鬼の矛、鬼の盾
西欧歴10×6年 4月29日(月)
紫隠童子
「次の転生者狩りの標敵は決まった。今、ヒトカタを作っているところだ」
――おや、では、お邪魔でしたかな?
「いや、構わない」
愛素汚染による生命の大量死は、いよいよあの世にもしわ寄せが来ている。
死んだ生き物が多すぎて、新たな生の輪廻転生が追い付かなくなってきている。ただでさえ自死する者も後を絶たない国なのだ。
このままでは美国中の生き物という生き物が全滅してしまい、三途の川は満杯になってしまうだろう。
そこで閻魔大王は、とうとう転生者を潰す為の死神を、あるいは、愛素を体内に吸い取り、中和させることのできる『毒溜みの巫子』の守護者を、現世に送り出さざるを得なくなってしまった。何かにつけて、俺達には転生というものがついて回るらしい。
俺も、その一鬼だ。
閻魔大王と交信している通り、俺は一時期地獄に叩き落とされた身だ。しかし死して墜ちたというワケでもない。込み入った事情は追々に語ることにするとして。
ともかく、俺は逢魔梓を守護し、共に転生者を狩る鬼である。こと俺に関しては縛めとして、体は小さくされ、出せる力も制限されている。無用に力がありすぎるのだ。地獄で苛めを受けてた際、嬲られるのもシャクで、他の獄卒達と、大立ち回りを延々と続けていた。せいで、評判が悪い。こんなことならば、大人しくしておくのだった。
――貴方がたには、重い任を与えてしまいましたね。
「いずれ、誰かがやることだ」
もっとも、この|手合い|の椅子取りゲームは、知らぬ間にババを引かされている、なんてことが往々にあるが。嬢ちゃんにしたって、そうなのかもしれない。
俺はヒトカタを作りながら、閻魔大王に返信する。
転生者狩りを、あの世から――それも人ならざるモノを遣わせる。それは地獄の獄卒達の間でも、評価は分かれている。
生には常に理不尽と死が付きまとう。しかしそれこそが生というものだ。
その理を、地獄の住人達が促す、あるいは捻じ曲げて良いものなのか。
俺からすれば斯様な理屈なぞどうでも良いが。
逢魔梓――嬢ちゃんがきっちりと生きているなら、他のことなど瑣末なこと。
彼女は――
――紫隠童子、分かっているとは思いますが……。
「分かっている。はき違えたりはしない」
それでも俺は、過去の微か残滓だろうと、もう亡くしたくは無い。
この想いを、閻魔様に利用された形になったが、それはそれで構わない。
ヒトカタは、完成まであと二割といったところで、切り上げることにした。




