窮鼠獅子を跳び膝蹴り
西欧歴1046年 4月28日(日)
紫隠童子
エレベーターのワイヤーを伝い、ようやくスカイラウンジに至る。
そこには、まず獅子の出来損ないが居た。恐らく転生者のチートだろう。
そして、そこらを転がるデスブラザーズ。詰めが甘かった、俺としたことが。こんな奴らまで出張ってくるとは。
嬢ちゃんは右腕と左脚を怪我をしている。背中から汗の湯気が沸き上がる。
そして大池純一郎は、刃留在の楯を持っている。珍しい型の刃留在。徹底的に守りに徹した戦い。現にヤツは、澄ました顔して獅子の加勢はしてない。
よくもやってくれたな。今に、その楯と上っ面ごと、頭蓋を叩き割ってやる。
先ずはあのカラクリじみた獅子からだ。
いったん物陰に隠れ、叫ぶ。先ずはコチラに注意を惹かせる。
「こっちだ!」
「なんだ!?」
転生者とチートはこちらを振り向く。
間髪入れず、ハバキの彗星のような弾丸。獅子の短い悲鳴。
その隙を狙って、嬢ちゃんと合流。途中、床に落ちた嬢ちゃんの血を手で拭う。逢魔の血は、魔を祓いもすれば、転じて魔の糧にもなる。磁石がN極とS極を帯びるように。手のひらヌメる彼女の血は、砂へ零れた水滴のように、俺の体内に吸い込まれていく。
心臓の鼓動が早まる。視界が赤く滲む。重力の法を、力づくで引き千切る。
獅子に向かってまっしぐらに駆ける。
ねずみの毛皮が脱げる。構わない。
ライオンの眼前目掛けて跳ぶ。
いい加減、ネコ科にはウンザリだ!
出来の悪い獅子の額に、跳び膝蹴りを叩きこむ。かつて、二つに重ねた侍の鎧を砕いた技。
このちっぽけな身ゆえ昔のようにはいかないが、それでも獅子を怯ませるくらい訳ない。
「助カりました!」
嬢ちゃん――コヨーテの声に、生気が漲ってくる。
「油断するな! これからだぞ」




