The longest winter
逢魔梓(木立天、あるいはコヨーテ)
夢は、心の断舎利と人の言う。
ところが悪夢は捨てられない。目を逸らすこともできない。
過ちを繰り返す現のままに。フーガ|のように悲劇と傷痕は反復して。されど遁走は逃がさず。
それは、生に打ち込められた楔。
貫かれたが最期。もう、サラサラ真っ新では、いられない。
遡るは、五年前の冬の夢。
場所は、神詰パワープラントの近く。そこに私達は住んでいた。
チビだった私と、双子の妹と父さんと母さんは家に居た。昼時。窓からは、冬の貫けるように澄んだ青空が見えた。
この夢の顛末を知っている。誤差はあれど、ピリオドがあることに変わりはない。
だから私は、これから起きることを、みんなに伝えないといけない。
神詰パワープラントが吹き飛ぶするから、と。
ここから早く、なんとか逃げなきゃ、と。
家の中を走り回る。
でも、廊下も部屋も、建物の奥行が伸びに伸びて、遮るように通せんぼした家具に躓いて、中々皆の元までたどり着けない。背中に脂汗が滲んでいく。胸の奥が痛いほどに高鳴る。暖房の温さが鬱陶しい。
遮二無二に、みんなの名前を叫ぶ。それでも、誰にも聞こえない。
天井が、屋根が剥される。宝物でギュウギュウ詰めの箱の蓋を、こじ開けられるように。
天から触手が雪崩れこんでくる。大樹の幹のように太く、およそ動物とも甲虫のものとも思えぬ柔い輪郭。怖気を撫でまわすように蠕動し、汚らしい粘液を滴らせながら。悪魔の尾でもない、さりとて神とも見えざる魔手。
そして、その束が撓みに撓み、そして私に放たれる。
いっそ、私だけを貫いてしまえば良い。
そうすれば、妹も、母さんも父さんも助かるかもしれない。
「梓!」
一体、今まで何処で何をしていたのか。探しても叫んでも現れなかった母さんが、私に覆いかぶさる。
「ダメ! 母さん! ダメ!」
喚く。目を閉じる。
目を開ける。
もとより手遅れだった。
そもそも全てが遅かった。
さっきまで感じていた母さんの重みは、私の周りに、四方八方に飛び散っていた。
母さんの濁った目。
鼻翼と口角から湧き出る母さんの血。
頭から零れ落ちる、母さんの脳みそ。
粉々に吹き飛んだ。母さんの節々。
ぐっしょりと浴びた、母さんの腸。
さっきまで感じていた、父さんと妹の間隔は、もう永遠のものになっていた。
ピクピクと痙攣している妹の胸――心臓の震源からは、冬虫夏草のように小さな触手が生え始めて、蠢いている。
父さんは触手に串刺しにされ、髙く高く掲げられている様は、百舌の早贄にも似て。
天に手を伸ばす。左腕は、あの時の触手が千切っていってしまった。
空は貫けるように青かった。
空は貫けるように青かった。
空は貫けるように青かった。
永遠の傍観者である青を遮る、この魔界を解き放ったヤツの顔。穴ぼこの暗い瞳。モンタージュのように、その眼差しとは裏腹の笑み。一体どんな缶切りでしごいて、あの終末を引き摺りだしたのか。
途端、またあの肉の幹が、私達を押しつぶした。
あとがき
サブタイトルは「Paradise Lost」の「The longest winter」より




