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賊・逢魔倶楽部(完結済み)  作者: オルタ
一話 オウマクラブ
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真名

 西欧歴1046年 4月16日

 肇ことのは


「え、ちょ、ごめんなさい! そんな長居しちゃって、いま支度します!」


 布団から跳ね起きて、寝間着を脱ぐ。


「落ち着け落ち着け。まだ夕方でしょ、ストリップにゃまだ早い」


 寝間着のボタンに手をかけようとしたところで木立さんに呼び止められて、男の童子様がまだ部屋の中に居ることに気付く。彼は察してくれて背を向けてくれているけど、私は顔が熱くなって、掛布団で体を隠した。


「そういえば、私、本当に帰っても良いんですか?」


 私は、木立さんの秘密を知ってしまった。


 この人が、カグツチを騒がせている転生者狩り『コヨーテ』であること。そして、そのコヨーテには相棒も居ること。そして、私もコヨーテに協力してしまったこと。もし、この事が誰かにバレてしまったら――。


 いずれ、もう私は『昨日までの私』じゃない。『昨日までの私』を演じることはできても、もう戻ることはできない。そのことを考えてしまうと、さっきまでの強気はどこへやらで、だんだん恐くなってきてしまった。


 木立さんは腕組みをして、私の問いに答えた。


「正直、私としても、ことのんとはこういう形で関わるとは思ってなかった。

 貴女は、私達の本性を知ってしまった。

 私達にとって、リスクが生まれたことは否定できない」


 彼女の言葉に、童子様が続ける。


「嬢ちゃん、だから他人と関わるなと言ったんだ。

 オマケに介抱まで買って出る。危なっかしいったらない」


「この通り、童子様にも怒られちゃうし。

 でも童子様、どうせコトヅテの彼女が東雲に狙われていた時点で、少なくとも私の正体は声でバレてましたよ」


 木立先輩は懲りない様子で肩をすくめる。そんな彼女の様子に、童子様は溜め息をつきながら頭を掻き、私の方に振り向いて続ける。


「まあ確かに、御前様がいなければ、今回の転生者狩りは多分しくじっていたし、俺達はやられていた。御前様を巻き込んでしまったが、俺達の恩人でもある。

 礼を言う。助かった」


 童子様は、実直に頭を下げた。身体の小ささを感じさせない威厳。却ってこっちが狼狽してしまう。


「い、いえいえ! そんな! 頭を上げて下さいよ!」


「私からも、ありがとうね。

 で、巻き込まれついでに、『お願い』があるんだけど」


 なんとなく予想はついていた。


「それは、絶対に叶えなくちゃならない『お願い』なんですよね?」


 木立先輩と童子様は頷いた。もし私が彼女達に不利益なことをしたら、きっと許しはしないだろう。そして、仕返しをすることに、彼女達はさして躊躇もしない。


「悪いね。でも、私達がしていることは秘密にして欲しい」


 私は、二人の目を見つめた。そして、彼らの心音を聞いた。


 でも、彼女達を信じて良いのか。まだ分からないままだった。


「貴方達のしていることが正しいかどうかは、私には分かりません。

 でも、貴方達の正体については、絶対に話しません」


 木立さんは笑った。いつもの繕った風でなく、本当に安心したように。


「助かるよ。ホント。

 私、本当の名前は逢魔梓なんだ。

 これ真名まなだからね。つまり私の本質。

ことのんのこと、信じてるから」


童子様は木立――逢魔梓先輩を憮然とした眼差しを送った。


「またそうやってペラペラと話す……」


「ホラホラ、童子様も自己紹介自己紹介」


 童子様は逢魔先輩を一瞥、私を見やり、それをもう一度繰り返して、観念した。


紫隠童子(しおんどうじ)という。こう見えても鬼だ」


 確かに、鬼といえば、もっと角が生えた大男、という印象なのだけど――。


「この方もワケあってね。今は1/12スケールなんだよ。差し替えなしで完全変形も再現」


「俺はプラモデルじゃない」


 仲良いなあ、この二人。


「まあ、改めて、この件はよろしく」


 逢魔先輩は、私に右手を差し出す。私は少し戸惑って、その手を握った。



 その手は呼び水。



 私の――私達の――いずれカグツチを――倦んだ世界を浚う土砂流を誘うほどの。



                                了

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