俺達には睡眠時間が足りない
西欧歴1046年 4月15日
肇ことのは
コヨーテ――木立先輩が土くれと化した悍ましい怪神の中をまさぐり、一枚の円状の板を探り当てた。コインに似ている。輪切りにされた骨のそれのように、外周は乳白色だけれど、中心に向かうにつれてどす黒くなっている。転生者は自分の魂を固形化させた『忌貨』を、それを転生体に埋め込むと習った。
木立先輩は、その小さな円盤についた土くれを払い、パンツのポケットへとしまった。
紫色の小人が、足を引き摺りながらも、それでも精気を漲らせた面持ちで歩いてきた。この二人、まるで自身の死とは無縁のようにも思えててくる。木立先輩が彼に駆け寄った。
「大丈夫でスか!?」
「ああ……なんとかな……」
この小人は、一体何者なんだろう。確かに東雲に踏み潰された音は聞こえた。でもまだ生きている。憔悴した様子は、見せようともしない。頑なな人。一方で、緊張が切れたのか(珍しく)慌てた様子の木立先輩は、大事そうに彼を掬い上げた。
それが勝利だと確信した途端、腰の力が抜けて、尻もちをついて、いっそ大の字に寝転んだ。
勝ったんだ。私達。
身心が緩み切ったかと思うと、堰が切れて、涙があふれて、あふれて。
私は声を出して泣いた。
泣きながら、笑った。
熱い何かが体の奥から湧き上がって、体中を巡る。
この感覚、なんて言い表せばいいのかな?
ようやく、自分というものを実感できたような、そんな気がする。
木立さんが私の上体を起こして、強く抱きしめた。
「助かっタよ。ことノん。貴女が居なかったラ危なカった」
「私も貴女達がいなかったら、きっと私になれなかった。ありがとう」
コヨーテが、人に話しかけられた犬のように首を傾げる。
「ン……? 私になれなカった……?
……よく分カらないけど、ま、イイか」
木立先輩が解けると、そっと私の口元に布を覆う。やけに優しく、手馴れた動き。さも当然と言わんばかりの動作に、私はアッサリと飲みこまれてしまう。
「え?」
布越しに空気を吸い込んだ途端に、意識が霞がかる。
木立先輩は、犬の鼻と顎を模したガスマスクを剥いで、フードを脱ぐ。
そして、彼女は口角から血を滴らせながらも、白い歯を剥いて、悪辣に笑ってみせた。
「悪いね。このまま『さよならまた明日~』っていうワケにはいかない」
そんな。
ウソ?
ソレは、どういうこと……。
私の意識はそのまま途切れた。




