予知能力
僕には三日先の自分を予知する能力がある。でも、未来と見たからといって必ずそうなるかというと……そうでもない。
主人公の四条司には特殊な能力、もしかしたら妄想かもしれないが、不思議な能力があると思っている。そんなとき、「気になっていた女の子が死ぬ」という予知を見た市場司は……
僕には三日先の自分を予知する能力がある。でも、未来と見たからといって必ずそうなるかというと……そうでもない。
どうやら前日二日間の行動で予知した未来が変わってしまうようなのだ。つまり、僕が見れるのは三日後に自分に「訪れるかもしれない結末」のみなのだ。なぜそうなるのか、という課程は予知できない。
しかも、この予知能力が使えるのは三日に一回のみだ。毎日使えたらきっと確実な未来が作れてしまうからだろうな、とか勝手に思っている。
こういう話を聞くと、いいなぁ、とか思われるかも知れないけども、実のところ一度も予知が当たったことがない。これを予知だなんて友達に言ったら笑われるだけだろう。
でもこの日の予知は穏やかでなかった。僕が気になっていた女の子、「篠原亜紀さんが三日後の11月9日に死ぬ」というものだったからだ。
私は篠原亜紀。昔から予知夢のようなものを見て、いつも良くない内容。見たくないと思っても気にしてしまった夜は見てしまう。この予知夢は当たることもあるけど、ハズレることもある。どちらかというとハズレることの方が多い。
この変な能力のようなもののせいで、昔は狼少女なんて言われてしまって良い思い出は一つもない。県外の高校に通うようになって、誰もこのことを知らない環境になって良かったと思ってる。もう誰にも言わない。
でも昨日の夜の予知夢は穏やかでなかった。「11月9日に私が死ぬ」というものだったからだ。
いつものようにどうせ当たらない、そう言い聞かせても不安は不安だ。今まで自分に関しての予知夢を見たことが無かったから。それにいつどこでどうやって死ぬのかは分からなかった。
僕はここで声をかけるべきか……。でもここで声をかけなければ……あの予知が本当なら篠原さんはこの先の交差点で車に跳ねられる。当たらないと願うよりも自分が変な人だと思われても助けた方が良いに決まってる。
「おはよう。篠原さん」
案の定、篠原さんは誰?という顔をして一歩引いてしまった。
「えーっと、いや、その。僕は四条司と言います。隣のクラスなんだけど……。まぁ、知ってるわけもないよね!いきなりごめん」
ここで時間を稼げばあの予知は当たらなくなる、はず。その時、交差点をタイヤのスキール音を響かせて乱暴に曲がってゆく車が見えた。
「当たったの……かな」
「なにがですか?なにが当たったんですか?用事がなければ私はこれで」
篠原さんはやはり不審者を見るような目でそう言って先に学校へ向かってしまった。ああ。しまった。せっかく話しかけることが出来たのに。でも名前を伝えられただけでも進歩があったのかな。
「しまった!さっきの車が問題の車である確証はない!篠原さんを追いかけて、あの交差点を無事に渡るのを見届けなくちゃ!」
点滅する青信号。篠原さんは小走りで渡ってゆく。逆車線の道路からは右折車線にかなりの速度で入ってくる自動車が見えた。
「!!」
「篠原さん!!」
「きゃっ!」
篠原さんは不意に後ろへ腕を引っ張られて尻餅をついてしまった。
「なにするんですか!」
「いや、車が……」
「車が何なんですか!」
猛スピードで右折車線に入ったと思った車は停止線をちょっと飛び出していたけども、信号機に従って停止していた。
「~~~っ!見ました?見ましたよね?最っ低」
どうやら僕は変質者だと思われてしまったようだ。それにしてもパンツを見るために腕を引くってどういう変質者なんだよ……。白だったけど。
その日は遠巻きに篠原さんを見ていたけども、結局無事に家に帰って行って死ぬなんて事にはならなかった。
「よかった。今回の予知もハズレだったんだ。でも万が一があるからこれ……」
「四条司さん、ですか?」
「はい。そうですが」
突然、スーツを着た二人組の男に声をかけられた。篠原さんを殺しにきた殺し屋、には見えない。
「ちょっとよろしいですか?」
警察手帳を見せながら男の一人がそう言った。
警察?なんで警察が?篠原さんはやっぱりなんか事件か何かに巻き込まれてる?本物の警察なら篠原さんを保護してもらえば!
