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賊・逢魔倶楽部(完結済み)  作者: オルタ
二.五話 ドージ ミーツ コヨーテ
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カルテック・ミューリー・ツアー

 西欧歴1045年 3月21日

 逢魔梓(コヨーテあるいは木立天)



「姉妹ミチル。入ってきなさい」


 扉を開く。髪をぴっちりと束ね、すっぴんでも映えるこざっぱりした顔立ち、アッパッパを着ている。年頃は二十代ほど。清楚な出で立ちに、どんよりした眼の隈。


「ただいま参りました。宗主」


 ミチルさん、油圧フレーム仕込みのごとく、スムーズなお辞儀。きっちり三〇度。


「巫女様に、この施設を案内して差し上げなさい」


「はい。それでは巫女様。このミチルが、ご案内致します」


 『待て、しかして希望せよ』ね。逃げ出すにも、この施設の配置ぐらいは頭に叩き込んでおきたい。そもそもここがどこに建っているのかも分からない。もしここから抜け出せたとしても、周りが山奥だったら遭難することだってある。なんでいっつもこう八方ふさがりから始まるんだ。


「(溜め息)、姉妹ミチル、どうぞよしなに」


 イヤミも込めて彼らの流儀に併せると、ミチルさんは恭しく微笑んだ。調子が狂う。ようやく解放されたのも早々、彼女に招かれ、上早御うわさごの会の箱庭を案内された。


 施設内は、どこもかしこも色という色を感じない。この、照明が跳ね返ってつんざく白い空間は、まるで私を成している色という色を、ブリーチするようだった。気が滅入る。


 施設は三階建て。一階には先ほど私がいた巫女の間、集会ホール、トイレ、給湯室、厨房と大食堂、新規入会者に教えを説く啓蒙室、受胎室、憑代の間などがあり、二階はほぼ信者の居住区。三階はオカモト宗主の個室となっている。


 憑代の間、とやらが気になったのだけど、ミチルさんが「今の貴女では邪気に当てられそうですから、まだ入るべきではないかと」と断られた。


 ちなみに、肝心かなめの喫煙室は無かった。


 目眩がしたのは、受胎室なる部屋。防音加工された壁板で四方を覆い、部屋のど真ん中に、拘束用のベルトが後付けされた分娩台が置かれている。


「なんで分娩台が?」


「いいえ、受胎台です。子を持つこと望む男女が、儀式を行う為のものです。

 性の交わりというものは、ともすれば堕落を誘う快楽を伴うものですから。

 これは戒めの設備なのです」


「へ~、そなの。こういうのが好きな筋金入りの変態が取り付けたのかと」


 姉妹ミチルが、にわかに顔を真っ赤にさせて怒鳴る。


「なんてことを仰るのですか! これは、宗主が直々に、我々の為にお供えくださったものなのですよ!?」


「どうどう、ミチルさん、どうどう」


 肩で息をするミチルさんを宥めすかす。


「お言葉ですが巫女様、下界に毒されすぎではないのですか?」


 私もいよいよ苛立ってきて、言い返す。


「巫女巫女って、こっちだって好きでここまで攫われてきたワケじゃない」


「まあ! 攫われただなんて!

 貴女様は宗主様に、そして上早御うわさご様に導かれてきたのです」



 上早御うわさご



 この、素揚げすれば美味しそうな淡水魚みたいな名前が、彼女らを信仰している神様。

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