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賊・逢魔倶楽部(完結済み)  作者: オルタ
二話「明るい復讐計画」
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The longest winter

 逢魔梓(木立天、あるいはコヨーテ)



 夢は、心の断舎利と人の言う。

 ところが悪夢は捨てられない。目を逸らすこともできない。

 過ちを繰り返す現のままに。フーガ|のように悲劇と傷痕は反復して。されど遁走は逃がさず。

 それは、生に打ち込められた楔。

 貫かれたが最期。もう、サラサラ真っ新では、いられない。



 遡るは、五年前の冬の夢。


 場所は、神詰パワープラントの近く。そこに私達は住んでいた。


 チビだった私と、双子の妹と父さんと母さんは家に居た。昼時。窓からは、冬の貫けるように澄んだ青空が見えた。


 この夢の顛末を知っている。誤差はあれど、ピリオドがあることに変わりはない。


 だから私は、これから起きることを、みんなに伝えないといけない。


 神詰パワープラントが吹き飛ぶするから、と。


 ここから早く、なんとか逃げなきゃ、と。


 家の中を走り回る。


 でも、廊下も部屋も、建物の奥行が伸びに伸びて、遮るように通せんぼした家具に躓いて、中々皆の元までたどり着けない。背中に脂汗が滲んでいく。胸の奥が痛いほどに高鳴る。暖房のぬるさが鬱陶しい。


 遮二無二に、みんなの名前を叫ぶ。それでも、誰にも聞こえない。



 天井が、屋根が剥される。宝物でギュウギュウ詰めの箱の蓋を、こじ開けられるように。


 天から触手が雪崩れこんでくる。大樹の幹のように太く、およそ動物とも甲虫のものとも思えぬやわい輪郭。怖気を撫でまわすように蠕動し、汚らしい粘液を滴らせながら。悪魔の尾でもない、さりとて神とも見えざる魔手。


 そして、その束がたわみに撓み、そして私に放たれる。


 いっそ、私だけを貫いてしまえば良い。


 そうすれば、妹も、母さんも父さんも助かるかもしれない。



「梓!」



 一体、今まで何処で何をしていたのか。探しても叫んでも現れなかった母さんが、私に覆いかぶさる。



「ダメ! 母さん! ダメ!」



 喚く。目を閉じる。


 目を開ける。


 もとより手遅れだった。


 そもそも全てが遅かった。


 さっきまで感じていた母さんの重みは、私の周りに、四方八方に飛び散っていた。


 母さんの濁った目。

 鼻翼と口角から湧き出る母さんの血。

 頭から零れ落ちる、母さんの脳みそ。

 粉々に吹き飛んだ。母さんの節々。

 ぐっしょりと浴びた、母さんの腸。


 さっきまで感じていた、父さんと妹の間隔は、もう永遠のものになっていた。


 ピクピクと痙攣している妹の胸――心臓の震源からは、冬虫夏草のように小さな触手が生え始めて、蠢いている。


 父さんは触手に串刺しにされ、髙く高く掲げられている様は、百舌の早贄にも似て。


 天に手を伸ばす。左腕は、あの時の触手が千切っていってしまった。


 空は貫けるように青かった。

 空は貫けるように青かった。

 空は貫けるように青かった。


 永遠の傍観者である青を遮る、この魔界を解き放ったヤツの顔。穴ぼこの暗い瞳。モンタージュのように、その眼差しとは裏腹の笑み。一体どんな缶切りでしごいて、あの終末を引き摺りだしたのか。


 途端、またあの肉の幹が、私達を押しつぶした。



あとがき

 サブタイトルは「Paradise Lost」の「The longest winter」より

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