日常系転生者
西欧歴1046年 4月8日
東雲桜真
首都カグツチは最西の郊外、珠川村。シャッターを閉じられた重々しい空き店舗の連なりは無縁仏のようだ。
夜の雨に濡れたアスファルトには、時折点滅する街灯と信号機の光がブチまけられ、ぬるぬると輝いている。しかし、昼間とて、大した人気はないだろう。みな、他の地方へと戻るか、あるいは移住しまっただろうから。蛹の殻が連なるように、がらんどうの街だ。更に西に行けば、珠山の麓にたどり着き、鬱蒼とした木々が多い茂る、人の手の付かない場所へと様変わりする。
其処は、人と魔の境目。
珠山の麓から東へと、ヤツらは迷い子のように、珠川村へとやってくる。
得物の刀を振るいて『異形』の脚を五~六本切り裂く。
刃留在の刀――転生者が、自身の愛素によって生み出すことができる、全身が乳白色、淡い七色の光沢を放つこの武器は、異形の固い甲殻も骨格も、一切まとめてズンバラリ。大百足の腹もブツ切りにしてやろう。
目の前の異形――大百足は生意気にも、龍の骨を頭上に被っていた。さながら、地を這う爬虫――ワームのようだ。だが鎌口もたげて龍被り、ざわざわ千足|(せんそく)波打たせようが、虫は虫。違いは踏み潰せないだけ。
俺は、大百足の周りを回って、異形の横側に入り込みながら、刃留在の刀を脚に振るう。
まとめて足切り、落第。いかに脚があろうと、千斬れば動きも止められる。通行人がスマホで撮影。SNSのネタ作りか。転生者もラクじゃない。ああいう連中だって、異形の魔手から護らにゃならない。
「うわあ、『異形』だ!」
叫び声が聞こえる。大百足が声の方へ振り向く隙をつき、俺もその声の発生源を見渡す。
通行人がいた。コンビニ帰りだろうか。足元には、少年漫画雑誌が落ちている。
大百足は何を思ったのか、討つべき目標を俺からその通行人に切り替えた。長い胴を波打たせ、一気に通行人に詰め寄る。俺は通行人まで猛ダッシュ、魯鈍な撮影者を押し飛ばす。大百足は前脚から毒液を噴射させた。普通の百足とは、明らかに異なるメカニズム。これが『異形』の侮れないところ。殺人的な鉄砲水が、俺の上体にかかる。
「ぐッ!?」
毒汁浴びた皮膚が湯気を揚げて焼け、溶けた目で視界が暗転する。
しかし心配無用。転生者の身体は反応し、急激に代謝向上。体温が急上昇し、身体から湯気を上げながら消毒していく。通行人を守る為とはいえ、コイツの攻撃をまともに食らってしまった。転生者の体だ、当然皮、目玉も再生はする。だが、目が見えない状態のままでは、ちとまずい。
癪だがやむなし。
切り札『チート』、見せてやる。
あとがき
そういえばカグツチって街、格ゲーの『ブレイブルー』にも出てたっけ。




