サブタイサブミナル
西欧歴1046年 4月16日
肇ことのは
「ことのんをさらった理由だけどね。
まあ、簡単な理由から説明していこうか」
彼女は湯呑みに注がれたコーヒーを啜った。いや、それ私に淹れてくれたものじゃ……ブラック飲めないから良いけど……。
「まず、今ここに居る私達のセーフハウスまでの道のりを知られたくなかった。それに、パトロンに色々とアシストしてもらっててね。私達がどこで繋がっているかも知られるワケにはいかないし」
確かに簡単で分かりやすい。
「貴女、東雲桜真からあんな目に遭ってたから、トラウマになる可能性があった。覚えてないだろうけど、ちょっと催眠をかけて簡単な療養をした。でも後で必ず、病院にも行ってね」
東雲達に襲われた時を思い返してみる。あの悍ましい体験は忘れられそうにない。でも、その記憶を奥へ奥へ追いやらなくても、確かに辛くはなかった。有り難いけど、これはこれでちょっと恐い。
「しかも、転生者貴女の体には愛素が蓄積され過ぎている。そいつを除去しないといけなかった」
「でも、愛素って、少量なら人間の体に良いんじゃ?」
そう言いかえすと、木立先輩の目つきは鋭くなった。でもそれは、涙に濡れたような眼光。言葉を誤ったことへの気まずさよりむしろ、彼女の本意を分かってあげられなかったことを悔やんでしまうような一瞥。
そして彼女が垣間見せた本性は、一瞬にして道化に上塗りされる。
「何処の誰に吹き込まれたか知らないけど、愛素は実害そのものだよ。
それに、今は気分は悪くないでしょ?」
木立先輩の言う通り、気分は冴えてる。体も軽く感じる。この部屋の環境が良いから、という理由だけじゃないみたい。木立先輩の言っていることは、ウソじゃない。
転生者は、その強靭な肉体の維持を愛素に依存している、ということは科学の授業で習った。
そういえば、どうして木立先輩――コヨーテは転生者を狩り続けているのだろう。
私は尋ねてみることにした。東雲と戦ってから、自分でもビックリするほど積極的になっている。
「あの」
「ん?」
「どうして木立先輩は、転生者を狩っているんですか?」
あとがき
素人が安易に催眠療法とかしちゃいけません。かえってサブミナルを歪ませる可能性があり、大変危険です。




