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それで死にたい  作者: こざかな しらす
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 凪沙は一人ベッドの中、スマートフォンと睨めっこをしていた。


 陽子は犬と妹のツーショットを凪沙に見せた後、思い出したかのように声を上げた。

 連絡先教えて、と、陽子にとっては他人と何度交わしたか分からないほど有り触れた言葉は凪沙を初めての感覚にさせる。凪沙はそんな気持ちは恥であると思っていた為、慣れたような態度でそれに応じた。


 そんな凪沙の心情など、陽子が知ったところで到底理解できるものではないだろう。陽子に当然の如く備わっているコミュニケーション能力は、常に凪沙のコンプレックスを針のようにちくりちくりと刺激していく。


 そんな弱さをひた隠しにして強がった結果、凪沙のスマートフォンには一つの連絡先が追加されたのだ。

 誰かと連絡先を交換するなんて、いつぶりだろう。家族とは殆ど電話でやり取りをするため、文字に起こして連絡を取り合うことに慣れていなかった凪沙は、夕飯前に届いた陽子からのメッセージにとうとう返事ができないまま今日を終えようとしていた。


 悩みっぱなしのせいか食事はろくに喉を通らず、母親はまた心配そうに凪沙を見つめていたが、最早それどころではなかった。


『今日はお昼一緒に食べれて楽しかったよ! またあした、学校でね!』


 実際はこの文章に加えて嬉しそうに両手を上げた顔文字や、学校や弁当箱の可愛らしい絵文字で彩られていて、それすら使ったことのない凪沙は今日初めてそんな絵文字があるのだと知った。


 凪沙の指は先程から何度も何度も忙しなく動く。


『あたしも楽しかったよ。』

『一緒に食べてくれてありがとう。』

『また明日も話そうね。』


 思いつく限りの返事を入力してみても、どれも完璧な本心ではない。

 自分にだけは嘘をつけない凪沙は、入力しては消し、入力しては消しを何度も繰り返した。


 正直に言えば、楽しくなかった訳では無い。

 一人で食事を終えたあと、暇潰しにゲームをするのも楽しいしその方が気楽だったが、陽子と一緒に居たあの時間はどんな時間よりも早く感じていた。陽子と一緒に食事をすることで、自分も普通の女子高生になれていたような気がした。


 実際は凪沙自身もただの女子高生に他ならないが、この年頃の少年少女は自分を異質だと思いたくなる時があるのだ。


 けれど、凪沙はその事実をあまり受け止めきれないでいた。

 陽子に対して、嫉妬や羨望のような、それらが混ざりきったような、けれどそこまででもないような感情がさらさらと毒のように全身を駆け巡る感覚。

 素直に楽しいと思えることが出来たなら、きっと凪沙は少しだけ、陽子のような明るさに近い存在になっていたのかもしれない。


 人は簡単には変わらない。

凪沙の脳がこの問題から逃げ出したいと願えば、凪沙の指先は勝手に電源ボタンを押そうとしていた。


 せめて、そのメッセージを無視していた訳じゃないということさえ伝えられたら。


 明日、直接言えたなら。


 陽子のメッセージにある顔文字と陽子の姿を重ねながら、微量の毒に冒され唸るように眠りについた。

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