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賊・逢魔倶楽部(完結済み)  作者: オルタ
二.五話 ドージ ミーツ コヨーテ
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女子便の花子パイセン

 西欧歴1045年 3月22日

 逢魔梓(コヨーテあるいは木立天)



 夜。巫女の間に幽閉された私は、ズラかる為の準備を謀る。必要なのは、モンテ・クリスト伯みたく、博覧強記で隠し財産のありかを知っている爺さん……いるワケないか。


 広さは十畳ほど。出口は鍵がかけられている。窓は頑丈で開閉することもできず、家具はベッドと聖典だけが置かれた本棚、テーブル、ベッド。それだけ。看守のミチルさんはいない。幸い、個室のトイレがある。トイレットペーパーは安物の、紙ヤスリみたいにザラついたヤツ。四〇〇〇番くらい。


 私は、毒溜みの巫子の腕の擬態を解き、転生者用の刃――毒溜みの剃刀でベッドのマットレスを裂く。そして、中のボンネルスプリングを何度も曲げて折った。少し太いけど、カーブを伸ばしてまっすぐにすれば、ピッキングツールとして使えるかもしれない。まあ、有って損はないよね。


 先に、三回発作起こしたら死んじゃう爺さんはいない、と述べたけど、三回ノックすると、助けてくれるかもしれない人はいる。蛇の道は蛇ってね。持つべきは、脱獄を共謀してくれる友人だよな。


 個室トイレの扉をノックする。


「はーなこさーん。

 はーなこさーん。

(大きく息を吸い込む)

 花子パイセン助けてくださいよマジ助けて!

 もうパイセンだけが頼りなんです夜分遅くに失礼しますけどマジお願いしますよ私の人生と貞操がかかってるんです本当にマジでヤバいへエエエルンプ!

 ……プリーズ、ヘルプミー」


 待つこと数秒。


 音姫の音が鳴ると共に、静かに扉が開かれた。


 さっきまで無人だった洋式便器に、花子さんが足を組んで座っていた。ひっつめ髪に、糸目、たっぷりした鼻に、赤茶けた肌。どんよりとした視線を私に浴びせかけながら、栄養ドリンクのようなものをストローで啜っている。なんでそんなにくたびれてんの!?


「あら、だれかと思ったら逢魔梓じゃない……生きてたのね……良かった。

 目出度いけれど、ああ、しんどい……」


「パイセン、顔色悪いけどどうしたんスか?」


 花子さんは栄養ドリンクを一口含んで、溜め息をつく。


「ちょっと聞いてよ、逢魔梓。

 最近の世相は、一体どうなっているの? みんな病んでるわ。

 話し相手が欲しくて私を呼ぶ子もいるし、独りトイレで昼食を取る子もいれば、自殺までしようとする子まで。もう見ちゃいられないからそういう子らの話聞くんだけれどね。昔よりも、うんと悩みを抱えた子が増えてしまって。彼ら、構ってほしくて私が呼ばれるのよ。

 私、これじゃ神父様よ」


「迷える子羊を、もう一匹導いてもらっても良いですかね?」


 ストローが、瓶底の微かな水面を啜る。


「逢魔梓ときたら心臓がごわごわ毛むくじゃらなんだから、迷路の中でだって自給自足できるでしょ」


「いやいや、ディスカバリーチャンネルのサバイバル番組じゃないんですから。

 屠殺寸前ですよ。かくかくしかじかで――」


「ははあ。貴女もけったいな男に好かれるわねえ。

 分かったわ。ここのトイレから、二階の居住区トイレまで、貴女を流してあげる。

 その代わり――」


「ええ、皆まで言わずとも」


 私は頷き、憑代の間で髪切った親指を彼女の口によせる。花子パイセンの薄い唇が指に触れる。頼みの綱の守護霊が顔を上げると、肌に血がみなぎっていた。


「ありがとう。とても楽になった。では、目を閉じて」


 言われた通りに目を閉じる。花子パイセンが私の手を握る。


 音姫が鳴った。



 あとがき

 大昔にポンキッキーズなる子供向け番組がありまして。番組内のプログラムの一つに短編アニメの「トイレの花子さん」があったんですよ。

 その中でのトイレの花子さんは、怪奇現象に追われた子供を守ってくれる守護者みたいな存在でした。怪談というより、守護霊的なイメージがにあったりします。

 最近放映されている(2018年7月現在)ゲゲゲの鬼太郎にも美少女キャラとして登場しましたね。世の中の根っこはあんまり変わらないが、ガワは変わる。

 最近はなんでもかんでも美少女になってしまうので、拙作ではトイレの花子さんをスティーブン・セガールをイメージにした容姿にしました。沈黙の女子便。ネットにぶら下がってる石鹸をブラックジャックみたいにぶん回してテロリストを滅多打ち。女子トイレでは負けたことがない。

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