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それで死にたい  作者: こざかな しらす
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※女の子同士の同性愛を中心としたお話です。

年齢制限を必要とする直接的な描写は避けておりますが、苦手な方はご注意ください。


凪沙なぎさって名前、綺麗だね。」


 全員に配られたプリントの中にあるクラス表を見ながらまるで独り言のように呟いた少女は、それから何処へ視線を移す訳でもなく三十数名分の名前を凝視し続けていた。


 そんな少女の左隣に座っているのもまた少女であり、ざわつく教室の中でぽつりと聞こえた言葉が自分の名前であったものだから、そしてそれを褒められていたのだから、それはそれは驚いていた。


 いや、少し語弊があるかもしれない。驚いていたのは驚いていたのだが、それよりも初対面の相手に挨拶をするより先に、目を合わせるより先にその言葉だけを聞いたのだから、若干の不気味さのようなものを感じていた。


 名前を褒められた少女、凪沙は十六歳で、高校二年生になるこの春に転入生としてこの学校へとやってきた。

 彼女にとって元々入学した学校はあまり居心地の良いものでは無く、親友と呼べる友達が居る訳でもなく、だからといっていじめの対象になる訳でもない、何処にでもいる、けれど少し周りから浮いてしまっている少女だった。


 数ヶ月前に父親の転勤が決まった時、迷うことなく母親と共に着いていくことを決めたのは特に元の学校生活が不満だったからでは無い。


 ただの気まぐれだった。


「……ありが、」

「私、子って付かない名前に凄く憧れてるの。子が付いてる名前、このクラスで三人しか居ないんだよ。」


 そんな明るくて活発とは言い難い凪沙の頭の中は、一瞬にして回転し始める。


 よく理解は出来ないけれど褒められたのだから、何を言うのが正解かは分からないけれど綺麗だと言われたのなら、こう言うのが最適解だと脳に弾き出され口から出た感謝の言葉は、その右隣へと届く前に掻き消された。

 言い終えることすらさせてくれない少女は頬杖を付きながら不機嫌そうな顔をしている。


 凪沙にとって子という字が付くか付かないかなんてものは人との交流の中で一切気にしたことも無かったが、右隣の彼女にとっては重要なことらしい。


 凪沙はそんな彼女になんと声を掛けるべきかとまた頭を回転させていたが、何故自分がこんなに気を遣わないといけないのだろうか、と疑問に思い、少し眉を顰めた。


 だが凪沙の気持ちなど露程も知らない別の少女達が、その不機嫌そうな彼女を囲むように集まって何やら楽しそうにはしゃいでいるので、凪沙にとってそれはもうどうでもよくなってしまった。


 この感じ、この雰囲気。

 結局は二つ県を跨いだところで、ブレザーからセーラー服に変わったところで、人との距離感がなかなか掴めないのは変わらない。

 

 凪沙は誰にも聞こえないように小さくため息をついた。尤も、誰も聞こうとすらしていないが。



「そうそう、それでさ、」

「マジ? 私も部活辞めよっかなあ」

「お母さんがさあ」



 何ということはない周りの雑談に耳を傾ければ手持ち無沙汰な時間も何とか過ぎていく。

 凪沙はそうして、始業式までの時間を潰した。

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