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それで死にたい  作者: こざかな しらす
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2

 凪沙にとって見慣れない顔だらけの始業式は一時間弱、体育館で行われた。


 周りを見渡せばある程度治安の良い地区だからか、どの学年も露骨に姿勢を崩していたりやたらと騒いだりする生徒は居なかった。

 精々一言二言、小声でのやり取りが僅かに耳に入るだけだ。


 そんな退屈な時間を硬いパイプ椅子で過ごさなければいけないのは凪沙にとって苦痛だったが、おもむろにスマートフォンを取り出して弄る勇気も、腕を組んで脚を投げ出しふんぞり返る勇気も無かった。

 こんな空間でなくともそんな無駄な勇気は元から無いが。


 最後は校長からの激励の言葉とお決まりの挨拶で締め括られるが、凪沙はどこの学校でも結局は同じなのだという感想しか抱かなかった。

 全校生徒に向けられたテンプレートな言葉など、多感な時期を無気力に生きる少女には何も響かない。

 響かないどころか、気にも留めない。


 凪沙は式が終わるまで、引越し前によく通っていた喫茶店のクリームソーダの味を思い出していた。

 丁度この季節は桜に因んで、いつもの鮮やかなエメラルドグリーンのソーダではなく、淡いピンク色のソーダを使った期間限定のクリームソーダに変わる。

 インドア派の凪沙にとって、それが一番春を感じさせていた。


 味に変わりはない。ただ色が違うだけの何処にでもあるクリームソーダだが、凪沙はそれが好きだった。


 けれどそれも、もう飲むことは無いのだろう。

 そう思うと少し寂しいような気がしたが、それよりも新しい土地で一から全てを築いていかなければいけないという緊張感でいっぱいだった。

 自分でここへ来ることを決めたはいいが、何せ人との関わりは苦手な方で、先程の教室での会話とも呼べないような時間に出鼻をくじかれた気すらしていたのだから。


 一言で言うなら、憂鬱、という他無かった。


 だが周りは、そんな凪沙を置いてけぼりにするように急に立ち上がった。

 式が終わる。急に現実に引き戻された凪沙も慌てて立ち上がるが、近くの数人にちらりと横目で見られた視線が恥ずかしく、少し長めの前髪を弄って誤魔化した。

 凪沙はこう誤魔化す時、同時に必ず視線を斜め下へと落とし、わざとツンとした態度を取る。これは凪沙なりの処世術のようなものだった。

 こうすればクールでアンニュイな自分を演じられるのだ。


 彼女の奥二重で幅広の目は、俯くとそれなりの色気がある。

 特に睫毛が長い訳でもなければ、彼女自身がそこに気付いている訳でも無いのだが、猫っ毛で毛先に向かって軽くなるように梳いたセミロングヘアーはその薄めの顔立ちに良く似合っていて、何となくミステリアスな雰囲気を増長させていた。


 そうして周りの数人に"気怠そうで近寄り難い女の子"というイメージを上手く植え付けたまま、これから数分後の事を予想した凪沙は、憂鬱な気分になると胃のあたりをさするという二つ目の癖を見せながら、足早に教室へと戻った。

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