開けろ!」
指揮官の男がそういうと、ぞろぞろと、兵士たちが、道を開けてゆく。
そこから出てきたのは、プラチナブロンドの長い艶やかな髪をポニーテールにまとめ、瞳は真ん丸な可愛らしい髪と同じ色のプラチナブロンドな瞳。
スラっとしていて、誰もが、戦争中であることを忘れるほど、オーラを放っている。
俺も、その一人だが。
その時、一瞬目が合った。彼女は俺と目が合うと、悪戯に笑う。
ああ、やっぱり、見間違えるはずがない。
俺の大切な親友の一人である。コルトールだ。
オーラをまとっていても、笑い方や性格は変わっていない、まごうことなき、コルトールである。
そんな彼女が、入ってくると一瞬にして、軍全体が、静かになるが、それは一瞬のことで、刹那、一瞬で軍全体が沸き上がる。
こうして、ブライタリー伯爵の独断によって、星が、この戦争の戦力として、参加した瞬間であった。