「あの!篠原さんが!今日し……」
ここで「今日、篠原さんが死ぬ予知を見た」なんて言ったら僕が変質者に思われてしまう。
「篠原さんが、今日なんですか?何か言おうとされていたようですが。ああ、失礼。私たちはその篠原さんからの通報で来ました刑事課の海原と申します」
「通報……ですか?」
「そうです。朝から変な人にずっと付きまとわれてる、という内容でね。四条さんちょっと申し訳ないけど署までご同行願えますか」
窓から篠原さんがこちらを見ている。すぐにカーテンは閉められたけども。
その後、僕は生まれて初めてパトカーに乗った。これが覆面パトカーか。なんてこの時は説明すれば分かって貰えると楽観的な考えでいた。
「何で君は彼女に付きまとって居たのか教えてくれるかな?」
いわゆる取調室というところで机向かいの刑事さんが問いかけてくる。説明……どう説明すれば良いのだろうか。僕には予知能力があって、今日、篠原さんが死ぬ予知を見たので見守っていた?そんな説明を警察の人が信じてくれるのだろうか。背中に変な汗が出てきた。
「黙秘……か……」
まずい。弁明の方法が思いつかない。警察の人は僕がストーカーかなにかと思ってるに違いない。僕は彼女が好きで……ダメだ。それこそ完全にストーカーじゃないか!
「んー。困ったな。君はまだ高校生みたいだから穏便に済ませたかったんだけど。今、君にはね、連続通り魔事件の実行犯の容疑がかけられている」
通り魔事件!?あのニュースでやっていた?なんで僕が通り魔事件の容疑者に?早く無実だって説明しなきゃ!
「僕はそんなことやってません!」
「みんな最初はそう言うんだよなぁ。本当にやってない?三日前の夜、君はどこにいた?」
三日前……今日は金曜日だから火曜日の夜か。火曜日の夜は予備校に行って、篠原さんが死ぬ予知を見てしまって公園でどうするか考えていたところだ。
「予備校に行って、帰りに公園で考え事をしていました」
「それは今上公園で、時間は21時頃かな?」
「はい。そうですが……」
「ちょっと今日は家に帰れないと思うから親御さんに連絡を入れさせてもらうからね」
ちょっとじゃないくらいに混乱した。通り魔?容疑者?家に帰れない?なんで?
その日は人生で初めて留置場という場所で一晩を過ごすことになった。自宅に家宅捜査っていうのも入ったと聞いた。結局、無罪と分かって釈放されたけども散々な目にあった。昨日が金曜日でよかった。警察の留置場にいたから学校を休んだ、なんて事になってたら僕の人生はどうなっていたのか。言われなかったけども、ストーカーの容疑はかかったままなんだろうな……。
帰宅してから両親には人生で一番の剣幕で叱られた。警察の取り調べよりも厳しい追及だった。
その後、両親につれられて篠原さんの家に行き、父親に頭を押さえつけられながら平謝りを繰り返した。玄関先に篠原さんは出てこなかった。
あの四条君っていう人、なんなのかしら。なんで金曜日に私に付きまとってきたのかしら。今まで面識も無かったのに。それに交差点での出来事、彼、ものすごく必死だった。ストーカーとかそういうのじゃなくて、私を助けようとしたような感じだった。なにから助けようとしたのか分からないけど、交差点だったから車にでも跳ねられるとでも思ったのかな。
私は自分が11月9日(金)に死ぬという夢を見ていた。でも結局いつものように当たらなかった。あのとき、警察に通報していなかったら四条君に襲われて死んでたのかな。なんにしてもあの人は怖い。その日の夜は予知夢のこと考えてしまって、また予知夢を見てしまった。
「今週の水曜日に私は死ぬ」
まただ。また自分が死ぬという予知夢だ。水曜日の祝日は知子とショッピングモールに行く約束をしていたけどもイヤな予感がしたので、具合が悪くなったと言って断りを入れた。
「篠原さんが死ぬ」
まただ。今度は火曜日に篠原さんが死ぬという予知を見た。でもまた付きまとったらストーカー容疑確定になるし、どうしよう。唯一の親友と呼べる近藤誠司に相談した。
