スーパーディレイスヌース
西欧歴1046年 4月16日
肇ことのは
私の問いに木立先輩は苦笑した。
そのホロ苦い笑みを境に、凍えた血の雫にも似た瞳が白ばむ。相変わらず薄ら笑いを浮かべたままだけど、今までの柔らかな空気が、息苦しいものになる。
「なんとなく予想はつくでしょ?
私とは形が違えど、貴女だって転生者に、全てを壊されかけたし」
彼女は、きっと転生者から何かを奪われて、修羅と成った人間。
リンダが言っていたように、転生者の不祥事は一定数起きている。
転生者活動拡大特別法。転生者となったものに、更なるスムーズな社会貢献を期待する為に、転生者に特殊な権限を与えたもの。
でも、この特別法は、簡単に言ってしまえば転生者の犯罪行為が『合法』になってしまう面もある。特撮ヒーローが、街のど真ん中で戦って、ビルや公共物を壊しても咎められないのと同じで。
だから、転生者が悪いことをする原因はこの転生者特別法にあって、この内容を変えてしまえば良い。メディアにそれが公表されることは稀なこと。
さりとて、木立先輩のやっていることは、良いことだとは思えない。
……でも。
もし、転生者活動拡大特別法が良い方向へ変えられていたとして、私は東雲を許すのかな。
きっと――いや、絶対に許さない。もし私が木立先輩のように戦う能力があって、協力者がいるなら、なおのこと。
木立先輩達と一緒にアイツを倒せたことと、彼女達が助けに来てくれて、催眠療法があったから、まだこうして平静でいられる。私は本当に、本当に運が良かったんだ。ある程度の溜飲が下げられるぐらいに。
引き戸がノックされる。足音が小さい。きっとあの子鬼。
「どうぞ、童子様」
引き戸が開けられると、木立先輩から『童子様』と呼ばれている小鬼が入ってきた。大昔の衣服である薄紫の狩衣を、浅黒く隆々とした肉体に纏った鬼。一寸法師(実際の背丈は一五センチくらいで、小さいアクションフィギュアみたい)を思わせる小さな姿とは裏腹に、チタンのように重々しい存在感がある。漂う気配に無視しようものなら躓いてしまいそうな、そんな迫力があった。
「加減はどうだ?」
「あ、は、はい。お陰様で」
「童子様、ことのん恐がってるじゃないですか。脅しちゃダメですよ」
「いや、別に脅しているワケでは」
からかう木立先輩に、ほんの少しだけ困惑する童子様。
「大事が無いなら、そろそろ送ろう。親御さんも心配する」
「あ、そういえば、今何時ですか?」
「午後六時だよ」
木立さんが気楽に応える。
「よかった~。まだそんな時間で。お父さんとお母さんになんて言い訳しようかと」
「大丈夫大丈夫、ドロみたいに眠ってたからさ、私の方からからことのんのパパママと学校には連絡しといたし。風邪気味の私んちに遊んで泊まったら、風邪うつしちゃった、ってね」
「よかった~。連絡ありがとうございます木立先輩。
……え?」
にじゅうロク時間? あれ、ええっと、一日って確か二四時間ですよネ? 二四時間+二時間は、コレええっと……。
「いいのいいの。ああもグッスリ眠ってたら、起こすのも可哀想だったし」
「ええええええ!?」




