セルフビルドアップ
西欧歴1046年 4月15日
肇 ことのは
東雲桜真が、おぞましいカタチへと変わっていく。
それとも、この形質こそが彼の本質?
それは、大きく膨れ上がった人型のシルエットに、カメレオンを模したような姿。
ナメクジのようにヌメった表皮。
一度掴んだら二度と離さなそうな、肉の鋏みたいな手。
乳房のように大きく膨れ上がった眼球。乳頭のような目。嫌らしく伸びては縮み、大きな口から出入りする、黒ずんだ舌。
怪物。
あるいは、怪神。
息が上がる。いやまして吐き気が増す。セメントと除光液と、安っぽい香水が混ざったような、目が回りそうな甘くさい臭いが立ち込める。頭がボンヤリして、何も考えたくなくなる。それは絶望感のせいでもあるんだろうか……。
転生者の肉体は『無意識異神』の血肉で作られるそうだけど。この、ホーエツにしてはあまりにも倦怠な無力感は、神さまの一部が私達を睥睨しているから?
異形が姿を眩ます。コヨーテは疾風の影の如くコートをはためかせ、妙な銃で応戦するけれど、先ほどとは打って変わって、東雲はビクともしない。
怪神と化した東雲の一撃で、コヨーテの華奢が吹き飛ぶ。固いものが湿ったもの越しに折れる音。慣性のまま、地面を水切りのように三度跳ねて、工場の壁に激突する。
東雲はコヨーテの真正面に居たのに、彼女は反応できなかった。
「がっはっ!」
コヨーテが、俄かに荒くも弱弱しい息遣いになる。多分さっきの攻撃で、どこかの骨が折れてしまったんだ。
小さな紫色の小人も、この怪奇に踏み潰される。グチャリ、パツン。彼を成しているものが砕け、破裂して、壊れる音。トラックの分厚いタイヤに潰された、カエルのように。
「あ」
東雲の、湿気った視線がこちらへ向けられる。
「ああ……」
あの、冷たくネットリとした舌が、薄い薄い唇を舐めずる摩擦音。
「あああああ……」
東雲の酷薄な笑みを、感じた。その無機質な貌から。
私は涙を流しながら、逃げる。四つん這いになりながら、まだ心音のあるコヨーテの方へと向かった。
東雲は、私達を弄っている。ゆっくりと、確実に追いかけている。だからこそ余計に焦る。理性が汗で滑り落ちる。息を短く吸うほど、冷静は吐き出されていく。
ぐったりと倒れているコヨーテに、半ば抱き着く形で、彼女にすがった。
でも、それがどうだというんだろう?
状況は何も変わらない。
コヨーテはボロボロ。あの小さな子鬼はぐちゃぐちゃ。
私は、東雲を見上げる。
東雲が、表皮の剥げた爬虫類の貌を歪めた。彼の体から、また線状の触手が突き破って出てきた。軟体
のサボテンのよう。その魔手からは汚らしい粘液が、糸を曳いて床に滴る。
「ああ、たっぷりとヨがらせてやる」
腰から力が抜けていく。
この目には、希望は見えない。
あとがき
メメタァ!