「ちょっと相談があるんだが、内容がちょっと信じられない内容なんだ。とりあえず、黙って聞いててくれ。僕には三日後の未来が見える予知能力がある。でも結末しか分からなくて課程が分からない。更にその予知は今まで当たったことがない。それで、ここからが本題なんだが、前に相談した篠原さんが明日の火曜日に死ぬっていう予知を見たんだ。なので、そうならないように手伝って欲しい」
「おう。お前、変なやつだとは思ってたけども本格的におかしくなったな。変なものでも食ったか?」
案の定、信じてくれない。そりゃそうか。こんな話を一発で信じてくれる人間なんて居ないよな。
「まぁ、あれだろ?篠原さんが気になってるけども、なかなかタイミングが掴めないから手伝ってくれ、っていう意味だろ?なにを回りくどい言い方してるんだよ。いいぜ。手伝ってやるよ。なにをすればいい?」
結果はなんであれ、これでもいいか。自分ではなく誠司が篠原さんになにかあったら助けてくれるだろう。
火曜日、誠司は自然な感じで篠原さんが見える位置に自分を連れていってくれた。一人になったところでアタックだ!なんて言いながら。こいつ、絶対に楽しんでるな。
幸いにしてこの日、篠原さんにはなにもなく、誠司からは「予知はハズレたな。今度宝くじの番号でも教えてくれ」と言われた。
あんなことがあったのに四条くん、また私を見てたわ。なんかもう一人一緒にいてその人も私を見ていたからストーカーとかそういうのじゃ無さそうなんだけども……。ああ、あの人がなんなのか予知夢で予知できないものかしらね。私はそんなことを考えたせいか、予知夢を見てしまった。
「月曜日に私は死ぬ」
なんで!?最近なんで自分が死ぬという夢ばかり見るの?月曜日に私が死ぬ?どうして?この予知はなかなか当たらないけども、今まで当たったことはある。これが本当なら……。
「土曜日に篠原さんが死ぬ」
なんなんだよ!なんで篠原さんが死ぬという予知ばかり見るんだ!今まで一度も当たらなかった予知の能力だけど、ここまで同じ内容が繰り返されると流石に不安だ。
結局、二人の予知はハズレとなり、篠原亜紀は生きていた。
「日曜日に篠原さんは死ぬ」
「木曜日に私は死ぬ」
これで5回目だ。僕は考える。流石にいくら何でもこれは多すぎる。こんなに連続で同じ予知をしたことはない。ここは篠原さんに直接説明した方が良いのか!?でも、信じてくれるわけないよな……。
これで5回目。私は考える。流石にいくら何でもおかしい。こんな連続で同じ夢を見た事なんてない。知子に相談してみたいけど、また狼少女なんて言われたくない……。
その後も何回も同じような事が続き、私は精神的に参ってしまっていた。もうこのまま同じ夢を見続けるなら、本当に死んだ方が楽になれる……そんな風に思ってしまう事もあった。それに、あの四条君が私にお昼を一緒に食べよう、とか一緒に帰ろう、とか直接的な行動に出るようになってきた。朝も毎日挨拶をされる。あの人に殺されるんじゃないかって最初は思っていたけども、彼は私を守ってくれているようにも思えた。
僕は彼女を守れているのだろうか。意を決して篠原さんに挨拶をして、お昼や下校に誘ったりして出来るだけ彼女のそばを離れないようにした。そのおかげなのかは分からないけども、自分の予知が現実になることはなかった。
四条君の事を知子に相談したら「そんなの、四条君は亜紀の事が好きだからに決まってるでしょ」とさも当たり前のように言われた。そうか。それなら合点が行くわ。私のような変な夢を見る女の子を好きになる人なんて居るわけがないって思ってたから、そんなこと、思ってもみなかった。
「四条、どうだ?最近いい感じじゃん。一緒にお昼食べたり。篠原さんに告白したのか?」
「いや、まだ」
「マジかよ。俺はてっきりもう告白したのかと思ってたよ」
そんな暇はない。当たるかどうか分からないけど、毎回のように彼女が死ぬという予知を見るのだ。告白なんてしてる余裕はない。
「そういえばさ。この前、篠原さんが死ぬ予知を見たとかなんとか言ってたじゃん?あれ、結局当たってないんだよな。でもそんなに気になるんだったら、ちゃんと告白して彼氏になって堂々と守ってやればいいんじゃねぇのか」
