巫女デビュー
西欧歴1045年 3月21日
逢魔梓(コヨーテあるいは木立天)
私を攫ったワゴンのエンジンが切られた時、私は拘束されたまま、外に出される。
目の前には、純白の施設があった。愛素で汚染された曇天を掃うかのように鎮座した、歪なキャンパスのような外壁。支柱はイーゼルで出来ているのかもしれない。「こちらです」という声と共に、両腕をギッチリと掴まれたまま、入口まで連れて行かれる。
入口の前に、一人の男が待っていた。禿頭に福耳、二重アゴにぽっこりと出た腹。白いローブに身を包んでいる。この闇堕ちした恵比寿様みたいな男、見覚えがある。
新興宗教『上早御の会』のオカモト宗主だ。本当によくある怪しげな宗教だよ。神のご加護で、たんまりお布施を払った信者の病を治しただとか、信用ならない奇跡を演じてみせたりとか。
「ようこそ、おいでくださいました」
「随分と手荒い歓迎を受けたのですが? オカモト宗主」
こんなありふれた、チンケな新興宗教団体が、私になんの用なんだか。
「我々は暴力は好みません。が、貴方に憑りついていた悪魔を追い払う為に、必要な洗礼だったのです。
やはり逢魔一族の末裔は、感受性が強い」
なんでこいつ、私のことを知っている? 私はポーカーフェイスは取り繕っていたけど、心の臓は正直で、ズキリと高鳴る。
問わず語りにオカモトは応える。
「貴方のお父上とは面識がありましてね。あの事故は本当に残念でした。
しかし、貴方が生きているとは、これぞ上早御様の奇跡。
いや、お美しくなられた」
オカモトは微笑む。その目は鈍と脂ぎっていた。ロリコンめ。
「どうして私の居場所が分かったんです?」
「私は、神から告知を頂くことができるのです。
ビフォア・センチュリーにおいて、私と貴方は夫婦の間柄にありました。
赤い糸は、世界再誕を経ても、不滅なのですよ」
神からの告知、ね――厄介なヤツに捕まってしまった。
「私にどうしろと?」
「貴方は、この世界をどう思います?」
「渡る世間はゼニ次第。どこもかしこも超資本主義」
オカモトは、ずっしり頷く。
「左様、この世界は、我欲、物欲、自己陶酔の欲に乱れ、荒いでいます。
貴女は巫女として、我々と人類を導く手助けをしていただくのです。
それが、貴女の運命です」
巫女だって? ハッ、そりゃいい。コイツ等を利用して、ナイアル・ルシフェラートの行方を負わせるのも一興かもしれない。
オカモトは続ける。
「そして、ゆくゆくは私の御子を生んでいただきたい」
人生はじめてのプロポーズが、こんな最低なものになるなんて、夢にも思わなかった。クソったれめ。
一刻も早く、ここから抜け出さないと。