誠司はまじめな顔でそう言ってきた。確かに篠原さんの彼氏になれればストーカーに思われることもなく堂々と彼女を守れる。でも、フられたら今までのように友達的な感じで彼女を守ることが出来なくなる。
「どうして!?どうしてこんな夢を毎回見るの!?誰か……助けて……」
四条君に相談したら何か変わるかな……。いつも私を気にしていてくれるし……。知子からは彼は私のことが好きなんじゃないか、って言われたけども、一向に告白される気配はない。私から言えばいいのかな。どうせ死ぬなら彼氏の一人でも一度は作ってみたいし……。
「四条君。ちょっといい?率直に聞くけども、四条君は私のことが好きなの?」
予備校の帰り道に篠原さんにそう言われてうれしいのやらビックリしたのやら。ここははっきり答えよう。篠原さんを守る方法はダメだって言われた後にも考えられる。
「はは……、流石に分かっちゃったか。そう。僕は篠原さんが好き。付き合って貰えるのならうれしい」
やっぱりそうなんだ。知子の言うことは当たってた。私はどうしたいんだろう。OKする?それともちょっと考える?そんなことを思っていたとき、四条君の顔が青くなっていくのが見えた。
「どうしたの?具合でも悪いの?大丈夫?」
篠原さんにそう言われたけども具合なんて悪くない。いや「今」悪くなった。「四条さんが僕に躓いて階段から落ちて死ぬ」という具体的な予知を見たからだ。今まで「死ぬ」という抽象的な予知のみだったのに。死の過程まで見えたのは初めてだ。
「大丈夫。緊張してちょっとめまいがしただけだから」
「そんなに緊張したの?それで、さっきの答えなんだけど、いいよ。お付き合い、しましょう。……ねぇ、聞いてる?」
「ん、ああ。聞いてる。あまりの喜びで声が出なかった」
まずい。彼女は僕に躓いて階段から落ちて死ぬ。つまり、僕と一緒にいると死んでしまう、という事だ。彼女の彼氏になれるのは死ぬほど嬉しいけども、彼女が死んでしまうのは絶対に避けたい。
1月1日(火)、彼女は僕に躓いて階段から落ちて死んでしまう。
私がこの時、四条君とお付き合いしましょう、とOKをしたのには理由がある。この前の予知夢で私が1月1日(火)に死ぬというのを見たからだ。この夢はいつもと違った。「私がなにかに躓いて死ぬ」という少しだけ具体的な内容を見た。あと数日しかない。一生で一度は彼氏を作ってみたいじゃない。それに四条君は嫌いじゃなかったし。でもこの数日でなにが出来るかな。私が死んじゃったら四条君、悲しむだろうな……。
翌日、僕たちは冬休みに入っていたこともあって年末の街を楽しんだ。クリスマスは終わっていたから街はもうすっかりお正月気分になってる。
1月1日(火)か。彼女は僕に躓いて階段から落ちて死んでしまう。この日は会わなければいいのかな……。
1月1日(火)か。私はなにかに躓いて死んでしまうのかな。いつものように四条君が助けてくれるのかな。お正月は一緒にいたいな……。
運命の日の前日大晦日はデートをしていたけども、お互い上の空だった。
躓いて死ぬ……躓いて……その日の夜に僕はずっと考えていた。そして気が付いてしまった。「躓く」これは物理的に躓くという意味以外に、何らかの困難や障害があって躓く、という意味も持っている。最初は明日の元旦に僕と会わなければ死を回避出来ると思っていたけども、僕と会えないという困難や障害が原因で躓いて階段から落ちてしまう可能性が捨てきれない。
私は明日、なにかに躓いて死んでしまうかも知れない。四条君と会わないで部屋に閉じこもっていたら何かに躓くこともないから……。でも不安だ。何かに躓くって折角恋人同士になったのに会えないって伝えるのはお付き合いに躓く、ということにならないのかしら。それにどうやって死んでしまうのかしら。一人でいた方が不安。四条君と一緒にいたい。守ってもらいたい。
運命の2019年1月1日(火) 元旦
二人の取った選択は……。
次回、本物語の結末となります。
投稿は明日を予定しておりますので、よろしくお願いいたします




